第9話 推し
めぐるは優しかった。
優しすぎるくらいに。
◇
「ユイさん、体調大丈夫?」
◇
天文部の活動中。
それが口癖みたいになっていた。
◇
「大丈夫です」
◇
「無理しないでね」
◇
「はい」
◇
めぐるは笑う。
◇
アユとは違う。
◇
言葉にする。
◇
心配を。
◇
優しさを。
◇
ちゃんと。
◇
だから人気があるのだろう。
◇
◇
私は望遠鏡を覗く。
◇
何も分からない。
◇
星の名前も。
星座も。
◇
興味もない。
◇
それでもここにいる。
◇
アユがいるから。
◇
◇
「綺麗でしょ」
◇
隣から声がした。
◇
アユだった。
◇
「そうだね」
◇
私は嘘をつく。
◇
星より。
◇
あなたの方を見ていた。
◇
◇
その時。
◇
「アユ」
◇
めぐるが呼ぶ。
◇
アユの顔が変わる。
◇
少しだけ嬉しそうになる。
◇
私は知っている。
◇
その顔を。
◇
好きなものを見る顔だ。
◇
◇
胸が痛い。
◇
分かっていた。
◇
分かっていたのに。
◇
痛かった。
◇
◇
放課後。
◇
アユと二人で帰る。
◇
昔みたいに。
◇
でも昔とは違う。
◇
◇
「ユイ」
◇
「なに」
◇
「めぐるくんのこと」
◇
来た。
◇
私は少しだけ笑う。
◇
「なに?」
◇
「好きなの?」
◇
◇
心臓が跳ねた。
◇
◇
本当は。
◇
違う。
◇
でも。
◇
私は頷く。
◇
「そうかも」
◇
◇
アユが黙る。
◇
その横顔が曇る。
◇
私は最低だ。
◇
知っている。
◇
◇
「応援する」
◇
アユが言う。
◇
その声は少しだけ震えていた。
◇
◇
やめて。
◇
そう思う。
◇
応援なんてしないで。
◇
私はめぐるなんて好きじゃない。
◇
◇
好きなのは。
◇
あなただ。
◇
◇
だけど言えない。
◇
だから。
◇
私は笑う。
◇
「ありがとう」
◇
嘘だった。
◇
全部。
◇
◇
その日の夜。
◇
アユは眠れなかった。
◇
スマホを見る。
◇
天文部のグループ。
◇
そこにユイの名前がある。
◇
めぐるの名前もある。
◇
◇
胸がざわつく。
◇
理由は分かる。
◇
分かりたくなかったけど。
◇
◇
「応援するって言ったのに」
◇
誰もいない部屋で呟く。
◇
◇
ユイは親友だ。
◇
大切だ。
◇
幸せになってほしい。
◇
そう思う。
◇
思うのに。
◇
◇
めぐると話しているユイを見ると。
◇
苦しい。
◇
◇
そして。
◇
もっと嫌なことに気づく。
◇
◇
自分はめぐるを好きなのか。
◇
それとも。
◇
めぐるに認められたいだけなのか。
◇
◇
めぐるは優しい。
◇
かっこいい。
◇
人気者。
◇
頭も良い。
◇
星に詳しい。
◇
◇
だから。
◇
好きになった。
◇
◇
でも。
◇
それは。
◇
中身を見ていると言えるのだろうか。
◇
◇
アユは思い出す。
◇
中学の頃。
◇
顔だけで判断する人たちを嫌っていた。
◇
可愛いだけでユイを持ち上げる人たちを。
◇
◇
なのに。
◇
私は違うと言えるの?
◇
◇
めぐるが。
◇
もし普通の顔だったら。
◇
私は好きになった?
◇
◇
答えは出ない。
◇
◇
窓の外を見る。
◇
夜空だった。
◇
星が輝いている。
◇
◇
綺麗だった。
◇
だけど。
◇
少しだけ。
◇
嫌いだった。
◇
◇
星は遠い。
◇
手が届かない。
◇
だから人は勝手に理想を重ねる。
◇
◇
もしかしたら。
◇
めぐるも同じなのかもしれない。
◇
◇
私は星を見上げる。
◇
そして気づかない。
◇
この時すでに。
◇
私も。
◇
ユイも。
◇
めぐるも。
◇
誰かを見ているようで。
◇
本当は見ていなかったことに。




