第一五話:「知ってますよ」
部屋を出た所で、僕は盛大に溜息を吐いた。
「ハァ……」
厄介な事になったものだ、と思う。
よりにもよって、あんな変人もどきに目を付けられてしまうとは(いやまぁ、前々から薄々は感じていたが)。
まぁ、当初の目的は達せたようなものだから良しとしよう。
肩ならしにBランクの依頼を受けてみようと思い、来た道を辿って表に出る。
受付の人は、この前のエルフの女性だった。
裏から出てきた僕を見るとギョッとして、また何かやらかしたんですか? という目を向けてきた。
その通りなので何も言わず、軽く会釈をしてカウンターの外に出る。
そのまま、少し離れた所にあるB板の前に立ち、依頼を眺める。
当然と言えば当然なのだが、僕に視線は集まってこなかった。
あれだけ目立った事をしたのだから、僕と関わろうと思う人がいないのも頷ける話だ。
と、僕は勝手に思っていたのだが、どうやらそれ以外の意味もあるらしかった。
これは後に聞いた話なのだが、昨日今日ギルドに入ったばかりの新参者が、高ランクのボードを見ているという光景は、大して珍しくは無いそうだ。
理由は人それぞれで、憧れだったり、自信をつけるためだったりする。
極稀に、ギルド規約に書かれているにもかかわらず、依頼を受けようとする無謀者もいるそうだ。
そういう前例があるので、僕の事は気にしていなかったそうだ。
流石にBランクだけあって、討伐依頼系が多かった。
いくつか面白そうな依頼もあったが、最初なので、無難に魔物の討伐にしておく。
手近にあった依頼書を持って、カウンターまで行く。
その様子に気付いた冒険者も何人かいたが、僕を止めるような人はいなかった。
僕も、そちらの方が好都合なので、カウンターに依頼書を差し出す。
エルフの女性は、困ったような顔で、
「あの、こちらはBランクの依頼で……」
と、遠慮がちに言ってきた。
あれ、知らないのか? という疑問を覚えた僕は、数秒後に、それも当然か、という結論に辿り着く。
僕のランクが上がったのはついさっき。おまけに、そのことを知っているのは、僕とマスター、副マスターの三人だけなのだ。
情報がここまで行き届かないのも当たり前だ。
「えぇ、知ってますよ」
「でしたらその……、Fランクの冒険者が、Bランクの依頼を受けられない事も……」
「知ってます」
うーん、どうやって今の僕のランクを証明しよう。
マスターを呼びに行って、彼女に説明してもらうのも良いが、僕はなるべく彼女と関わりたく無い。
僕が説明に困っていると、
「えっと、ギルドカードを見せていただけますか?」
と聞いてきた。
「ギルドカード、ですか?」
「えぇ、そうです。ギルドカードには、その人のランクも記されているんですよ。ランクが上がればその場で自動更新されますし」
「へぇ……」
……どういう仕組みになっているんだろう、と少々本気で気になる。
今度暇な時にでも調べてみるか。
そう思いながら、僕はカードを取り出して、彼女に手渡す。
渡す際に、今度はひびを入れないよう、慎重に魔力を調整して流し込む。
それを見た彼女は、本日最大の驚きを見せた。
僕とカードを何度も見比べると、
「……これは本当にあなたのですか?」
と、問いかけてきた。
「そうですが、何か?」
「い、いえ、私の目がおかしくなければ、ランクが『A』になってるんですけど……」
「えぇ、そうですね。……って、『A』!?」
これには僕も、素で驚いた。
「『B』の間違いじゃないんですか?」
「いえ、確かに『A』となっています……」
「えぇ〜」
「駄洒落を言ってる場合じゃありません!」
……そういうつもりはなかったんだけど。
それはともかく、まぁ僕としては高い方が良いので、特に何も言う事はないのだが、彼女の方は納得がいかないようで、僕に、「ちょっと待ってて下さい」と言い残して、僕のカードを手に裏へ入って行った。
依頼が受理されていないので、依頼に行く事も出来ないし、先程戻ってきたばかりなので、またあの部屋に行くのも躊躇われる。
どうしようかと悩んだ末に、せっかくAランクに上がっていたんだから、Aランクの依頼でも見ていよう、という結論に落ち着いた。
暫くして、彼女が何とも言えない表情で戻ってきた。
恐らくは、マスターに上手い事言い包められたのだろう。
僕は再びカウンターに戻る。
彼女はとても疲れた声で、
「こちらの依頼をお受けになりますか?」
とだけ聞いてきた。
何があったかは大体予想がつくので、彼女の質問に頷くだけにする。
「承りました。こちらの依頼は、期限が後一〇日となっておりますので、ご注意ください。それではお気を付けて、行ってらっしゃいませ」
彼女の事務的で平坦な口調に、僕は物凄く距離を感じた。
僕は悪くない。と、信じたい。
やはり、行き当たりばったりは厳しいですね。
どんどん執筆ペースが落ちて行きます。




