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第10話 理想

めぐるは星が好きだった。


 ただそれだけだった。



 小さい頃。


 父親に連れられて見た夜空。



 真っ暗な世界の中。


 無数の光が浮かんでいた。



 綺麗だった。



 それだけで十分だった。



 だから天文部に入った。


 だから星を見続けた。



 それだけだったはずなのに。




「めぐる先輩」



 呼ばれる。



 振り向く。



 ユイだった。




「体調どう?」



「大丈夫です」



 嘘だと分かる。



 顔色が悪い。



 呼吸も浅い。



 それでも笑っている。



 だから何も言えなかった。




 最初は心配だった。



 病気なのに頑張っているから。



 それだけだった。



 でも。



 最近は違う。




 気づけば探している。



 ユイの姿を。



 声を。



 笑顔を。




「先輩?」



「え?」



「聞いてます?」



「ごめん」



 ユイが笑う。



 その笑顔を見ると安心する。




 だから気づかなかった。



 いや。



 気づきたくなかった。




 自分がユイを好きになり始めていることに。




 放課後。



 観測会の準備。



 アユもいる。



 ユイもいる。




 二人を見ていると不思議な気持ちになる。



 仲が良い。



 幼馴染。



 なのに。



 どこかぎこちない。




「喧嘩でもしたの?」



 何気なく聞く。



 すると。



 二人とも固まった。




「してない」



「してないです」



 声が重なる。



 そして。



 二人とも目を逸らした。




 変だと思った。




 その日の帰り。



 めぐるは一人で歩いていた。



 夕焼け空。



 オレンジ色の光。




 スマホが鳴る。



 メッセージだった。



 相手はユイ。




『少し相談したいことがあります』



 少し迷う。



 それから返信した。




『いいよ』




 数日後。



 駅前のベンチ。



 ユイが座っている。



 少し痩せた気がした。




「相談って?」



 ユイはしばらく黙る。



 それから。



 小さく笑った。




「先輩って」



「うん」



「好きな人いますか」



 唐突だった。




「どうして?」



「気になっただけです」



 嘘だ。



 そう思った。




 でも。



 答えられなかった。



 自分でも分からなかったから。




 ユイが好きなのか。



 それとも。



 病弱で儚いユイという存在に惹かれているだけなのか。




 可愛いから?



 守ってあげたいから?



 放っておけないから?




 それは本当に恋なのか。




 アユの顔が浮かぶ。



 いつか言っていた。




「みんな見たいものしか見ない」



 あの言葉。



 その時は意味が分からなかった。



 でも今は少しだけ分かる。




 もしかしたら。



 自分も同じなのかもしれない。




 ユイを見ているようで。



 自分の理想を見ているだけ。




 その瞬間だった。



 ユイが言う。




「先輩」



「なに?」



「もし」



 ユイは空を見上げる。



 夕焼けだった。




「好きな人がいても」



「うん」



「絶対に届かないって分かったら」



「……」



「どうしますか」




 めぐるは答えられなかった。




 ただ。



 その横顔が。



 ひどく寂しそうに見えた。




 そして。



 その時初めて思う。




 ユイは。



 自分を見ていない。




 もっと別の誰かを見ている。




 その事実が。



 なぜか少しだけ。



 苦しかった。


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