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第6話 逃げた先


 卒業式の日。


 空は晴れていた。


 雲ひとつない青空。


 私はそれを見上げながら思う。


 きっと今日が終われば。


 何かが変わる。


 そんな気がしていた。



 式が終わる。


 教室。


 笑い声。


 泣き声。


 写真撮影。


 いつもより騒がしい。



「ユイ!」


 呼ばれる。


 振り向く。


 クラスの男子だった。



「写真撮ろうよ」


「え?」


「卒業記念」



 一人。


 二人。


 三人。


 気づけば人が集まっていた。



「ユイちゃんこっち!」


「笑って!」


「もう一枚!」



 フラッシュ。


 笑顔。


 またフラッシュ。



 私は少し疲れていた。



 その少し離れた場所。


 アユが立っている。



 誰とも写真を撮っていない。


 誰とも話していない。



 ただこちらを見ている。



 目が合った。



 アユはすぐに逸らした。



 その瞬間。


 私は初めて気づいた。



 アユは写真が嫌いだ。



 いや。


 正しくは。



 比べられる場所が嫌いなんだ。



 可愛い。


 可愛くない。


 人気がある。


 人気がない。



 そういう言葉が飛び交う場所。



 私は何も言えなかった。



 だって。


 私自身がその理由だから。



 帰り道。



「アユ」


「なに」


「写真撮ろう」



 アユが嫌そうな顔をする。



「嫌」


「なんで」


「面倒」



 嘘だ。



 私は知っている。



 アユは面倒だから嫌なんじゃない。



 自分が写るのが嫌なんだ。



「卒業なのに」


「だから?」



「思い出だよ」



 アユは立ち止まる。



 そして笑った。



「ユイはいいよね」



 またその言葉だった。



「可愛いから」



 私は返せない。



 アユも分かっている。


 私が悪いわけじゃない。



 だから余計に苦しい。



「ごめん」



「だからなんで謝るの」



 アユは空を見上げる。



 青空。



 そして呟く。



「私ね」



 珍しく真面目な声だった。



「歌やめる」



 私は足を止めた。



「え?」



「高校入ったら」



 耳を疑う。



「なんで?」



 アユは答えない。



「好きだったじゃん」



「別に」



「好きだったじゃん!」



 思わず大きな声が出た。



 アユが少し驚く。



「ユイ」



「歌ってる時のアユ好きだった」



 沈黙。



「病院で歌ってくれた時も」



「……」



「合唱コンクールも」



「……」



「だから」



 アユは笑った。



 でも。


 悲しそうだった。



「だからだよ」



「え?」



「好きだから」



 風が吹く。



「好きだから嫌になった」



 私は意味が分からない。



 アユは続ける。



「私がどれだけ頑張っても」



「……」



「みんなユイを見る」



 私は何も言えない。



「歌じゃない」



 アユは空を見る。



「顔を見る」



 静かだった。



「だから疲れた」



 その言葉だけが。


 胸に残った。



 数日後。



 高校の合格発表。



 アユは第一志望に受かった。



 星ヶ丘高校。



 天文部のある学校。



 そして。


 めぐるがいる学校。



 夜。


 アユから写真が送られてくる。



 星空だった。



 以前よりもずっと綺麗な。



 そして一言。


『私、天文部入る』



 私は画面を見つめる。



 合唱部じゃない。



 天文部。



 歌を捨てて。



 星を選ぶ。



 なぜか。



 少しだけ。



 嫌だった。



 その感情の名前を。



 私はまだ知らない。


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