第一六話:「殺してあげるから」
町の外に出た僕は、人目につかない所に移動する。
別に隠れる必要があるのかと問われれば無いと答えるのだが、まぁ何となくだ。
今回僕が受けた依頼は、群狼の討伐。
この魔物は、単体ではそれほど強くはない。戦闘に慣れている者なら、一撃で倒せる程度だ。
では、何故この魔物の討伐がBランクに指定されているのか。それはひとえに、数の多さにあると言えるだろう。
この魔物は、常に群れで行動する。
少ない群れで一〇匹、多い群れでは、三、四〇匹は固まっている。
おまけに、群れの中の一匹が統制をとっており、連携も抜群だ。
群れを仕切っているリーダーは、他の個体と比べて段違いに強い事もあり、その個体に限り、闘狼と呼称される事もある。
また、群狼とよく似た種類の魔物に、軍狼と呼ばれる魔物もいる。
こちらは、性質は群狼とよく似ているが、一体一体の強さが群狼の比では無く、熟練の冒険者でもやられる事がある。
なのでこちらは、Aランクに指定されている。
長々と話してしまった訳だが、僕が隠れている事の、何の説明にもなっていないじゃないかと思わないでくれ。
それはこれからちゃんと説明する。
さて、この群狼だが、生息地がかなりここから遠いのだ。
普通に行けば、片道四日はかかる。
普通はそれでも問題ないのだが、いかんせん今は依頼の期限が迫っているのだ。
ちんたら歩いて間に合わなければ、違約金を払う事になってしまう。それだけは何としても避けたい。
なので、神様からもらった能力その……、いくつだっけ? まぁとにかく、『転移』を使ってひとっ飛びしたいのだが、他人に見られると、多少まずいかなーという気持ちがある。
だからこうしてこそこそしている訳だ。
ちなみに、通常はバカ高い料金を払って『魔法石』という物を購入し、それに魔力を込める事で転移するという物だ。
料金は、一個銀貨五〇枚。一度で何人でも跳べるが、一個で一度しか使えないと言う代物だ。
ギルドから借金出来るし、高ランクな依頼を達成すればそれで元が取れる額だが、それでも敷居が高い事に変わりはないのだ。
そんな訳で、僕は路地裏まで来ると、『転移』を行使する。
と言っても、そんなに難しい事をする訳ではない。
頭の中で、行きたい場所を思い浮かべればそれでいい。
目指すは東の森。
一瞬の浮遊感の後に、僕は、周りに鬱蒼とした木が生い茂る硬い地面の上に立っていた。
まさしく、いかにもな場所だ。
まずは群狼を探す所からだ。
彼らの見つけ方は簡単だ。
狼系に限らず、野生に生息している魔物は、血の臭いに敏感だ。
僕らの世界でいえば、鮫なんかは(地上水上の差はあるだろうが)数キロ先の血の臭いを嗅ぎ取れるそうだとか。
魔族がそうでないかと言えばそんな事はないのだが、野生の魔物の方が、その傾向が強いという事だ。
おまけに、狼系は同族以外と群れる事は好まないので、他の魔物がよって来る事もない。
適当に当たりを付け、その方向へ進む。
少し進んだ所で立ち止まり、懐から小振りのナイフを取り出す。
それを人差し指に当て、軽く押す。
プツ、という皮が切れる音がして、一筋の赤い血が流れ出す。
それは指を伝って流れ落ち、硬い地面に吸い込まれる。
流れ出る血を眺めながら、その場に立ち尽くす。
遠くの方で、狼の遠吠えが聞こえた気がした。
数分後、僕は大勢の狼の群れに囲まれていた。
数は一〇、二〇……、そこで数えるのを止めた。
数えるのも嫌になる程の大群だ。
そういえば、血止めをしていなかったなと切れた指を見て思う。
指を口元まで持ってくると、舌を出してそれを舐める。
僕のその行動が気に食わなかったのか、それとも自分が耐えきれなくなったのか、群れの一匹が僕に飛びかかってきた。
僕は、無造作に手に持っていたナイフを振るい、同時に小さく呟く。
「ごめんね」
ヒュン、という風を切る音が耳に届く。
狼は、僕に飛びかかった体勢のまま、僕の脇を通り過ぎ、硬い地面に頭から突っ込んだ。
地面に倒れ伏した狼の身体に、縦一直線に赤い筋が入る。
一瞬遅れて、勢い良く血が吹き出す。
近くにいた僕にも返り血がつくが、僕はそんな事は気にしない。
今まで散々浴びてきたのだ。
生暖かくて、血生臭くて、赤黒くて、鉄の味のそれを。
獣だろうが、魔物だろうが、人だろうが。
幾度となく浴びてきたのだ。いまさら、どうという事はない。
断末魔すらあげなかったその死体を、僕は感情のこもらない眼で見下ろした。
その様子に、辺りの空気が張り詰めていく。
強烈な殺気と、同族を殺された恨み。その中に、『僕』という存在に対する、ほんの僅かな恐怖が見え隠れする。
グルルル……、という唸り声が、幾つも辺りを響かせる。
その光景に、僕は何の感慨も無く見つめながら言う。
「いいよ、おいで。全員纏めて、殺してあげるから」
その言葉を合図に、何十匹という狼の群れが、一斉に僕に飛びかかってきた。
更新が少し遅れました、十八話目です。
どうすれば人気が出るのか試行錯誤する(だけの)今日この頃。
やっぱあれですか、情報の差ですか?←
答えが分かる方、教えて下さい!(切実)
もちろん評価を下さった皆様、感想を下さった皆様、お気に入りに登録して頂いた皆様、何より読んで下さった皆々様には感謝で頭が上がりません。
普通の感想もお待ちしております。あと、要望があれば、登場人物紹介とか世界観設定とか書きます。