第二章 4 ―― 捜し出す ――
4
私は絶対に諦めない――
エレベーターに乗り込んだ大杉沙紀は、一段と気持ちを震わせた。
誰もいない個室で訪れる、潰されそうな孤独さに奥歯が震え、目頭が熱くなる。
(大丈夫、希望はある。さっきの子みたいに)
不安で涙が溢れそうになると、数分前に偶然出会った男の子を思い出す。
派手さのない大人しそうな子。きっと学校では目立たない子だろうけれど、彼が蘇った人とこの病院で再会したことを知れた。
会話から自分と事情が違うのは理解している。
でも、病院で会えることに希望を持てた。
「だから私も諦めない」
恋人の大野圭太を捜し出すまで。
決意を高めると、不意に以前の第二病棟での言い争いが脳裏に蘇る。
――もう亡くなられて一年がすぎられましたら、病院に搬送されることはないですって。
――でも、分かんないでしょっ
――生き返られたのなら、すでに退院されているはずですよ。それでないなら、すでに、三回亡くなられて――
――そんなことないっ。
何度も繰り返した口論。数件の病院を回り、似たような反論を受け、看護師に怪訝に扱われながらも続けていた。もう来るなと言われたこともあったけれど、恋人が亡くなって一年。病院を渡り歩いた。
(また嫌な顔されるんだろうな)
表示板が「6」を表示すると、沙紀は両手で頬をパンパンと軽く叩き、気持ちを入れ替える。
不安に暮れて強張る表情を捨て、気丈な面持ちでエレベーターを降りた。
病棟に入ると、無断で奥に進んで文句を言われまいと、スタッフステーションを覗いた。
「あの、どうかしまし、た?」
初めて聞く声に沙紀が顔を向ける。すると、黒い髪を束ねた女の看護師が不思議そうに首を傾げていた。彼女は初めて見る人物であった。
「あの、誰か、捜してるんですか?」
奇妙な間で、たどたどしい喋り方に苛立ちを覚えて眉を顰める。胸のプレートを睨むと、「藤崎」と書かれていた。
「大野圭太っている?」
恵理の態度につい、沙紀はカウンターに拳を叩いてぞんざいに尋ねた。
すると、彼女の気迫に委縮して、肩をすぼめながら奥へ戻る。意外にも素直にカルテを調べてくれた。
それでも何度も見る光景。次の言動すら先には予想ができた。
「大野さんという方は、おられま、せんね」
(やっぱり)
話を最後まで聞かず拳を強く握り締める。
「その、大野さんて、方は、どういう――」
「ありがと」
恵理の遅い喋り方から逃れようと話を絶ち、カウンターから離れた。
そのままきびすを返そうとしたとき、ふと休憩所を眺めた。
「―――っ」
次の瞬間、沙紀は目を剥き、心臓が破裂しそうな衝撃を受ける。
「――圭太っ」
叫び声を上げると同時に沙紀は床を蹴っていた。
休憩所の一番奥の椅子に腰かけ、窓の外の夕陽を眺めている男の姿を見つけて。
沙紀はふと恋人の姿を重ね、休憩所へと走った。
「待ってっ。その人は――」
背中で恵理が引き留めるが、沙紀には届かず無情に木霊する。
「――圭太っ」
男のそばに来て声をかけると、すぐに沙紀は絶句する。彼女の呼び声に振り返った男の姿は恋人の姿ではなく、まったく知らない人物であった。
途方に暮れた様子で沙紀を眺める男性。歳は沙紀より少し上の二十代半ばに見え、顔は小さいが目が大きい。短髪のせいで大きな耳が目立って見えた。
大きな目はじっと沙紀を捉えているが、威圧感はなく穏やかな目をしていた。
「ごめん、私の人違い」
軽く頭を下げ力なくきびすを返す。
(何考えてんだろ。バカみたい……)
恋人を見つけられない悔しさ、先走った思いで見間違えてしまった情けなさで、頭は混乱し、自分を叱咤する。
悔し涙を堪えようとうつむいたまま、足早に病棟を飛び出した。




