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俺たちの冒険はこれからだ!(五三周目)  作者: 厨二×武力=はた迷惑
第一章
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第一〇話:「いえ、結構です」

 朝目覚めると、既に日は昇っていた。

 この世界に限らず、科学技術が発達していない世界では、基本的に日が昇るとともに起床し、日が沈むとともに就寝する。

 例外として、王宮や大貴族の館などは、火魔法や光魔法で光源を確保しているし、酒場などの一部の施設も、火を焚いて夜遅くまで営業している。

 そんな訳で、僕の起床は遅い時間と言えるのだ。

 寝ぼけ眼をこすりながら、覚醒しきっていない頭を働かせる。

 虚空を叩いてひびを入れると、その中に汗臭くなった服を入れ、別の服を取り出す。

 その服を着ながら、ひびの中に、水魔法と風魔法を適当にぶち込んで、疑似洗濯機のような状態にする。

 後は適当な時間に、火魔法をぶち込んで乾燥させれば、あら不思議、あっという間に洗濯が完了します。

 皆さんも異世界にお越しの際は、是非お試しあれ。


 一仕事を終えた僕は、鍵を手に部屋を出る。

 さすがに、朝ご飯からあの肉を食べる気力は僕には無いので、何か作ってもらおうと思い、階段を下りる。

 宿屋の受付の方を覗いたが、誰も見当たらなかったので、酒場の方へ向かう。

 そこには既に、ここを経営している夫婦が何か作業をしていた。


「おはようございます」


 と、僕は一応挨拶をしておく。


「あら、おはよう。昨日すぐ寝た割には、起きるのが遅かったね」

「えぇ、朝は弱いんです」


 これは仕方ない。

 学生としての性だ。


「何だ、ウチの娘と一緒か。ウチの娘も、朝は全然起きなくてな」

「へぇ、そうなんですか」


 珍しいな、と僕は思う。

 この世界に住んでいる以上、あの年ぐらいになる頃には、既に生活リズムが整っているのが普通だが。

 まぁ、個人差もあるという事だろう。


「それで、朝飯はどうするんだい? 軽いものなら作ってやれるけど」

「お願いします。料金はいくらですか?」

「そうね。大体一食あたり、銅貨一枚ってトコだよ。ちなみに、部屋は一泊銅貨五枚だ」


 僕はポケットを探って枚数を確認する。

 昨日の薬草採取の報酬が、銅貨二〇枚なので、このままでも後二泊はできる。

 僕は早い所借金を返さなければいけないが、依頼数を増やして収入を多くすればいいだけだ。

 僕はポケットから銅貨を六枚取り出す、

 この世界では即時払いが基本なので、昨日の僕は大めに見てもらったのだろう。


「あいよ、毎度あり」


 と言って銅貨を受け取ると、代わりに食事が差し出される。

 どうやら用意してくれていたようだ。

 しかも、まだ作り立てらしく温かい。

 流石商人、客の好印象を得るためのつぼを心得ている。

 メニューは、雑炊(のようなもの)に、味噌汁(のようなもの)、それから、小魚(のようなもの)だった。

 日本人の僕に、和食テイストはありがたい。

 一〇分程で食べ終える。


「ごちそうさまでした」


 と言うと、僕は立ち上がる。


「どっか行くのかい」

「えぇ、ちょっと依頼を。これでも冒険者なもので」

「おや、そうだったのかい。てっきり、どっかの貴族サマとか大商人の子供だと思ってたが」

「いやぁ、それは無いですよ」


 そう言って出て行こうとする僕を、親父さんが止める。


「お前さん、部屋はどうする? 良けりゃとっといてやるが」

「良いんですか? ならお願いします」


 と言って僕は、銅貨五枚を取り出して渡す。


「どうも。これからも贔屓にな」


 と言って、彼らは僕を送り出してくれた。



 ================



 ギルドに向かう途中に、焼き鳥らしきものの屋台があったので、昼ご飯用に買っておく。

 丁度良い機会なので、この世界の通貨について説明しておこう。

 この世界には、金貨、銀貨、銅貨の三種類が存在している。

 銅貨が一番価値が低く、金貨が一番価値が高く、一〇〇枚ごとに次へと繰り上がるようになっている。

 白金貨というものも存在するらしいが、一般人ではまずお目にかける事は無い。

 王族などが、領地や秘宝などを売買する際に用いられるそうだが、最早都市伝説のレベルとなっている。

 ちなみに、一般人の年収は銀貨数枚程度。冒険者はその数倍だそうだ。

 これだけ見れば冒険者の方が良いかもしれないが、その分冒険者は、命の危険も孕んでいると言える。

 それでも、一攫千金を夢見て冒険者になる者は多いそうだ。



 ギルドに着くと、中が何やら騒がしかった。

 僕が中に入ると、一瞬僕に視線が注がれたが、すぐに仲間内の会話に戻った。

 僕は、不信感を抱きながらも、F板の前に行き依頼を見る。

 内容に、昨日と大きな違いは無かった。

 魔物退治はEランクからのようで、F板には、それ系統の依頼は無い。殆どが町の雑用だ。

 やはり、さっさと返すにはランクを上げる必要があるようだ。

 そう言えば、いくつ依頼を受ければランクを上げられるのかを聞いてなかったなと思った。

 ま、一〇回くらいこなせば良いか、と、適当に当たりを付けておく。


 ここで、ランクについても補足を入れておこうと思う。

 ランクをFからEに上げるのに一〇日、Dに上げるのに一月、Cに上げるのに一年、Bに上げるのに一〇年と言われ、それ以上は完全に才能の領域だそうだ。

 多くの冒険者は、C、良くてBが精一杯だ。

 また、Fが初心者、Eが低級者、Dが中級、Cが上級、Bでようやく一人前と認められる。

 ランクが高くなる程、国やギルドから受けられる恩恵も大きくなる。

 分かりやすい所では、Aランク以上で新しくギルドを興す事ができる。

 だが、良い事ばかりでもない。

 冒険者である以上、死の危険は常に隣り合わせだし、恩恵にかまけて依頼達成を怠ると、最悪追放処分にもなる。

 それと、Aランク以下の場合、一定回数連続で依頼を失敗したり、一定期間依頼を受けないと、ランクが一つずつ下がる仕組みになっている。


 とりあえず僕は、無難に昨日と同じ薬草採取を選んでおく。

 それを持って受付に行くと、昨日とは人が変わっていた。

 受付にいたのは、僕と同じ人族の女性だった。

 大人の色香をそこら中にまき散らしており、いかにもな人だった。


「いらっしゃい……、あら、初めて見る顔ね。新人さんかしら?」

「えぇ、つい昨日、冒険者登録をしたばかりの者です」

「そうなの、頑張ってね。それにしても……」


 彼女は、僕を舐め回すように観察し、ジュルリと舌舐めずりをする。

 僕の背に、ゾクッとした悪寒が走った。

 まさかこの人も、あのマスターと同類の人か?


「あなた、中々良い身体してるわね。どう? 今夜一緒に食事でも」

「いえ、結構です」


 僕は笑顔でそう応えた。

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