第6話 逃げた先
卒業式の日。
空は晴れていた。
雲ひとつない青空。
私はそれを見上げながら思う。
きっと今日が終われば。
何かが変わる。
そんな気がしていた。
◇
式が終わる。
教室。
笑い声。
泣き声。
写真撮影。
いつもより騒がしい。
◇
「ユイ!」
呼ばれる。
振り向く。
クラスの男子だった。
◇
「写真撮ろうよ」
「え?」
「卒業記念」
◇
一人。
二人。
三人。
気づけば人が集まっていた。
◇
「ユイちゃんこっち!」
「笑って!」
「もう一枚!」
◇
フラッシュ。
笑顔。
またフラッシュ。
◇
私は少し疲れていた。
◇
その少し離れた場所。
アユが立っている。
◇
誰とも写真を撮っていない。
誰とも話していない。
◇
ただこちらを見ている。
◇
目が合った。
◇
アユはすぐに逸らした。
◇
その瞬間。
私は初めて気づいた。
◇
アユは写真が嫌いだ。
◇
いや。
正しくは。
◇
比べられる場所が嫌いなんだ。
◇
可愛い。
可愛くない。
人気がある。
人気がない。
◇
そういう言葉が飛び交う場所。
◇
私は何も言えなかった。
◇
だって。
私自身がその理由だから。
◇
帰り道。
◇
「アユ」
「なに」
「写真撮ろう」
◇
アユが嫌そうな顔をする。
◇
「嫌」
「なんで」
「面倒」
◇
嘘だ。
◇
私は知っている。
◇
アユは面倒だから嫌なんじゃない。
◇
自分が写るのが嫌なんだ。
◇
「卒業なのに」
「だから?」
◇
「思い出だよ」
◇
アユは立ち止まる。
◇
そして笑った。
◇
「ユイはいいよね」
◇
またその言葉だった。
◇
「可愛いから」
◇
私は返せない。
◇
アユも分かっている。
私が悪いわけじゃない。
◇
だから余計に苦しい。
◇
「ごめん」
◇
「だからなんで謝るの」
◇
アユは空を見上げる。
◇
青空。
◇
そして呟く。
◇
「私ね」
◇
珍しく真面目な声だった。
◇
「歌やめる」
◇
私は足を止めた。
◇
「え?」
◇
「高校入ったら」
◇
耳を疑う。
◇
「なんで?」
◇
アユは答えない。
◇
「好きだったじゃん」
◇
「別に」
◇
「好きだったじゃん!」
◇
思わず大きな声が出た。
◇
アユが少し驚く。
◇
「ユイ」
◇
「歌ってる時のアユ好きだった」
◇
沈黙。
◇
「病院で歌ってくれた時も」
◇
「……」
◇
「合唱コンクールも」
◇
「……」
◇
「だから」
◇
アユは笑った。
◇
でも。
悲しそうだった。
◇
「だからだよ」
◇
「え?」
◇
「好きだから」
◇
風が吹く。
◇
「好きだから嫌になった」
◇
私は意味が分からない。
◇
アユは続ける。
◇
「私がどれだけ頑張っても」
◇
「……」
◇
「みんなユイを見る」
◇
私は何も言えない。
◇
「歌じゃない」
◇
アユは空を見る。
◇
「顔を見る」
◇
静かだった。
◇
「だから疲れた」
◇
その言葉だけが。
胸に残った。
◇
数日後。
◇
高校の合格発表。
◇
アユは第一志望に受かった。
◇
星ヶ丘高校。
◇
天文部のある学校。
◇
そして。
めぐるがいる学校。
◇
夜。
アユから写真が送られてくる。
◇
星空だった。
◇
以前よりもずっと綺麗な。
◇
そして一言。
『私、天文部入る』
◇
私は画面を見つめる。
◇
合唱部じゃない。
◇
天文部。
◇
歌を捨てて。
◇
星を選ぶ。
◇
なぜか。
◇
少しだけ。
◇
嫌だった。
◇
その感情の名前を。
◇
私はまだ知らない。




