第二一話:「一応、聞いておきたいんですけど」
「一応、聞いておきたいんですけど」
街の中心部に向かって歩きながら、僕は彼女に尋ねる。
「何かしら?」
「さっき門の所で、『王女』って呼ばれてましたけど……、あれって本当なんですか?」
「えぇ、そうよ。言ってなかったかしら?」
僕の質問に、彼女はあっさり肯定した。
「言ってなかったも何も、会ったのがつい数刻程前の事ですからね」
「それもそうね。まぁ、詳しくは後で話すけど、正確には私は『皇女』ね。第三皇女だから、王位継承権はそれほど無いけどね」
「へぇ……。ちなみに、王位継承権を持っている人は、あと何人いるんですか?」
「皇子が一三人、皇女が八人。一応、私は正妻の子だから比較的高い位置にいるだけで、年齢で言えば、下から数えた方が早いわね」
「あぁ、なるほど」
「何が『なるほど』なのよ!」
言葉と共に振り下ろされた杖の先端を、片手で受け止めながら答える。
「いえ、どう見ても見た目が子ど———」
「子供って言うな!!」
受け止められていない方の先端を上に跳ね上げ、丁度僕の顎を狙ってくる。
仕方無く、僕は空いているもう片方の手で、それを抑え付ける。
「こんな往来で暴れないで下さいよ」
「自業自得よ!」
……明らかに、向こうの方が悪いと思うのだが。
まぁ、半々という事にしておこう。
そんな風に話しながらしばらく歩いていると、突然目の前の道が開けた。
思わず立ち止まると、眼前には、巨大な城がそびえ立っていた。
そんな僕に構う事無く、彼女はどんどんと先へ進む。
慌てて跡を追うと、彼女は少し先の門の前で立ち止まった。
その門は、街の入り口の扉とは比べ物にならない程、大きく重厚そうだった。
そして彼女は振り返ると、
「いらっしゃい、王族の庭園へ」
と、感情を押し殺した口調でそう言った。
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外観もそうだったが、内装もきらびやかその物だった。
きらびやかすぎて、逆に不快感を覚える程だ。
至る所に、絢爛豪華な調度品、美術品、装飾品の数々。
一体どれだけの金をかければこんな風に出来るのかと、呆れて物も言えない。
体内時計で三〇分程歩いた頃だろうか(長っ!)。
ようやく、目的の場所が近づいてきたようだった。
とは言っても、目的の場所を知っていた訳ではない。
建物の中を進むにつれ、少し前を歩く彼女の足取りが重くなり、表情が強ばっていくのが分かったからだ。
そして彼女は、とある一つの扉の前で立ち止まった。
その扉は、一面白一色で出来ており、そこだけ余計な装飾は付いていなかった。
扉の脇にあった、掌大の水晶に彼女は手をかざす。
と。
ゴゴゴ……、という重苦しい音を立てて、扉がゆっくりと開いた。
静脈認証装置のような物だろうか、と勝手に想像を巡らしながら、開いた扉に目を向ける。
が、直視するのは一瞬で諦める。
何故か。単純な事だ。
そこはあまりにも眩しすぎた。
まるで、真昼の太陽の如き明るさ。
これが現代なら、一体どれだけの電気代を食っているのか、想像もしたくない。
数秒は、手をかざしたまま動けなかった。
ようやく目が慣れてくると、彼女は既に数歩前にいた。
それに付いていこうと、僕は一歩を踏み出した……所で、全方位を、武装した兵士に取り囲まれた。
ガチャガチャ、という金属が触れ合う音が辺りに響く。
だが、別段慌てるような事ではない。
門の所でも止められたし、城内に入ってからも何回かあった。
「止めなさい」
彼女の静かな声が、周りの兵士達の動きを止めた。
「その方は私の客人です。無礼な真似は許しません」
途端に辺りがざわつく。
兵士達の間にも動揺が走っていたが、しばしの逡巡の後、槍を収め、元の位置に戻っていった。
包囲が解けたので、僕は彼女へ近づいていく。
「助かりましたよ。ありがとうございます」
「フン、あなたなら力ずくで強行突破できたでしょう」
「いえ、あまりそういうのはやりたくなかったので……」
小声で言葉を交わすと、正面を見据える。
彼女は更に数歩進み、膝をついて頭を垂れる。
僕はその場で直立不動だ。
「ただ今戻りました、父上」
「うむ、よくぞ戻った」
厳かで気品があり、聞く者を畏怖させる声。
だがそこに、労いの気持ちは一切無かった。
挨拶をされたから自分も返す。その程度だった。
そこから先は、聞くに堪えない会話だった。
親子の情など微塵も感じられなく、世間話というよりは腹の探り合いと言った印象を受けた。
そしてその間、他の者は一言も発する事は無かった。
「……そうか。して、後ろの人間は誰だ?」
ようやく僕に話が及んだ。
僕は一歩前に出ようとするが、彼女がそれを目で制する。
そして、再び目を戻すと、
「この度、東の森にて修練中に出会った者です。名は———」
「あぁ、名などどうでも良い」
彼女の言葉を途中で遮り、王は言った。
「先程お前は、その者を『客人』と言ったが、どのような意味の客人だ?」
「……、正確には、これから私の魔法の修行に置いて、師匠となってもらおうと考えています」
「ふむ、師匠とな」
彼は、僕を舐め回すような目つきで見ると、
「そこの宮廷魔導師では不満かね?」
と、少し離れた位置に控えていた、ローブを纏った小柄な老人を見やる。
視線を向けられた老人は、ビクッ、と身体を震わせる。
「いえ、不満という訳ではありません。ただ、彼よりもこちらの方が、学ぶにあたり有益と判断しましたので」
「お前の独断でか」
彼は、明らかにこちらを見下すように言う。
「何、拒否するつもりは無い。こちらとしては、お前が強くなってくれればそれで良いのだから。ただ……」
ゆっくりと背もたれから身体を起こして、彼は言葉を続ける。
「どこの馬の骨とも知れぬ輩に、そのような実力があるとは到底思えんのでな」
スゥ、と右手を軽く上げる。
と、音も立てずに、彼の背後に二人の男女が現れた。
男の方は髪を短く整えており、女の方は腰まである長髪をポニーテールに結んでいた。
どちらも黒髪で、全身を黒装束で覆っていた。
僕のイメージから言えば、忍者に近い感じだ。
所々から覗く身体や移動の仕方から、相当鍛えられているのが分かる。
「悪いが、試させてもらうぞ」
悪い等とは欠片も思っていなさそうな口調で、彼はそう言った。
「……ッ、お待ちください!」
彼らの姿を見た途端、彼女は声を荒げた。
「いくら何でも。彼らでは相性が悪すぎます! せめて別の者を———」
「俺に逆らうのか?」
その一言で、彼女は押し黙ってしまった。
「納得してもらえたようで何よりだ。では、始めようか」
その言葉と同時に、彼の背後にいた二人の姿が掻き消える。
そして次の瞬間には、二人は僕の左右から迫っていた。
いつの間に取り出したのか、男は右手、女は左手に小刀を構え、僕を狙う。
彼女が何かを言う間もなく、二つの小刀は振るわれた。
今回のあとがきで、「文字数が二千弱で安定してきました」と書こうと思ったら、この回で三千近くまで行ってしまいました。orz
しかも、もう少し追加してしまおうかと思ってしまった次第です。
文字数って、大体どのくらいが読みやすいんですかね?




