↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/13

第7話 余命

 高校一年の春。


 桜が咲いていた。


 私は病院の窓からそれを見ていた。


 綺麗だと思う。


 でも。


 どこか遠かった。



「ユイさん」


 先生が入ってくる。


 いつも通りの顔だった。


 だけど。


 どこか違った。



「少しお話があります」



 私は察した。



 こういう時の先生は。


 大体良くない話をする。



「病気のことですか」



 先生は頷いた。



 静かだった。



 窓の外では桜が揺れている。



「これまでの治療ですが」



 聞きたくなかった。



 それでも聞かなければならない。



「効果が薄くなっています」



 私は黙る。



「今後は」



 先生が言葉を探している。



 だから。


 私が先に言った。



「あとどれくらいですか」



 沈黙。



 先生は目を伏せた。



「数年ではありません」



 それで十分だった。



 私は笑った。



 不思議だった。


 泣くと思っていた。


 怖がると思っていた。



 でも。


 何も出てこなかった。



 ただ。


 一つだけ。



 思い浮かんだ顔があった。



 アユだった。



 そして。


 その隣にいる。



 めぐるだった。




 帰り道。



 スマホを見る。



 アユからメッセージが届いていた。


『今日めぐるくんと話した』



 私は画面を閉じる。



 少しして。


 また開く。



 写真が添付されていた。



 夜空。



 そして。


 望遠鏡を覗く男子の後ろ姿。



 めぐる。



 たぶん。


 その人。



 私は知らない。


 顔も。


 声も。



 なのに。



 なぜだろう。



 少しだけ。



 腹が立った。




 数日後。



 休日。



 私は病院のベッドで横になっていた。



 コンコン。



「入るよ」



 アユだった。



「久しぶり」



「三日前にも来た」



「そうだっけ」



 相変わらずだ。



 私は少しだけ笑う。




「ねえアユ」



「なに」



「天文部楽しい?」



 アユの顔が少し明るくなる。



「楽しい」



「そんなに?」



「そんなに」



 迷いなく答えた。



 少しだけ悔しかった。



 合唱部の時より。



 楽しそうだったから。




「めぐるくんは?」



「え?」



「優しい?」



「まあ」



「かっこいい?」



「知らない」



 嘘だった。



 私は分かった。



 アユは嘘をつく時。


 少しだけ視線を逸らす。




「好きなんだ」



「違う」



「好きなんだ」



「違うって」



 顔が赤い。



 分かりやすい。



 私は笑った。



 でも。



 笑いながら。



 胸の奥が痛かった。




 その日の夜。



 私は眠れなかった。



 天井を見る。



 真っ白だった。



 昔から変わらない。



 でも。


 私だけが変わった。



 知ってしまったから。



 時間がないことを。




 私は目を閉じる。



 思い浮かぶのは。



 アユの顔。



 病室で歌っていた姿。



 夕焼け。



 合唱コンクール。



 全部。



 アユだった。




 そして。



 初めて認める。



 私は。



 アユが好きだ。




 だけど。



 もう遅いのかもしれない。



 アユは前を向いている。



 星を見ている。



 めぐるを見ている。



 私は。



 ただ病室から空を見上げている。



 それだけだった。



 窓の外。



 一番星が光っている。



 私はその光を見ながら思う。



 もし。



 翼があるなら。



 今だけは。



 アユの隣へ飛んで行きたい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。