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第11話 最期の観測

夏の終わりだった。


 夜風が少しだけ涼しい。


 天文部は校外観測会を行っていた。


◇


 山の上。


 街の灯りが届かない場所。


◇


 見上げれば。


 空一面に星が広がっている。


◇


 綺麗だった。


◇


 たぶん。


◇


 初めてだった。


◇


 私が本当に綺麗だと思ったのは。


◇


 星じゃない。


◇


 その星を見上げるアユだった。


◇


◇


「ユイ」


◇


 声がする。


◇


 振り向く。


◇


 アユだった。


◇


◇


「大丈夫?」


◇


「何が?」


◇


「顔色」


◇


 私は笑う。


◇


 最近みんな同じことを言う。


◇


◇


「大丈夫」


◇


 嘘だった。


◇


◇


 薬は増えた。


◇


 病院へ行く回数も増えた。


◇


 体は少しずつ壊れている。


◇


◇


 でも。


◇


 それを言うつもりはなかった。


◇


◇


「無理しないで」


◇


「うん」


◇


◇


 アユは少しだけ安心した顔をする。


◇


 私はその顔を覚えておこうと思った。


◇


◇


 あと何回見られるだろう。


◇


◇


 その時。


◇


 めぐるが望遠鏡を調整していた。


◇


◇


「見てみる?」


◇


◇


 私は頷く。


◇


 レンズを覗く。


◇


◇


 星が見える。


◇


 名前は分からない。


◇


 でも綺麗だった。


◇


◇


「どう?」


◇


 めぐるが聞く。


◇


◇


「綺麗です」


◇


◇


 初めて本音だった。


◇


◇


 めぐるが少し驚く。


◇


◇


「意外」


◇


「え?」


◇


「ユイさん、星興味ないと思ってた」


◇


◇


 心臓が止まりそうになる。


◇


◇


 図星だった。


◇


◇


「そんなこと」


◇


 言いかけて。


◇


 やめた。


◇


◇


 もう。


◇


 疲れた。


◇


 嘘をつくのが。


◇


◇


「そうですね」


◇


◇


 めぐるが固まる。


◇


◇


「え?」


◇


◇


「私、星はよく分からないです」


◇


◇


 夜風が吹く。


◇


◇


「じゃあなんで」


◇


◇


 私は笑う。


◇


◇


「秘密です」


◇


◇


 それ以上は言わない。


◇


◇


 言えないから。


◇


◇


 好きだから。


◇


◇


 あなたじゃなくて。


◇


◇


 アユが。


◇


◇


 観測会が終わる。


◇


 みんなが片付けを始める。


◇


◇


 私は少し離れた場所へ行く。


◇


 ベンチ。


◇


 夜空。


◇


 静寂。


◇


◇


「ここにいたんだ」


◇


 めぐるだった。


◇


◇


「先輩」


◇


◇


 隣に座る。


◇


 少しだけ沈黙。


◇


◇


「最近無理してるよね」


◇


◇


 私は笑った。


◇


◇


「分かります?」


◇


◇


「分かるよ」


◇


◇


 優しい。


◇


 だから困る。


◇


◇


 めぐるは悪くない。


◇


 何も悪くない。


◇


◇


 それなのに。


◇


 私は利用した。


◇


◇


 アユの近くにいるために。


◇


◇


「先輩」


◇


◇


「うん」


◇


◇


「お願いがあります」


◇


◇


 めぐるがこちらを見る。


◇


◇


「もし」


◇


◇


 言葉を探す。


◇


◇


「もし私がいなくなったら」


◇


◇


 めぐるの表情が曇る。


◇


◇


「そんなこと」


◇


◇


「聞いてください」


◇


◇


 私は続ける。


◇


◇


「アユをお願いします」


◇


◇


 沈黙。


◇


◇


「どういう意味?」


◇


◇


「そのままです」


◇


◇


 めぐるは何も言えない。


◇


◇


 私は空を見る。


◇


 星が綺麗だった。


◇


◇


 やっと思う。


◇


◇


 私。


◇


 星を好きになれたんだ。


◇


◇


 アユが好きだったものだから。


◇


◇


 その時。


◇


 ポケットの中で薬が鳴る。


◇


◇


 服薬時間だった。


◇


◇


 私は薬を飲む。


◇


 手が震えていた。


◇


◇


 めぐるは黙って見ている。


◇


◇


 全部気づいたのかもしれない。


◇


◇


 それでも。


◇


 何も聞かなかった。


◇


◇


 夜空を見上げる。


◇


 満天の星。


◇


◇


 そして私は思う。


◇


◇


 もし翼があるなら。


◇


 もう少しだけ。


◇


 あと少しだけ。


◇


 アユの隣にいたかった。


◇


◇


 それが。


◇


 私の最後の願いだった。


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