第一章 4 ―― ニュース ――
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フローリングの上に転がる時計の針は午後十時を回っていた。
六畳の部屋。黒のTシャツにハーフパンツとラフな格好で、蓮は自分の部屋のベッドに胡坐を掻いて座り、壁に凭れながらスマホを操作していた。
外はすでに暗く、部屋の出窓は青いカーテンを閉めていた。
夕食後、暇つぶしにとテレビは点けっぱなしになっており、今は通信販売の健康食品のCMが流れていた。
読みかけになったメンズ雑誌がフローリングの床に広げられたまま放置され、そばにはノートパソコンや通学に使っているカバンが乱雑に散らかっていた。
『悪いけど、僕も無理』
打ち終えたあと、送信ボタンを押す。
数分前の出来事。友人が突然、『助けてっ』と届けられた。
内容は、明日の英語の授業に提出するべきプリントの手助けを懇願するものであり、要するに、宿題の答えを教えてくれとの懇願であった。
蓮はすぐさま返信し、友人の助けを拒んだ。意地悪や、ワザとではない。
お世辞にも綺麗とは言えない散らかった部屋を見渡したあと、ベッドとテレビの間に置かれたローテーブルに視線が止まる。
机は中学に入学したころに捨て、代わりに黒い楕円形のローテーブルである。
蓮はスマホを片手にテーブルの上を眺める。黒の机上にはミルクを多めに入れたカフェオレに、ペンケース。そばにはシャーペンと一枚のプリントが並んで置いてあった。
身を屈めてプリントを拾い上げると、顔の前まで引き寄せ、目を配らせる。一通り見終えると、息苦しさに耐えきれず唸り声が零れる。
プリントには何行にも渡り英文が並び、虫食いになった空欄が目立っていた。
友人の助けを断った理由がここにある。眼前のプリントは翌日提出しなくてはならない、友人が助けを請いだ、まさにそれである。
最悪なことに蓮の最も苦手とする科目が英語であり、今も手つかずのままであった。
意地悪い問題と睨み合っていると、テレビのCMが明け、音声が流れ込んでくる。
『――……線で起きたいたたまれない事故。皆様はこの事故の全貌をまだ鮮明に覚えておられる方も数多くおられると思います』
テレビ画面では男のキャスターがテーブルの上でぐっと両手を握り、眼鏡の奥から真剣な眼差しでカメラを見据え、ゆっくりとした口調、それでいて声を強めて伝えてくる。
『負傷者を大勢生み、今もまだ被害者遺族と鉄道会社との和解が進まぬなか、この事故に関わる新たな事件が起きてしまいました』
蓮は手にしたプリントをベッドの上に置き、ニュースに意識を傾ける。
事故が起きたのは一年前の七月二十三日。蓮の住む県の大手鉄道路線で起きた脱線事故。
負傷者が四百七十三人、内、死亡者が二十七人も出た事故。
鉄道会社は事故責任を認めつつも、会社の運営方針に責任はなく、問題は当時の運転手に責任があると主張し、被害者家族との間で今も和解が取れていないのが、蓮の記憶に残っていた。
『――当時、事故によって命を落とされたのは九十八人、のち、七十一人の方々が生き返られたのは本当に幸運であります。しかし、残された二十七人の方々の……――』
老衰、病死、例外を除き、人は死亡しても生き返る。
この理によって、倫理的に世間で問題は頻発していた。特に、この事故では生き返った者に対しては、保険や鉄道会社との補償についても問題は解決していない。
『……――逮捕された男は、「何故、娘は死ななければいけなかったのだ」と叫び、通過車両に対し、ホーム上にいた一般の人々を次々に線路に突き落としたと、目撃者は答えているようです』
事件の容貌は、以前の事故で死亡した家族の関係者が世間、鉄道会社に対しての不満から奇行に陥ったらしい。
キャスターは理不尽さに憤慨し、人の理に嘆くように目を伏せながらも強く伝えてくる。
『……男は』
ニュースに喰い入っていると、手にしていたスマホが鳴って震え出す。




