第一章 7 ―― 腫れもの ――
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異様な空気を感じるようになったのは、昼休みが終わる直前であったのを蓮ははっきりと覚えていた。
それまではまったく気にしなかったのだけど、急に周りの人が自分に向けられる視線がどこか冷たく、よそよそしさを漂わせている。
あからさまに無視をするのではない。
蓮が誰かとふと目が合いそうになった瞬間、相手は慌て、不自然に目を背けるのである。
廊下を歩いて誰かとすれ違い際、周りの会話が途切れ、蓮に好奇の目が注がれる。見返せば目を逸らされる。
それなのに、通り去ったあとにはヒソヒソと会話が再開される。しかも、どこか自分の関わる内容の話が聞こえてくる気がしてならなかった。
窓の外を眺めていてふと蓮は机に突っ伏して寝たフリをして目蓋を閉じる。
気づいたからだ。
窓に反射した教室で、まだ残っていた生徒がやはり、蓮を白い目で凝視していた。
何度も生唾を呑み込むのを繰り返し、口内の水分がなくなれば奥歯を噛み締め、また生唾を呑み込む。
無意味な動作を止められずにはいられなかった。だからといって、教室を抜け出るのは周りに負けて逃げてしまう敗北感があり、動けずにいた。
それでも、重たい空気はまったく消えることがなく、連の体に棘となって攻撃を続けていた。
どこか腫れ物にされている気がしてしまい、余計に苛立ちは強まってしまい、体の熱は鎮まろうとはしなかった。
無言の圧力が容赦なく体を締めつけられていると、目の前の椅子が引かれ、誰かが座り込む音がした。
近くでより無様な姿を拝もうとする者がいるのか、と蓮は無視を続ける。顔を上げることは、冷ややかな挑発に乗ってしまう気がしてしまって。
「結局、立花の奴、休んで二日か?」
無視をしようとしていると、容赦ない声が背中に浴びせられた。不本意でありながらも、肩をビクッと反応してしまった。
声の主はすぐにわかった。
正樹である。
聞き慣れた声に安心感が訪れてくれて、蓮はすぐに目を開いて身を起こすけれど、彼の様子に警戒心が強まる。
正樹の座り方はおかしかった。普段、蓮と座って話す場合、後ろ向きでイスにまたがるか、横向きに座っても、窓に背を向けて教室を見渡す形で座っていた。それなのに、今日に限って窓に向って座っていた。
しかも、目つきを鋭くして教室を眺めている。
只事でないのを察し、蓮も唇を強く結び、正樹の横顔を眺めた。
正樹の口調はどこか棘が纏っているように聞こえたために。
「……――線で三日前、突き落とし事件があったの覚えてるか?」
誰かに向かっての叱咤や叱責ではなく、突拍子のない問いかけ。
なかば拍子抜けしてしまい返事を忘れる。
事件自体は蓮も覚えていた。丁度、正樹から英語のプリントについて電話があったとき、テレビのニュースで取り上げられていた話題だ。
「まぁ、ね。確か、一年前の脱線事故で死んだ被害者の関係者が犯人だったってやつだろ」
脳裏に浮かんだ事故の内容を話すと、正樹は黙って頷く。
「それがどうしたんだよ?」
先の話を噤む正樹に蓮は問う。それでも難しい顔をしたまま眼鏡越しに外を睨み、口を開こうとはしない。
黙る正樹を責めるように睨み続ける。すると、
「弥生が突き落とされたかもしれないのよ」
どこかからか飛んできた、鋭い指摘が蓮の胸を貫き、心をギュッと締めつけられた。




