第一章 12 ―― 病棟 ――
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突発的に教室を飛び出したのは、六限目の授業が開始する直前、蓮のスマホが鳴ったからだ。
メッセージが届いた。
《ごめん》
たったそれだけの短い文字。
送信者は弥生。蓮はスマホをじっと睨み、言葉を失っていた。気づくと勝手に指が動き出していた。
《今からそこへ行くから》
素っ気ない簡素な一言を送ると、すぐさま、ざわめく教室を飛び出していた。
それ以降、弥生からの連絡があるかとスマホを握り締めていた。こちらからは何度も連絡を入れてみても、電源が切られているのか、繋がらなかった。
連絡があったのは、突然いなくなったことに驚愕した正樹からの、切羽詰まった声だけである。
メッセージの内容からして、弥生の居場所を特定するものはない。
彼女が姿を消して週が明けた矢先の出来事。
不思議とあれから学校で、彼女の話題はあまり出てこなかった。
それでも、蓮は一切迷わず、ある場所を目指していた。
学校から全速力で駆けつけた甲斐あってか、陽はまだ落ちず、空は薄い雲が張りながらも青く澄んでいた。
走り続けて息は上がっている。それでも胸を押さえて必死で平静を取り戻そうとした。
深呼吸をしても喉の渇きは潤わず、乾燥して痛い。動悸も一向に治まらない。
一度、強く目蓋を閉じ、間を空けてから開いて空を見上げた。
飛び込んできたのはコンクリート張りの大きな建物。蓮の通う学校とは規模が桁違いで、建物の周りは木々で覆われ、広い駐車場を完備した総合病院。
「ここにあいつはいる」
不思議と確信する。
国道沿いに面した病院は、午後の診察を望む者が次々と正面玄関へと向かっていた。
車やタクシー、自転車の波が蓮のそばを通りすぎて行く。だが、蓮本人はまだ鼓動が治まらずに立ち尽くしていた。
「……懐かしいとでも言いたいのかよ、まったく」
口角を吊り上げて嘲笑する。
治まらない鼓動に拳を握り、一度強く胸を打った。動揺に襲われる心を、なかば強引に気持ちを切り替えた。
重たい足をようやく一歩踏み出す。
正面玄関を通ると、そこは受付ホールとなっており、受付けを行う人が機械の前に並んでいた。
通路は受付けの右側の奥へと伸びていた。そばの壁には病院全体の総合案内板が貼られており、階数ごとに区切られて書かれていた。天井からも行き先の案内が吊られていたが、蓮は案内版に見向きもせず、奥へと進む。
内科、小児科、レントゲン室。各診療科と細い通路へと枝分かれした廊下を進み、二度、角を曲がると明かりが漏れた小さな広場に辿り着く。
そこはエレベーターホールと、隣に売店があった。
蓮はエレベーターを待ち、しばらくして扉が開き乗り込むと、またしても案内板を見ずに六階のボタンを押す。
病院の二階以上の上階は病棟になっており、エレベーターの利用者は極端に減る。現に、今乗り込んでいるのは蓮だけである。
上へ昇る振動が体を揺すり、思わず蓮は壁に背を預ける。治まり出した鼓動がまた激しく騒ぎ出し、頬を歪めた。
一度、強く揺れたあと、エレベーターは停止して左右に扉が開く。光が差し込まれ、蓮は静かに息を吐き何事もなかったように毅然としてエレベーターを降りた。
六階は一階とは建物の構造が違うらしく、左は壁であり、右へ通路は伸び、床には来訪者を先導する緑色の矢印が奥へと続く形で描かれていた。
正面の壁には矢印と同じ緑色で病棟名が記されていた。
特別病棟。
記されているのを横目に、蓮は慣れた足取りで通路を突き進む。
しばらくして左にスタッフステーションが見える。正面には閑散とした休憩所が広がっていた。
休憩所の前のT字路で蓮は止まり、周りを見渡した。左右に伸びた廊下。薄暗く思える先を蓮はじっと眺める。
(どちらか先のどこかの病室に弥生がいる)




