第二〇話:「危ないですよ」
厄介な連れができてしまった物だ、と僕は思った。
これで、少なくとも魔王を倒すまでは、一緒にいる事が確定してしまった訳なのだから。
どこか適当な所でほっぽり出すというのは、最初から選択肢に無い。
ほっぽり出すなら、最初から一緒について来る事は許可しないし、それができないのが、僕という人間なのだ。
そんな事を考えながら、僕らは街の入り口まで戻ってきた。
……のだが、そこでふと思った。
「そういえば、あなたはここに入れるんですか?」
「? どういう意味よ?」
「いえ、ここは一応身分の証明とかが求められるみたいなので、そういうのを持っているのかなと」
「あぁ、それなら大丈夫よ。問題ないわ」
彼女がそう自信満々に言ったため、僕は彼女に先に入るよう促して、少し離れた位置で見守る事にした。
彼女は、何の気無しに門番に近づいていくと、道ですれ違った人に、挨拶でもするかのような気楽さで話しかけた。
僕が呆気にとられる間もなく、相手も気さくな調子でそれに応じた。
何だ、あの門番と知り合いなのか。なら、もし何も持っていなくても大丈夫だな。
僕はそう楽観視しながら、様子を窺っていたのだが、数分後、何やら雲行きが怪しくなってきた。
一向に通してくれそうな気配がないし、会話がいつの間にか口論に発展しているような気がする。
仲裁に入る気は無いが、会話の内容は気になるため、耳をそばだてる。
だが、いかんせん距離があるので、途切れ途切れにしか聞こえない。
「……何…アンタ、たか…門番の……際で、こ…私に逆ら……ての!?」
「で…から、いく…王女さ…でも、おと……することは出来……んです!」
……今、王女って言葉が聞こえたんだけど。
僕的『異世界において、関わったら面倒な事になる単語』ランキング、トップ一〇入りを果たしている単語が聞こえたんだけど。
何この面倒くさくなりそうな展開は。
「いい…ら、さっ……どき…さい!」
よく聞こえなかったが、多分「そこをどけ」的なニュアンスの言葉を言ったんだろう。
そして、それと同時に、彼女は手に持っていた杖を振りかぶり、門番の鳩尾に思いっきり叩き込んだ。
ドムッ、という鈍い音と、「グフッ」という低い呻き声が聞こえ、門番が地面に倒れ込んだ。
「ふぅ……。手間かけ……んじゃな…わよ」
そう言って彼女は、倒れている門番を放置して、中へと入っていった。
扉が閉まり、彼女の姿が見えなくなったのを確認すると、僕は急いで門番に駆け寄った。
「ど、どうかしましたか?」
「ん? あぁ、アンタか。何、大した事じゃねぇよ」
「……そうですか」
ちなみに、僕が何も知らない一般人を装っているのは、少しでも面倒な事から離れようという考えからだ。
まぁ、殆ど意味はないのだが。
門番は、顔をしかめながら、お腹をおさえて立ち上がり、
「見苦しいトコ見せちまって、悪かったな」
と笑った。
流石門番。腐っても鍛え方は並じゃないという事か。(腐ってるというのは僕の偏見だけど)
「いえ、そんな事は無いです。それより、僕の事覚えてるんですか? 確か、まだ数回ぐらいしか会ってなかったはずですけど」
「アンタ程顔立ちが整ってりゃあ、大抵の奴は一発で覚えるよ。それに俺は、半分人の顔を覚えるのが仕事みたいなもんだからな」
「そうなんですか、お疲れ様です」
「いや、そっちこそ。気ィ付けていけよ、……って、戻ってきたトコか」
そう言って再び笑うと、門番は扉を開けて中に僕を入れた。
あの人も苦労しているんだな、と、閉められた扉を見ながらしみじみ思った。
と。
横合いから、いきなり声をかけられた。
「遅いわよッ!」
そして、僕の顔のすぐ横を、ブォン、という音と共に、一迅の風が通り過ぎた。
「……」
僕の頬を、一筋の汗が伝う。
あと数センチずれていれば、完全に顔面直撃コースだった。
「……何するんですか。危ないですよ」
冷や汗を拭いながら振り向くと、案の定そこには彼女がいた。
「あなたが遅いのが悪いんでしょ! 何をチンタラやってたのよ!?」
「あなたがやった事の後始末ですよ。それが無ければ、もっと早く来れてました」
「そんな事知らないわよ。それより、早く行きましょう」
そう言うと彼女は、街の中央に向かってズンズンと歩き出した。
「どこに行くんですか? ギルドはそっちの方向じゃありませんよ」
「分かってるわよ。誰がギルドに行くって言ったのよ」
「じゃあどこへ?」
「そんな物、決まってるじゃない」
首を傾げる僕に、彼女は振り返ってこう言った。
「王宮よ!」




