第二七話:「どういう意味でしょう?」
街の外へ出るため、僕らは門へと向かう。
「にしても、ここは結構魔物の討伐依頼が多いですね」
「そうかしら? まぁ、他に比べればここは比較的魔族領に近い場所だから、当然といえば当然かしらね」
「へぇ、そうなんですか」
「えぇ。そして、魔物の生息数が多いって事は、それを討伐する冒険者の数も多いって事。だから自然に、魔族領に近い地域は町が栄えるのよ」
「冒険者の衣食住を整えるために、そういう商人達も集まってくるってことですか」
「付け加えるならば、それだけ危険度も増すという事ですが。世の中何事も、ローリスクハイリターンとはいかない物です」
「近域に魔物がいる以上、どうやったって真っ先に魔物に攻め込まれるリスクは拭えないもの」
「なるほど。甘い汁だけを、いつまでもすすえる道理は無いですからね」
そんな会話をしながら、大通りに差し掛かった所だった。
「キャッ」
「おぉっと」
曲がり角で不意に、先頭を歩いていた王女が尻餅をつく。
どうやら、人にぶつかったらしい。
「……っと。大丈夫ですか?」
倒れてしまった王女に手を差し伸べて起こす。
「すみません、こちらの不注意———」
「あぁん!? 何やっちゃってくれちゃってんのぉ?」
僕の言葉を遮って、男の甲高い声が響く。
「おいおい、この鎧に傷でもついてたらどう責任取ってくれんだ、あぁ!? 金貨五枚はする超高級品だぞ」
どう見ても安物のそれを、男は見せびらかすかのように声を張り上げて言う。
彼の連れらしき数人も、同調して煽り始める。
「やっちまっちゃったなぁ、嬢ちゃん達」
「えぇ、ですから申し訳ないと……」
「あれあれ〜? よく見たらこれ傷ついちゃってんじゃん。あーあ、こりゃ弁償だな」
「……謝罪だけでは足りないですか?」
「足りる訳ねーだろバーカ。ごめんで済むなら世の中法律なんざいらねぇんだっつの」
僕は心の中で溜息を吐く。
よりにもよって、面倒な輩に出会ってしまったようだ。
道行く人々の中に、僕らを助けようという人はいない。誰もが見て見ぬ振りをして過ぎ去って行く。
まぁそれも当然だ。誰だって、面倒事や厄介事には巻き込まれたくない。
そして、僕もその事について責める気はない。
今はともかく、昔の———力の無い頃の僕なら、彼らと同じようにしただろうから。
そんな事より、目下僕の心配事は別の所にある。
「まぁでも、俺らだって鬼や悪魔という訳じゃない。それなりの誠意ある対応を見せてくれれば、穏便に済ませてやるのもやぶさかじゃねぇんだぜ?」
「『誠意ある対応』、というのは、どういう意味でしょう?」
「言葉通りの意味さ。わざわざ言う程の物でもないだろ?」
「ちょっと待ちなさいよ!」
今まで黙っていた王女が、意を決したように大声を上げる。
「確かによそ見してたこっちも悪いけど、それはそっちだって同じじゃない」
「おいおい、言い掛かりは良くねぇぞ、お嬢ちゃん」
「そうそう。素直に俺たちに従っとけば、何にも悪い事にはならねぇんだから」
予想通り、言い包められているが。
こういう場合、大抵は言った者勝ちなのだ。
そしてそういう意味では、こういう事を専門にしていると言ってもいい(偏見)彼らに、僕らの勝ち目は無い。
まぁ対処法が無い訳でも無いのだけれど、あまりお勧めはしたくない。
何せ、これは対処法というより———。
「じゃあ話も纏まった事だし、そろそろ行こうか」
そう言って、男の一人が僕に手を伸ばす。
そして、指が僕に触れる———寸前で、ボキリ、と嫌な音が鳴った。
「薄汚い手で我が主に気安く触れるな、ゴミ屑が」
対処法というより対症療法、———武力解決なのだから。
「ぎっ、ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!!」
男が盛大な悲鳴を上げる。
そのあまりの音量に、周囲の人々は何事かと顔を向ける。
まぁ何と言うか、やったというかやってしまったというか。
何故彼が悲鳴を上げたかと言えば、彼の五指が全て、普通の人間ではあり得ない方向に曲がっていたからなのだが。
「ああああああ!!!! 痛え痛え痛え痛え、チクショウ、何しやがんだクソガキ!」
「それはこちらの台詞だ。虫けら如きが我が主に触れようなど、身の程知らずにも程がある。自らの立場を弁えろ」
「〜〜〜〜〜〜〜っ! ぶち殺す!!」
そう叫ぶと、彼は腰の剣を引き抜く。
それを見て、その背後の数人もそれぞれ武器を取り出す。
が。
それらが振り下ろされる前に、キィン、という甲高い金属音がする。
一瞬遅れて、彼らの持っていた武器が全て真っ二つになった。
呆気にとられる彼らを前に、黒装束の彼女は悠々と語る。
その手にはいつの間にか、一本のクナイが握られていた。
「さて、次はどこがいい。腕か? 脚か? 胴体か? 喉仏か? それとも……、今すぐにでも心臓を貫こうか?」
「ひ……っ!」
どこからか小さく悲鳴が漏れる。
それは痛みか、憤りか、恐怖か。
真実は恐らく、言った本人にも分からないだろう。
「うああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!」
突如、一人の男が奇声を上げ、既に使い物にならなくなっている武器を手に突っ込んできた。
この空気に耐えられなかったのか、この空気をどうにかしたかったのか。
いずれにしろ、彼の目論見が達成される事は無かったが。
「はい、そこまでです」
と言うか、阻止したのは僕なのだが。
まぁ僕がした事と言えば、二人の間に割って入り、少しばかり武器で威嚇しただけだ。特に大した事はしていない。
彼らが戦意を喪失したのを見計らい、僕は指を折られた彼に向き直る。
「ここはお互いに痛み分けという事で、大人しく引きませんか?」
「……何だと?」
「僕らには、あなたの鎧の修理代や、指の治療費の足しになるようなお金は持ち合わせていないんです。次に会った時に、持ち合わせがあればお支払いしますので」
そう言って、最上級の営業スマイルを浮かべる。
これで、大抵の男は一発で落ちる。……はずなのだけど。
「フン、覚えてやがれ」
そう捨て台詞を吐くと、仲間に連れられながら彼は消えて行った。
う〜ん、やっぱりこういう類の世界は、美形耐性があるのかな、などととりとめの無い事を考えていると。
「何故止めたのです、我が主」
当然の事ながら疑問が飛んでくる。
「何故と言われましてもね」
「あのウジ虫共は、事もあろうに我が主に触れようとしたのですよ!? あのような無礼者を、わざわざ見逃すような事など……!」
「そ、そうよ! 殺すとまではいかなくても、あんな奴ら、もう少し痛めつけても良かったじゃない」
「……」
彼女達が、僕の事を心配してくれているのはよく分かる。
でも、こんな僕でも、ほんの少しの下らない主義くらいは持っているんだ。
「二人共、聞いて下さい」
「「?」」
不思議そうな顔をする二人に僕は言う。
「僕は争いが嫌いです。必要であれば善人だろうと容赦なく殺しますが、必要無ければ悪人でも殺したくはないんです。僕の考えに付き合う必要はありませんが、僕の前ではこれは守って下さい」
まぁ、そんな僕が善人であるかどうかは甚だ疑問だけれど。
それだけ言って、僕は歩き出す。
「どうしました、先に行きますよ?」
そう声をかけると、彼女達はハッとなって我に返る。
「ふ、ふん。いいわよ、仕方無いから付き合ってあげるわよ」
「我が主がそう仰るのならば、私には是非もありません」
「……そうですか。では行きましょうか。早くしないと日が暮れてしまいますからね」
言って僕は二人を連れ、再び街の外へと向かう。
その背後に、一瞬だけ人の気配を感じながら。
主人公が女の子だとバラしたらやりたかった事その一『ナンパ&撃退』、無事(?)達成されました、三〇話目です。
この書き方も久しぶりな気が……。まぁそれは置いておいて。
登場人物に名前が無いって凄く大変!と思ってしまった作者です。
でももう来る所まで来てしまったし、どうしようもないな、うん。
では次回をお楽しみに。ご意見ご感想ご質問いつでも受け付けています。




