第一七話:「あなたは誰なんですか?」
それは最早、戦いなどと呼べるような物ではなかった。
あまりにも一方的な虐殺。
当人である僕が言うのも何だが、この場に別の者がいれば、同じ感想を抱いただろう。
辺りに響くのは、ナイフが風を切る音と肉を断つ音。それから、時折聞こえる獣の悲鳴。
見る見る内に、群狼はその数を減らしていく。
それに反比例して、地面に転がる死体の数と、僕にかかる返り血の量は増す。
僕は何も考えず、ただ無心にナイフを振るう。
数分と経たぬ内に、群狼はその数を半分以下にまで減らしていた。
それでもまだ数えたくなる程の数ではないが、眼に見えて数が減ったのが分かるというのは良い事だと思う。
とは言え、流石に少し疲れたので休みたい。
流れ作業のような退屈な動作を止めると同時、群狼もその動きを止める。
と。
少し離れた所で、呪文を唱えるような声が聞こえた。
数瞬遅れて、しかし群狼達が反応するだけの時間はなく。
僕から向かって左側一帯にいた群狼が、一斉に炎に包まれた。
「……何だ?」
思わず間抜けな声を漏らしてしまう。
その声に答えるかのように、炎が放たれた位置から声が響いた。
「何だとは何よ! この私が直々に助けてあげたっていうのに、その反応はどういう事よ!」
その声はまだ幼く、せいぜい僕と同年代と言った所だった。
そして、炎の中から現れた姿も、予想を大きく外れるような物ではなかった。
それは、
「子供?」
「誰が子供じゃボケー!」
彼女が手に持っていた杖から、いきなり氷柱が発射された。
慌ててそれを避ける。
後ろにいた群狼の一匹に当たった気がするが、僕の知った事ではない。
「次に子供って行ったら、今度は容赦なくその身体貫くわよ」
「はぁ……、すみませんでした?」
答えが半疑問形になったが、彼女は納得したようだった。
そもそも、語尾を上げて疑問形にするというのは、日本特有のやり方なので、海外(異世界だけど)では通じない事が多い。
なので、言葉だけがそのまま翻訳されたのだろう。
そんな事を考えていると、彼女が話しかけてきた。
「それであなた、私に何か言う事無いの?」
「えっと……、どちら様ですか?」
「違うでしょうが!」
言葉と共に、今度は小さな竜巻が僕に迫ってきた。
小さいと言っても、人一人ぐらいは軽く吹き飛ばせそうな規模である。
近くにいた群狼を巻き込んで目前に迫ってきたそれを、片手で消し飛ばしておく。
竜巻が消え、重力で落ちてきた群狼を、適当に切って止めを刺しておく。
ツッコミが過激な子だな。
「ていうか何? あなた私の事知らないの?」
「そうですね、初めて見ました」
僕がそう言うと、彼女はバカにしたのを通り越し、最早呆れたと言った風で、
「ハァ? 私の事知らないとか、あなたどんだけ田舎者なのよ」
と言ってきた。
まぁ、田舎どころか異世界な訳だが。
「それで、結局あなたは誰なんですか?」
「フン。人に名前を聞く時は、まず自分から名乗るのが礼儀ってモンじゃない?」
「あ、じゃあいいです」
「そう……。って、ちょっと待ちなさいよ!」
……面倒だな、この子。
「し、仕方無いわね。私の方から名乗ってあげるわよ」
そう言って、彼女は勝手に名乗りだした。
「何を隠そうこの私が! 頭脳明晰博学多才、容姿端麗才色兼備、最強無敵の超絶美少女。その名も———」
「あ、僕群狼の殲滅があるので、また今度でお願いします」
「ちゃんと最後まで聞きなさいよ!」
これが僕と、後の『偉大魔導師』との出会いだった。
———ちなみに、結局この後、僕の前で彼女が名乗る機会は訪れなかった。
早くもスランプ気味な一九話目です。
悪い所等あれば積極的に直していきますので、遠慮なく言って下さい。




