第三五話:「ゆっくり休んでいて下さい」
少し離れた所から、僕は彼女達の戦いの一部始終を観察していた。
僕から言う事と言えばまぁ……。
彼女達強くない?
お前が言うなって? まぁ話を聞いてくれ。
今現在僕が持っている力のほぼ全てがあの神様による天恵なのに対して、彼女達のスキルは完全に自分で手に入れた物だろう。
そりゃあ才能とかはあっただろうけど、誰にだって向き不向きはある。
僕の場合は、それを無理矢理植え付けられて補わされたに過ぎない。
だから、僕が彼女達と同じ環境にいたとしても、僕はあそこまで辿り着ける自信は無い。
と言うか、僕は極普通の女子高生だったんだから、絶対に無理。
なんて事を思っている間に、どうやら勝負は決着したようだ。
「お疲れ様でした」
戻ってくる二人に対し、労いの言葉をかける。
「じゃあ、二人はゆっくり休んでいて下さい」
「いえ、大丈夫です。それに、我が主を退屈させる訳には参りません」
「わ、私もどうって事無いわよ。まだまだ全然行けるわ」
うーん。片方は見え見えの痩せ我慢としても、もう一人の方だって疲労が無い訳じゃないだろう。
だからといってどうという訳でもないけれど、身体は大切にしてほしい。
なので。
「駄目です。疲れというのは、思いの外自分に負担をかけている物です。気付いた時には手遅れだった、なんて事になった日には、僕はもう慌てふためきますよ」
何だこの脅迫とも付かないような言い方は。
自分で言っておいて何だが、何を言ってるんだという感じだ。
「……分かったわよ」
「我が主のご命令とあらば……」
それで納得してしまうのが、彼女達なのだが。
この二人と言いマスターと言い、僕の周りにイエスマンが増えてきたように感じるのは気のせいじゃないだろう。
「では僕は岩場の方に行ってきますので。そんなに長くはいませんが、用があれば呼んで下さい」
そう言って僕は、彼女達をその場に残し歩いて行った。
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場所を移したのは、万が一にも彼女達を危険に晒したくなかったからだ。
これから僕がするのは、試し斬り、とでも言えばいいのだろうか。
恐らく誰も覚えていないであろう(というか、僕もついさっきまで忘れていた)あれ。即ち、神殺しの槍だ。
グングニル。
北欧神話の主神オーディンが持つとされる、百発百中一撃必中、そして再び持ち主の手元に戻ってくるという触れ込みの槍。
何故試し斬りなどするのかと言えば、ラスボスとの最終決戦にて、いざやろうとした時に使えませんでしたでは意味が無いからだ。
ずっと昔にそのような事があったため、以来一度は使用するようにしている。
では彼女達から離れる理由はと言えば、これもまた以前の出来事が関係していたり。
武器を試すようになったある回の事。僕はいつものように、神様からもらったとある武器を使ってみた。
その結果。
周囲の物体は綺麗に消し飛び、半径約五キロが焦土と化した。
辺りがその地域でも忌避される森林だった事が幸いし、(僕の知る限りでは)人的被害が発生する事は無かった。
とは言え、後々大騒ぎになった事は言うまでもないし、あくまで人的被害は無かっただけで被害は確実に生まれていた。
周辺の木々は根こそぎ消滅し、小動物、あるいは大型動物が巻き込まれていた可能性は否定できない。それでなくとも、その地域一帯の生態系は崩壊しただろう。
そういう訳だから、僕はこういう行為の際には最大限の警戒を払っている。
まぁ今回は物が物だし、伝承から言ってもそこまでの規模の被害は出ないと思うが、一応念には念をというヤツだ。
何事も、慎重になるにこした事は無い。なり過ぎるのも考えものだけどね。
という事で、例によって例のごとく、空間にひびを入れると手を突っ込み、それらしき物を探り当てて取り出す。
改めて目にしたそれは、随分と簡素で豪奢な造りになっていた。
一メートル程ある柄は、どれだけ金箔を貼ったのかと思う程輝いており、その上に、これぞ幾何学的と言わんばかりの複雑怪奇な紋様が描かれている。
対して刃先の方は、古代エジプトとかその辺の壁画にありそうなよく分からない絵柄が施されている事を除けば、極普通であると言ってよかった。
僕の体格でも扱いにくいという事は無さそうだし、持った感触も悪くない。
さて。ではこれをどうしようか。
僕の目の前には、三〇メートルぐらいの大きさの手頃な岩がある。
……いや、別に冗談で言ってる訳じゃないよ?
仮にも神様の使う武器がこの程度で壊れるとも思えないし、壊れた所で代替品はいくらでもあるんだから。
という訳で、槍は槍らしく本来の用途に従って、突いてみる事にした。
「ハァッ!」
サクッ、という音を立てて、刃先は軽々と岩に食い込んだ。
それはもうあまりにもあっさりと。
続けて二度三度とやってみるが、特に変化は無かった。
まるで、プリンか豆腐を刺しているような感覚。
そしてもう一つ、気付いた事がある。
それは、岩に跡が一切残っていなかったのだ。
何度やっても傷一つ付かない。確実に刺さっているのを確認しているのに、だ。
ま、この辺りで実験は終了かな。後は頭を使う時間だ。
グングニルをしまって別の武器を取り出すと、それを使って少し身体を動かす。
一五分程そうした後、僕は彼女達の元へと戻っていった。
以上で本日の投稿は終了です。
よく頑張った、自分!←




