第7話 余命
高校一年の春。
桜が咲いていた。
私は病院の窓からそれを見ていた。
綺麗だと思う。
でも。
どこか遠かった。
◇
「ユイさん」
先生が入ってくる。
いつも通りの顔だった。
だけど。
どこか違った。
◇
「少しお話があります」
◇
私は察した。
◇
こういう時の先生は。
大体良くない話をする。
◇
「病気のことですか」
◇
先生は頷いた。
◇
静かだった。
◇
窓の外では桜が揺れている。
◇
「これまでの治療ですが」
◇
聞きたくなかった。
◇
それでも聞かなければならない。
◇
「効果が薄くなっています」
◇
私は黙る。
◇
「今後は」
◇
先生が言葉を探している。
◇
だから。
私が先に言った。
◇
「あとどれくらいですか」
◇
沈黙。
◇
先生は目を伏せた。
◇
「数年ではありません」
◇
それで十分だった。
◇
私は笑った。
◇
不思議だった。
泣くと思っていた。
怖がると思っていた。
◇
でも。
何も出てこなかった。
◇
ただ。
一つだけ。
◇
思い浮かんだ顔があった。
◇
アユだった。
◇
そして。
その隣にいる。
◇
めぐるだった。
◇
◇
帰り道。
◇
スマホを見る。
◇
アユからメッセージが届いていた。
『今日めぐるくんと話した』
◇
私は画面を閉じる。
◇
少しして。
また開く。
◇
写真が添付されていた。
◇
夜空。
◇
そして。
望遠鏡を覗く男子の後ろ姿。
◇
めぐる。
◇
たぶん。
その人。
◇
私は知らない。
顔も。
声も。
◇
なのに。
◇
なぜだろう。
◇
少しだけ。
◇
腹が立った。
◇
◇
数日後。
◇
休日。
◇
私は病院のベッドで横になっていた。
◇
コンコン。
◇
「入るよ」
◇
アユだった。
◇
「久しぶり」
◇
「三日前にも来た」
◇
「そうだっけ」
◇
相変わらずだ。
◇
私は少しだけ笑う。
◇
◇
「ねえアユ」
◇
「なに」
◇
「天文部楽しい?」
◇
アユの顔が少し明るくなる。
◇
「楽しい」
◇
「そんなに?」
◇
「そんなに」
◇
迷いなく答えた。
◇
少しだけ悔しかった。
◇
合唱部の時より。
◇
楽しそうだったから。
◇
◇
「めぐるくんは?」
◇
「え?」
◇
「優しい?」
◇
「まあ」
◇
「かっこいい?」
◇
「知らない」
◇
嘘だった。
◇
私は分かった。
◇
アユは嘘をつく時。
少しだけ視線を逸らす。
◇
◇
「好きなんだ」
◇
「違う」
◇
「好きなんだ」
◇
「違うって」
◇
顔が赤い。
◇
分かりやすい。
◇
私は笑った。
◇
でも。
◇
笑いながら。
◇
胸の奥が痛かった。
◇
◇
その日の夜。
◇
私は眠れなかった。
◇
天井を見る。
◇
真っ白だった。
◇
昔から変わらない。
◇
でも。
私だけが変わった。
◇
知ってしまったから。
◇
時間がないことを。
◇
◇
私は目を閉じる。
◇
思い浮かぶのは。
◇
アユの顔。
◇
病室で歌っていた姿。
◇
夕焼け。
◇
合唱コンクール。
◇
全部。
◇
アユだった。
◇
◇
そして。
◇
初めて認める。
◇
私は。
◇
アユが好きだ。
◇
◇
だけど。
◇
もう遅いのかもしれない。
◇
アユは前を向いている。
◇
星を見ている。
◇
めぐるを見ている。
◇
私は。
◇
ただ病室から空を見上げている。
◇
それだけだった。
◇
窓の外。
◇
一番星が光っている。
◇
私はその光を見ながら思う。
◇
もし。
◇
翼があるなら。
◇
今だけは。
◇
アユの隣へ飛んで行きたい。




