第二二話:「分かってもらえましたか?」
気付いた時には、既に終わっていた。
急所を狙って振り下ろしたはずの小刀は、いつの間にか手の中から消え、私の首元に突きつけられていた。
薄皮一枚切る事無く、しかし少しでも動けばその瞬間首を落とされる。そんな距離に、刃を構えられていた。
私でこのザマだ。
奴を挟んだ向こう側にいるアイツならあるいは、何が起こったかぐらいは分かっただろうが、それでも結果だけを見れば私と変わらないだろう。
「僕の実力、分かってもらえましたか?」
私たちに一瞥もくれる事無く、奴は雇い主を見据えていた。
================
「僕の実力、分かってもらえましたか?」
そう言って彼を見る。
瞬間、僕は彼に目をやった事を後悔した。
彼が僕を見る目は、珍しい生き物を見た時の人間の目その物だった。
目を背けたくなる程の不快感を押し殺し、よくある事だと自分に言い聞かせて笑顔を作る。
「いかがですか、王様」
僕は再度問いかける。
すると彼は、醜く笑ってこう言った。
「気に入った。貴様、俺の妻になれ」
途端に辺りがざわめいた。
彼を諌める声が、そこら中で飛び交う。
だが彼は聞く耳を持たず、先程の視線でこちらを見つめてくる。
いや、訂正しよう。
あれは、珍しい生き物を見る時の目ではない。
男が女を、欲望の捌け口として見る時の目だ。
女。
そう、女だ。
僕は正真正銘、誰がどこからどう見ても女だ。
だから、『女性としては身長の高い神様の胸』に『平均身長の僕の顔が埋まる』し、
『そこらの俳優(女優だって俳優の内だしね)』が全裸で土下座する。
ことあるごとに、『お嬢ちゃんと呼ばれる』し、
マスターみたいに『同性愛の気』は無い。
そういう訳だから、彼が僕を見る目に、何らおかしい所は無い。
でも、おかしくないからと言って、それを許容できる女性は、この世に一人もいないと思う。
僕だって、その一人だ。
だから、僕は言う。
辺りが未だにざわつく中、僕はよく通る声で呟いた。
「お断りします、変態野郎」
しぃん……、と。
話し声がピタリと止んだ。
そして一斉に、今度は僕に向かって、非難の声や罵声が浴びせられる。
僕は、それら全てを澄ました顔で聞き流す。
「静まれ」
彼のその一言で、全ての音が止んだ。
それを見届けたかのように、再び彼は口を開く。
「本来なら、貴様のような無礼者は、不敬罪で今すぐ処刑されてもおかしくはないのだがな」
「分かってますよ。それがどうかしましたか?」
「いや。その度胸と美貌に免じ、今ここで俺に服従を誓えば、その罪不問にしてやらんでも無いが」
「なるほど」
どうやら、彼はどうあっても、僕を自分の物にしたいらしい。
でも、そんな物は絶対にお断りだ。
だから僕は一歩踏み出し、彼の眼前に立つ。
彼が息を呑む気配が伝わる。
僕は、手に持っていた小刀を、彼が腰掛けている椅子の背もたれに突き立てる。
カッ、という軽い音を立てて、小刀が突き刺さったのは彼の頬のすぐ横。
そのまま横に引けば、それで彼の顔を真っ二つに出来る位置。
その位置に小刀を固定したまま、僕は言う。
「次。そんなふざけた事をぬかしたら、あなたの首は即座に飛びますよ」
ヒッ、という悲鳴が、彼の口から小さく漏れる。
「あなたは仮にも、一国の王でしょう? なら、懸命な判断を期待していますよ」
そう言うと僕は、小刀を引き抜き、彼の返事を待たずに出口へと向かう。
「や、奴を取り押さえろ!」
誰かが言葉を発した。
多分、王の近くにいた大臣らしき人物達の一人だろう。
その言葉で、拘束が解けたかのように、部屋の中にいた兵士達が一斉に僕に飛びかかる。
その殆どが武器を構えている。
「殺せ」なんて命令は出てなかったはずだけど。
まぁ、どちらでも良いか。
手に持っていた小刀を床に落とし、ゆっくりと空いた両手を広げる。
そして、その両手を軽く打ち合わせる。
パン、という音が響く。
一瞬遅れて、僕を中心に強烈な突風が巻き起こる。
一番近くにいた兵士数人は、もろに食らって勢いよく吹っ飛ぶ。
残りの兵士も、余波を受け、あるいは他の者に巻き込まれ、見る見る内になぎ倒されていく。
風が通り過ぎ去ったのは一瞬。
その一瞬で、大半の兵士を無力化する事が出来た。
「ま、上々かな」
そう小さく呟くと、僕は再び出口に向かう。
が、その途中で立ち止まると、
「一つ、付け足しておきます」
と言う。
そして、薄く笑いながら言葉を続ける。
「あなたの欲望の対象が僕じゃなくても、僕の耳に届いた時点で、消しにいきますから」
そのまま、振り返る事無く扉へ歩いていく。
途中、呆然としていた彼女———第三王女に声をかける。
「ギルドに行ってます。付いて来たければ、ご自由にいらして下さい」
そう言い残して、僕は王宮を立ち去っていった。
ついにやってしまいました。反省はしてますが後悔はしてません!
まぁ、皆さん多分予想してたと思うので大丈夫ですよね。←
……本当にすいませんでした。orz あ、待って、見捨てないで!
コホン。えー、失礼しました。
次回は久しぶりに閑話を入れて、それで第一章を終わらせたいと思います。多分。
それではまた(無事に更新できれば)次回、お楽しみに。




