第11話 最期の観測
夏の終わりだった。
夜風が少しだけ涼しい。
天文部は校外観測会を行っていた。
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山の上。
街の灯りが届かない場所。
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見上げれば。
空一面に星が広がっている。
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綺麗だった。
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たぶん。
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初めてだった。
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私が本当に綺麗だと思ったのは。
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星じゃない。
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その星を見上げるアユだった。
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「ユイ」
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声がする。
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振り向く。
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アユだった。
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「大丈夫?」
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「何が?」
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「顔色」
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私は笑う。
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最近みんな同じことを言う。
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「大丈夫」
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嘘だった。
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薬は増えた。
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病院へ行く回数も増えた。
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体は少しずつ壊れている。
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でも。
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それを言うつもりはなかった。
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「無理しないで」
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「うん」
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アユは少しだけ安心した顔をする。
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私はその顔を覚えておこうと思った。
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あと何回見られるだろう。
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その時。
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めぐるが望遠鏡を調整していた。
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「見てみる?」
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私は頷く。
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レンズを覗く。
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星が見える。
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名前は分からない。
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でも綺麗だった。
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「どう?」
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めぐるが聞く。
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「綺麗です」
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初めて本音だった。
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めぐるが少し驚く。
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「意外」
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「え?」
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「ユイさん、星興味ないと思ってた」
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心臓が止まりそうになる。
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図星だった。
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「そんなこと」
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言いかけて。
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やめた。
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もう。
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疲れた。
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嘘をつくのが。
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「そうですね」
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めぐるが固まる。
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「え?」
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「私、星はよく分からないです」
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夜風が吹く。
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「じゃあなんで」
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私は笑う。
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「秘密です」
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それ以上は言わない。
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言えないから。
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好きだから。
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あなたじゃなくて。
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アユが。
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観測会が終わる。
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みんなが片付けを始める。
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私は少し離れた場所へ行く。
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ベンチ。
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夜空。
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静寂。
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「ここにいたんだ」
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めぐるだった。
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「先輩」
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隣に座る。
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少しだけ沈黙。
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「最近無理してるよね」
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私は笑った。
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「分かります?」
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「分かるよ」
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優しい。
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だから困る。
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めぐるは悪くない。
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何も悪くない。
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それなのに。
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私は利用した。
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アユの近くにいるために。
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「先輩」
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「うん」
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「お願いがあります」
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めぐるがこちらを見る。
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「もし」
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言葉を探す。
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「もし私がいなくなったら」
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めぐるの表情が曇る。
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「そんなこと」
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「聞いてください」
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私は続ける。
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「アユをお願いします」
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沈黙。
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「どういう意味?」
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「そのままです」
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めぐるは何も言えない。
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私は空を見る。
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星が綺麗だった。
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やっと思う。
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私。
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星を好きになれたんだ。
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アユが好きだったものだから。
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その時。
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ポケットの中で薬が鳴る。
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服薬時間だった。
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私は薬を飲む。
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手が震えていた。
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めぐるは黙って見ている。
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全部気づいたのかもしれない。
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それでも。
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何も聞かなかった。
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夜空を見上げる。
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満天の星。
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そして私は思う。
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◇
もし翼があるなら。
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もう少しだけ。
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あと少しだけ。
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アユの隣にいたかった。
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◇
それが。
◇
私の最後の願いだった。




