第10話 理想
めぐるは星が好きだった。
ただそれだけだった。
◇
小さい頃。
父親に連れられて見た夜空。
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真っ暗な世界の中。
無数の光が浮かんでいた。
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綺麗だった。
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それだけで十分だった。
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だから天文部に入った。
だから星を見続けた。
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それだけだったはずなのに。
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◇
「めぐる先輩」
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呼ばれる。
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振り向く。
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ユイだった。
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◇
「体調どう?」
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「大丈夫です」
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嘘だと分かる。
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顔色が悪い。
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呼吸も浅い。
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それでも笑っている。
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だから何も言えなかった。
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最初は心配だった。
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病気なのに頑張っているから。
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それだけだった。
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でも。
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最近は違う。
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◇
気づけば探している。
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ユイの姿を。
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声を。
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笑顔を。
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◇
「先輩?」
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「え?」
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「聞いてます?」
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「ごめん」
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ユイが笑う。
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その笑顔を見ると安心する。
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◇
だから気づかなかった。
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いや。
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気づきたくなかった。
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◇
自分がユイを好きになり始めていることに。
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◇
放課後。
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観測会の準備。
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アユもいる。
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ユイもいる。
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◇
二人を見ていると不思議な気持ちになる。
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仲が良い。
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幼馴染。
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なのに。
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どこかぎこちない。
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◇
「喧嘩でもしたの?」
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何気なく聞く。
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すると。
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二人とも固まった。
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◇
「してない」
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「してないです」
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声が重なる。
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そして。
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二人とも目を逸らした。
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◇
変だと思った。
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◇
その日の帰り。
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めぐるは一人で歩いていた。
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夕焼け空。
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オレンジ色の光。
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◇
スマホが鳴る。
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メッセージだった。
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相手はユイ。
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◇
『少し相談したいことがあります』
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少し迷う。
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それから返信した。
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『いいよ』
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数日後。
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駅前のベンチ。
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ユイが座っている。
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少し痩せた気がした。
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◇
「相談って?」
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ユイはしばらく黙る。
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それから。
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小さく笑った。
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「先輩って」
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「うん」
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「好きな人いますか」
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唐突だった。
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◇
「どうして?」
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「気になっただけです」
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嘘だ。
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そう思った。
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◇
でも。
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答えられなかった。
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自分でも分からなかったから。
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◇
ユイが好きなのか。
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それとも。
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病弱で儚いユイという存在に惹かれているだけなのか。
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可愛いから?
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守ってあげたいから?
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放っておけないから?
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◇
それは本当に恋なのか。
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アユの顔が浮かぶ。
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いつか言っていた。
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「みんな見たいものしか見ない」
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あの言葉。
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その時は意味が分からなかった。
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でも今は少しだけ分かる。
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もしかしたら。
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自分も同じなのかもしれない。
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ユイを見ているようで。
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自分の理想を見ているだけ。
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その瞬間だった。
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ユイが言う。
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◇
「先輩」
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「なに?」
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「もし」
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ユイは空を見上げる。
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夕焼けだった。
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◇
「好きな人がいても」
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「うん」
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「絶対に届かないって分かったら」
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「……」
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「どうしますか」
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めぐるは答えられなかった。
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ただ。
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その横顔が。
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ひどく寂しそうに見えた。
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そして。
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その時初めて思う。
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◇
ユイは。
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自分を見ていない。
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もっと別の誰かを見ている。
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◇
その事実が。
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なぜか少しだけ。
◇
苦しかった。




