第二章 7 ―― 日向 ――
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子供みたいに目を輝かせ、まっすぐな眼差しをぶつけたと思った次の瞬間、早々に沙紀に委ねてくる。
「ちょっと、なんで私が考えんのよ、あんたの名前じゃない」
「いや、言い出したん自分やん」
突然、責任を押しつけられたような、重い責任感に苛まれ、沙紀は目を見張る。
沙紀の動揺を、悪びれる素振りもなく笑う男に、苦渋の色を見せても、男は気にしない。
(何やってんのよ、私は……)
余計なことを言ってしまったと、内心罵りながら、後悔に襲われた。
言い出した責任もあり、どうも断る隙を見失ってしまった。渋々、何かヒントになる物をと周りを見渡すけれど、明確な物はない。
男の期待を正面から受け根負けしていると、窓の外から太陽の陽射しが眩しく、沙紀は眉をひそめた。
(――あっ)
「あんた、ここで太陽の陽射しを浴びるのが好きなんでしょ?」
突然の問いにも、男は躊躇なく頷く。
「じゃ、〝ヒナタ〟。日向ごっこの〝日向〟って、どう?」
安易すぎる、と不安は言ったあとに込み上げて唇を舐めてしまう。
犬や猫に名前をつけるのとは訳が違いのに、と。
「日向、か……」
男は難しい顔で眉間にシワを寄せ、顎に手を当てて思案する。
「えぇやん。〝日向〟気に入ったかも」
次の瞬間、満面の笑みを献上してもらった。まるで欲しがっていたオモチャを与えられて喜ぶ子供みたいな男に安堵する。
「そっか、俺は〝日向〟か」
安易すぎて心配はするのだけれど、本人してみれば、満足しているらしく、このとき、男は日向となった。
「んじゃ、名前を決めてもらったお礼をしなあかんな」
「――礼?」
「って言っても、自分が捜してる人の手助けぐらいやけどな」
「でも、私が捜してる人って知らないでしょ?」
「まぁ、そうやけど」
自分の心境を知らずに言う日向に苛立ちはするが、彼の軽い態度に呆れ、怒る気力も奪われてしまう。
それでも日向に対して、まだ恋人のことを話す気にはなれない。
話題を逸らす術はないかと思いを巡らせる。
「やっぱ、まだ話す気にはなれへんわな」
まるで心を見透かされたような口ぶりに、沙紀は日向を見て目を剥く。動揺が逆に日向の指摘を肯定してしまった。
しまった、と後悔した時点でもう日向は苦笑していた。
体裁悪さにいづらくなっていると、日向は沙紀の気持ちを察してか、執拗には聞いてこない。
「そういうたら、自分、名前は?」
それまでの会話を無視した質問に唖然とする。彼の本意が掴めない。
「いや、せっかく名前を決めてくれた恩人の名前を知らんのも変ちゃう?」
(――そう?)
日向の理屈に疑念を持ちつつ悩む。その間も彼は子供みたいに目を輝かせている。
少し逡巡してから沙紀は口を開く。
「大杉よ」
すべてを隠すのも卑怯だと、ここは素直に答えた。
「――下は?」
「――沙紀よ」
「オオスギサキ、ふうん。えぇやん」
フルネームで聞かれるのは意外で少し気を害したが、寂しげにする日向を見て納得する。
(そっか、自分の名前が思い出せないんだもんね)
「んじゃ、よろしく」
同情するや否や、数秒前の寂しさは消え、明るく振舞う日向。気持ちの揺れた自分に苛つき、沙紀はぞんざいに「はいはい」と生返事をした。
「あ、一つ聞いてもいい?」
思い立ったように沙紀は尋ねる。
「やっぱ、たこ焼きをおかずにして御飯食べるの?」
「なんやそれ?」
「だって、関西人でしょ?」




