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俺たちの冒険はこれからだ!(五三周目)  作者: 厨二×武力=はた迷惑
第二章
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第三四話:「とっておきのがね」

 まず先手を取ったのは王女の方。

 杖の先に幾つかの水球を生み出すと、一直線にそれを撃ち込む。

 彼女はそれを紙一重で躱すと、一息で王女の元まで迫る。

 右手に、順手で握った小刀を構えながら突進し、そのまま振り抜く。

 その行動を予測はしていたのか、ギリギリで反応し、杖で一撃を弾く。

 一瞬の交差の後、彼女は王女の横を走り抜ける。

 その動作につられ、王女が後ろを振り向いた所で———、飛んでくる刃が二本。


「……ッ!」


 咄嗟の反射で振るった杖にそれが当たったのは、偶然と呼んでいいだろう。

 何とか対応した王女が前を見ると、身体をこちら側に反転させた彼女が地面に着地する所だった。

 王女は即座に第二撃の用意をする。


(あんなに速く動かれちゃ、単発じゃ捉え切れないわね)


 そう考えた王女は、今度は躱されないように、自分と彼女の間に三メートル程の高さの壁を作り、その大量の水で押し流す。

 彼女は先程のように紙一重で避ける事も出来ない為、横に跳んで回避する。

 が、回避した先で彼女は、爆発を受けたかのように吹っ飛ぶ。


(クッ、何が……!)


 混乱するが、立ち止まって考えている暇はない。

 衝撃に逆らわず、王女との距離を更に離すと、神殿を囲っている柱の一本に飛び上がる。

 直後に、彼女が足を付いていた地面が何かに抉られる。


「……風、か。二属性使いとは珍しい」

「正解。でも分かった所で、関係無いわよっ!」


 ヒュン、という音が響く。

 その音に反応し身を捻るが、躱し切れずに、腕を切り裂かれる。


「不可視の攻撃、躱せる物なら躱してみなさい」


 身を捻った事で体勢が崩れ、重心が柱から外れる。

 それに合わせるかのように、数個の水球が再び彼女を襲う。

 このまま柱の上で無様に足掻いても、攻撃が当たるだけなのは明白だ。


(ならば……!)


 落ちる身体を堪えるのではなく、むしろ重力落下に身を任せる。

 そしてそのまま、柱を()()()()()()()


(そんな、無茶苦茶な……っ!)


 一発も食らう事無く地面に降り立つと、勢いを殺さず駆け抜ける。

 しかし、王女に向かっていった訳ではない。

 むしろ逆に、神殿内を縦横無尽に駆け回り始めた。

 その速さはどんどんと加速していき、身体能力的には一般人と変わらない王女の眼では、追うので精一杯な程だ。


(これじゃ捉え切れない!)


 時折水や風を操って攻撃を当てようとするものの、一度として彼女が受ける事は無い。

 そして、そのお返しとばかりに飛んでくる幾つもの刃。

 その全てが正確に王女の身体を狙ってくる。

 王女は段々と捌き切る事が出来なくなり、刃が腕や頬をかすめるようになる。


(このままじゃジリ貧だわ。仕方無い、あんまりやりたくなかったけど……)


 王女は意識を集中させる。

 その間も彼女は、柱から柱へと飛び回り、物陰から上から背後から、王女を狙ってくる。

 王女の周囲の地面には、既に何本もの短剣が刺さっている。

 そして彼女が柱から飛び降り、地面に着地する直前で、


(今だっ!)


 地面に突き刺さっていた短剣の一つに、思いっきり杖を叩き付ける。

 短剣は深々と食い込み、そこを起点として地面に亀裂が生じた。

 亀裂は一気に広がり、地面を崩壊させながら彼女を襲う。


「な……っ!」


 体勢を立て直している暇は無い。

 バランスも何も無いでたらめな動きで、間一髪上空へ逃れる。

 が。


「そんな体勢でおまけに空中じゃ、身動きも何も無いわよね」


 そう言って王女は、今までの数倍はある大きさの水を造り出す。


(獲った!)


 しかし。

 それが彼女に当たる事は無かった。

 何故なら、彼女の身体は———、()()()()()()()()からだ。

 水の塊は彼女の横を通り過ぎ、後ろの柱の上部に当たり消し飛ばす。

 だが、彼女にダメージは通っていない。


「何それ……。あり得ない……」

「『あり得ない』?」


 地上から一メートル程浮いた所で、彼女は王女の言葉を反復する。


「貴様の眼は節穴か? 自分の周りを、よく目を凝らして見てみると良い」


 言われた通り、王女は辺りを見渡してみる。

 すると、所々キラキラと光に反射する物が見えた。

 それは。


「……糸?」

「只の糸ではない。兄様特製の、強化鋼糸(ワイヤー)だ。ちょっとやそっとの事では切れはせん」


 糸は神殿中を通っており、彼女の身体にも何重と巻き付いている。


「あまり動かない方が良い。既に糸は張り詰めている。下手に動けば肉が断たれるぞ」


 言うまでもなく王女は動かない。

 否、動けない。

 肉が断たれる云々以前に、幾重にも巻かれた鋼糸が王女の動きを阻害しているのだ。

 少し力を入れるだけで、その綺麗な肌は血に染まるだろう。


「辺りを動き回ってたのも、これを仕掛ける為って訳?」

「更に言うなら、貴様に投げつけた刃物の類も、糸を身体に巻き付かせる為だ」


 王女は、フゥ、と息を吐く。

 確かに戦略では彼女に敵わなかった。

 けれどまだ、負けてはいない。

 まだ、終わっていない。


「何が可笑しい?」


 口元に笑みを浮かべた王女をみて、彼女は訝しげな顔をする。


「別に何も可笑しくはないわ。素直に感心してるのよ」

「……?」

「これじゃあ、私とアナタの実力差は歴然。それは確かにそう。でも、付け入る隙はあるでしょう?」

「何を言いたいか、理解に苦しむな」


 彼女はわざとらしく溜息を吐くと言葉を続ける。


「この状況で、逆転の一手があるとでも言うのか?」

「えぇ、勿論。とっておきのがね」

「何をする気か知らんが、今の貴様に出来る事など、せいぜい喋る事しか無いだろう」

「喋らなくても、魔法は使えるわよ」

「……フン、魔法か。だが言っておくが、その杖にも鋼糸は巻き付いている。そんな状態では、私に狙いをつける事は難しいだろう」

「……」

「それに、もし仮にそれが出来たとして、水や風程度どうとでもなる」


 ハァ、と王女は再び息を吐く。

 ただしそれは、決して諦めの気持ちなどではない。

 仕切り直しの合図、反撃の第一歩だ。


「アナタの言う通り、それらじゃどうにもならないでしょう。でも……、これならどうかしら?」


 ボゥッ、という音と共に、彼女の杖の先に火が灯る。


「……! 貴様、二属性ではなく三属性か」

「えぇ。奥の手は最後まで隠しておくものよ」

「だが、そう易々と燃え尽きる程、柔な物ではないぞ」

「やってみなきゃ分からないでしょ」

「下らん」


 彼女はクイッと、オーケストラの指揮者がタクトを振るかのような動作を見せる。

 途端に、身体に巻き付いていた糸は王女を締め上げる。


「痛……っ!」

「早く負けを認めろ。私とて、好きでこのような事をやりたくはない」

「……誰が!」


 痛みをこらえながら、息も絶え絶えに王女は言葉を紡ぐ。


「別に、燃やし尽くす必要は、無いわよ。それが出来れば、最善なんでしょうけど、そこまで上手く、事が運ぶとは、私も思ってないわ」

「ならば、どうする気だ?」

「簡単よ。この糸は、アナタ自身の手で張った。なら、経路はどうあれ、最終的には、アナタの手元に辿り着く事に、なるでしょ」


 彼女が意味を理解すると同時、杖に巻き付いていた糸に炎が燃え移った。

 炎は、てんでバラバラにあらぬ方向を経由しながら彼女の方へ、正確には彼女の指先に向かって走っていく。


「……っ!」


 ぞくり、と。

 彼女の全身を悪寒が駆け巡る。

 即座に糸を指から離す。

 支点を失った事で糸は緩み、彼女の足場は崩れ王女を拘束していた物は無くなる。


(行ける!)


 杖を構え直すと、火球と、それより一回り大きい水球を生み出し彼女に放つ。

 それは彼女に当たる———直前で、互いにぶつかり合った。

 そして発生したのは、


(水蒸気……!)


 気化した水蒸気は常温の空気に触れ、白へと色を変えていく。


(これで目くらましくらいにはなるはず。一旦引いて体勢を立て直し……)


 しかし、王女はそこで考え直す。


(……じゃない! それじゃ最初に戻るだけ。なら、ここで仕掛ける!)


 杖を握り直すと、彼女がいるであろう場所へと走る。

 ぼんやりと煙に映る影に向けて、渾身の力を込めて炎を叩き付ける。

 放たれたそれは煙を払い、地面を削る。

 しかし、そこに彼女の姿は無かった。


(いない!? 一体どこに———)


 王女が辺りを見渡……そうとした瞬間、首元に冷たく尖った刃が突きつけられた。


「惜しかったな」


 背後からそう声をかけられる。


「目くらましのアイデア自体は悪くない。だがそこで、すぐにでもあの場から離れなかったのが貴様の失態だ」

「……ハァ」


 王女は三度息を吐く。

 それは今度こそ本当に、諦めの溜息だった。

 そして王女は言う。


「参った。私の負けよ」


 それは、はっきりとした敗北宣言だった。

分かりにくかったかもしれませんが、今回は三人称視点です。

これからも度々こういう形式が出てくるかもしれませんので、あしからず。

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