第一九話:「僕には必要無いですから」
「———えっと、よく聞こえなかったので、もう一度言ってくれますか?」
「私を弟子にして下さい、お願いします!」
先程と、一文字も違わぬ返答が来た。
……うん、どうやら僕の聞き間違いという事は無さそうだ。
「……何で、いきなりそんな発想が出てきたんですか?」
「『何で』?」
彼女は、ガバッ、と顔を上げると、ザザザザ、と僕に近づいてきて、
「決まってるじゃないですか! 今まで誰一人として辿り着けなかった高みに、あなたは立っているんですよ? 近接戦闘職と後方支援職の両立。しかも、あなたは近接戦闘職がメインだというのに、魔法も下手をすれば、いや、しなくとも私より上の実力。こうして出会ったのも何かの縁、いえ、これは最早運命! ならば、弟子入りせずして何をするというのでしょう!」
「見なかった事にしてスルーしてほしかったですね」
軽く引くぐらい一気に語り出した彼女に、若干の恐怖を覚えながら応対する。
「あの、とりあえず敬語は止めてもらっていいですか?」
「どうしてですか!? 弟子が師匠に敬語を使うのは当然でしょう! というかむしろ、何で師匠が私に敬語を使うんですか!」
「僕の敬語はデフォルトですし……。それに、あなたを弟子に取った記憶は無いんですが」
「そ、そんな事言わないで下さい!」
彼女は涙目になって訴えてきた。
こういうのに弱いんだよなぁ、僕。
でも今回は耐えないと。
「駄目な物は駄目です」
「わ、私、色々お役に立ちますから」
「僕には必要無いですから」
「そ、そうだ。こう見えても私、家事とか出来る子なんですよ。身の回りのお世話とかしますから」
「自分で出来ます」
「私を弟子に取ったら、修行にかこつけて、私のあんな所やこんな所も触り放題ですよ?」
「……」
触るような所なんて無いじゃないか。
それに、僕にそっちの趣味は無いし。
「な、何なら夜のお供もして差し上げますよ? 添い寝とかどうですか、添い寝?」
「……」
だから必要無いって。
「け、経験は無いですけど頑張りますから!」
「……」
何の経験だ……。
ていうか何のアピールだ、何の。
「お願いします! 何でもしますし、何でも言う事聞きますから〜」
ついに泣き出してしまった。
だからこういうのは苦手なんだ。
「ハァ……」
僕は小さく溜息を吐くと、
「分かりました。弟子には取りませんが、そばにいるくらいの事は許可します。それで良いですか?」
と言う。
途端に彼女は顔を輝かせて、
「本当ですか!? ありがとうございます!」
と、ペコリと頭を下げた。
「でも、側に置くのには、少し条件があります」
「? 何ですか?」
「さっきあなたは、『何でも言う事を聞く』って言いましたね」
途端に彼女は、胸を腕で隠し、僕から一歩下がった。
「な、何する気ですか? 言っときますけど私、初めては好きな人とって決めてるんです」
「いや、そういう事じゃないですから」
ていうかさっきのアピールは何だ。嘘か。
「とりあえず、さっきも言いましたけど敬語は止めて下さい。何か違和感があるので」
僕とキャラが被るんで、とは死んでも言えない。
それに、建前の方だってゼロではない。
「分かったわ。それで、後は何をすれば良いの?」
「いえ、今の所はそれだけです」
「へぇ、そうなの。ふーん」
というか早っ。順応早っ。
まぁ、多分こっちが彼女の素なのだろうから、当然と言えば当然か。
「じゃあ関係も決まった事ですし、早速ですが、この群狼の剥ぎ取りを手伝ってもらえますか?」
「嫌よ。何で私がそんな事しなくちゃいけないのよ?」
「それではこの話は無かったという事で」
「是非やらせて下さいお願いします」
立ち去ろうとする僕の服の裾を掴んで、引き留めようとする彼女。
結局、厄介な荷物が出来てしまったなと思い、僕は再び溜息を吐いた。
あ、この後、彼女はちゃんと手伝ってくれました。
順調に回を重ねていった結果、とうとう二〇話を超えてしまいました。
それは良い事なのですが、折角『プロローグ』、『第一章』と銘打ったにもかかわらず、区切りどころが分からずに二章にいけない状態です。
どうしましょう?ww