第12話 手紙
ユイが死んだ。
◇
連絡が来たのは朝だった。
◇
スマホの通知。
◇
短い文章。
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『佐々木ユイさんが亡くなりました』
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それだけだった。
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私は画面を見つめる。
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意味が分からない。
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理解したくない。
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理解できない。
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◇
だって。
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数日前まで。
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普通に話していた。
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笑っていた。
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星を見ていた。
◇
◇
なのに。
◇
死んだ?
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◇
「嘘」
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声が出た。
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でも。
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誰も否定しなかった。
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◇
私は学校を休んだ。
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布団に潜った。
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スマホの電源を切った。
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◇
何も考えたくなかった。
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◇
でも。
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考えてしまう。
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◇
最後に交わした会話。
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最後に見た笑顔。
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最後に見た後ろ姿。
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◇
全部。
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最後だった。
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◇
私は泣かなかった。
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◇
泣けなかった。
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◇
だって。
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怒っていたから。
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◇
「なんで」
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◇
呟く。
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◇
「なんで私に言わなかったの」
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◇
余命。
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病気。
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苦しみ。
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◇
何も知らなかった。
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◇
親友なのに。
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◇
「なんで」
◇
◇
そして。
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もっと嫌な感情が浮かぶ。
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◇
「なんでめぐるくんだったの」
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◇
自分でも最低だと思った。
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◇
でも。
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消えなかった。
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◇
ユイは死んだ。
◇
なのに。
◇
私はまだ。
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そのことを気にしていた。
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◇
数日後。
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学校へ行く。
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机の上に封筒が置かれていた。
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◇
私の名前。
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見覚えのある字。
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◇
ユイだった。
◇
◇
手が震える。
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封を開ける。
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◇
一枚の便箋。
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◇
アユへ
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それだけで。
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視界が滲んだ。
◇
◇
たぶんこの手紙を読んでいる頃には私はいません。
だから先に謝ります。
ごめんなさい。
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胸が苦しい。
◇
続きを読む。
◇
私は嘘をついていました。
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知っていた。
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そんな気がしていた。
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◇
めぐる先輩のこと。
本当は好きじゃありません。
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息が止まる。
◇
◇
先輩は優しい人です。
でも好きではありません。
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文字が揺れる。
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読めない。
◇
それでも読む。
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◇
私が好きだったのは最初から一人です。
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心臓が大きく鳴る。
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◇
病院で歌ってくれた日から。
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あの日。
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翼をください。
◇
あの歌。
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◇
私はずっとアユが好きでした。
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世界が止まった。
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何も聞こえない。
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何も見えない。
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◇
ただ。
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その一文だけが。
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頭の中で響いていた。
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◇
でも言えませんでした。
だって怖かったから。
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私は可愛いと言われてきました。
でも本当は何もありません。
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歌しかありませんでした。
でも歌もアユの方が好きでした。
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涙が落ちる。
◇
◇
アユは私を羨んでいたかもしれません。
でも私はアユを羨んでいました。
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勉強ができて。
強くて。
優しくて。
自分の足で立っていて。
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私はずっと。
アユになりたかった。
◇
便箋が濡れる。
◇
◇
だから天文部へ入りました。
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読む手が止まる。
◇
◇
星が好きだったからじゃありません。
アユが好きだったからです。
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嗚咽が漏れる。
◇
◇
ごめんなさい。
めぐる先輩を利用しました。
アユを傷つけました。
◇
でも。
それでも。
最後まで好きでした。
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涙で文字が滲む。
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◇
最後の一文。
◇
◇
アユ。
もう一度だけ。
あなたの歌が聴きたかった。
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手紙が落ちる。
◇
床に広がる。
◇
◇
私は動けなかった。
◇
◇
気づいてしまったから。
◇
◇
ユイは私を見ていなかった。
◇
私はユイを見ていなかった。
◇
◇
それでも。
◇
好きだった。
◇
◇
その事実だけが。
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どうしようもなく苦しかった。
◇
◇
窓の外を見る。
◇
夕焼けだった。
◇
◇
そして私は。
◇
何年ぶりか分からないほど久しぶりに。
◇
声を上げて泣いた。




