第一章 10 ―― 鈴の音 ――
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少女の笑みにドキッと胸が詰まった。
これまでに見せたことのない、彼女本来の屈託ない姿に思え、恵理も自然と笑みがこぼれた。
すぐさま誰かにメッセージを送ると思っていると、彼女はスマホを操作し始める。すると、不意に鈴の音が聞こえた。
閉ざされた空間に、濁りのない凛とした音色が奏でられる。
どこからの音かと探していると、彼女は何か動画を見ているのか、音はスマホから流れていた。
少女の不可解な行動に恵理が首を傾げていると、彼女はさっきまでの笑顔が消え、寂しげに揺れる鈴に耳を傾けていた。
気になってパソコンから目を離して眺めていると、鳴り終わったスマホをしばらく見続けたあと、スマホを操作し始める。
「……彼氏、にでも連絡?」
つい茶化してしまう。少女はスマホを眺め、目を細めて照れながらもコクリと小さく頷く。
打ち終えると、しばらくスマホと睨み合っていた。
(すぐに返信があるといいわね)
心で願っていると、スマホは鳴り、少女はすぐに操作する。
「……今から来る?」
(……えっ?)
一瞬聞こえた呟きに、耳を疑う。
どうやら、恵理の疑念は彼女も同じらしく、黙ったまま何かを打ち込んでいた。
何かを送り終えたのか、彼女はスマホを握り締め、窓の外を見上げた。釣られてベッドのそばの窓を恵理も眺める。
カーテンが開かれた先には、青い空と、遠くに広がる街の光景が広がっていた。
「……私って、変わってるんですか?」
彼女は外を眺めながら質問する。突然問われ、意識していなかった恵理は思わずあたふたとしてしまう。
気持ちを落ち着かせて彼女を見詰める。すると、こちらに顔を向けないまま聞いていた。それでも、彼女は窓の反射越しに恵理を捉えていた。
「そうね、変わってるって聞かれたら変わってるかな」
「……」
「でも、人ってみんな変わってるんじゃない?」
「なんです、それ? なんの説明にも励ましにもなってない」
「やっぱり?」
振り返った彼女はふて腐れたように皮肉り、恵理もふざけて首を傾げる。
「その、こう言っちゃうと、言いわけや、失礼なことになっちゃうんだけど、ね」
おどけた表情で顎に手を当てて前置きをする。
「この病棟にいるとね、ほんと、いろんな人と出会えるの。急に暴れたりする人、一言も喋ってくれない人とか。そういう人に囲まれていると、微かなことで驚かないようになったのよ。んで、そういう人たちのいろんな行動は、私なりに〝個性〟だって思うようになったの。もちろん、いい意味でね。だから、あなたが変わってるなんて私は思わない。それに――」
一度話を止め、頬を掻いた。
「私も結構、人前で話すときって緊張して変なところで詰まっちゃんのよ。それも変って言われたら、変だし」
(って、あれ? 私、そういえば詰まらなかった)
話終えたあと、恵理は自分に疑問を抱いた。
「名前を思い出さないのもですか?」
今、話したことに嘘も偽りもなかった。不安げに目を逸らす彼女に、恵理は力強く頷き、自信満々に笑みを返した。
「さてと、じゃ、私はそろそろ、行く、ね。あんまり長居するとサボってるって言われるし」
腕時計で時間を確認し、体を反転させる。
「あ、そうだ。彼氏はどうだった?」
扉に手を当てたところで、急にさっきの彼女の行動が気になり、最後にもう一度茶化すつもりで振り返る。
予想していたのは照れながらはにかむ姿だったけれど、恵理の声が届いていなかったのか、スマホをじっと眺めていた。
「どうしたの?」
声をかけずにはいられなかった。
やっとの思いで彼女の笑顔が見れたのに、今はまた寂しげな目をしているので。
「あ、あの、これ返しておきます」
すると、いきなり少女はスマホを差し出されてしまい、恵理は困惑する。
「でも、連絡とか、するでしょ?」
受け取るつもりはなかったが、彼女はかぶりを振る。
「彼氏はどうするの? 今も、返事があったんでしょ?」
そこで彼女は何か気持ちを押し殺そうとしているのか、唇を固く結び、スマホを握る手が微かに震えている。
思わず恵理は扉に凭れて、次を待った。
「……これからここに来るって言ってます」
「――そんなっ」
少女の発言に恵理は驚き身を乗り出していた。
「でも、そんなことって」
「変ですよね」




