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第5話 星を見る人

第五話 星を見る人


 中学最後の合唱コンクール。


 私は舞台の上に立っていた。


 スポットライトが眩しい。


 観客席は見えない。


 それでも。


 歌うことだけは好きだった。


「この背中に鳥のように」


 声が重なる。


 私たちの最後の合唱。


 隣にはアユがいる。


 それだけで少し安心した。



 結果は金賞だった。


 みんな喜んでいる。


 泣いている子もいる。


「やったね」


 私はアユに話しかけた。


「そうだね」


 でも。


 アユはどこか上の空だった。



「アユ?」


「ん?」


「どうしたの?」


「別に」


 そう言いながらスマホを見ている。


 珍しかった。


 いつもなら見ないのに。



「なに見てるの?」


「動画」


「動画?」


「星」


「は?」


 意味が分からなかった。



 スマホを覗き込む。


 そこには夜空が映っていた。


 星。


 月。


 望遠鏡。


 そして。


 一人の男子。



『冬の大三角って知ってますか?』


 画面の中の男子が笑う。


『この三つの星を結ぶと――』



「誰?」


「めぐるくん」


 初めて聞く名前だった。



「有名なの?」


「知らない」


「じゃあなんで見てるの」


「なんとなく」


 アユはそう言った。


 でも。


 その顔を私は知っている。



 歌の話をする時の顔だ。


 好きなものを見る顔だ。



「ふーん」


 私は少しだけ面白くなかった。


 理由は分からない。



 それから。


 アユはよく星の話をするようになった。


「今日流星群らしいよ」


「土星って輪があるんだって」


「望遠鏡で見るとすごいらしい」


 私は適当に頷く。


 正直よく分からない。



 でも。


 アユは楽しそうだった。



 そんなある日。


 進路希望調査が配られた。


「高校どうする?」


 私は聞いた。



「決めた」


 アユは即答した。



「早くない?」


「そう?」


「私はまだ」


 病気のこともある。


 将来なんて分からない。



「アユは?」


「星ヶ丘高校」



 私は顔を上げた。


「そこって」


「めぐるくんがいる」



 少しだけ胸が痛んだ。



「好きなの?」


 思わず聞いていた。



「違う」


 アユは笑う。


「憧れ」



 その言葉に。


 なぜか安心してしまった。



 でも。


 その安心が何なのか。


 私はまだ知らなかった。



 放課後。


 病院の帰り道。


 私は一人で空を見上げる。



 夕焼けだった。


 綺麗だと思う。



 だけど。


 アユが見ている空は。


 たぶん違う。



 もっと遠く。


 もっと高い場所を見ている。



 その時。


 スマホが鳴った。



 アユからだった。


『見て』


 送られてきた写真。



 夜空だった。



 その中心で。


 一つだけ明るい星が輝いている。



『綺麗でしょ』



 私はしばらく画面を見つめた。



 綺麗だった。


 確かに。



 でも。


 少しだけ悔しかった。



 その写真を見た時。


 最初に思ったことは。


 星が綺麗。


 じゃなかった。


 アユ、楽しそう。


 だったから。



 私はスマホを胸に抱く。



 夕焼けは消えていた。


 空には一番星が浮かんでいる。



 その光を見ながら。


 私は少しだけ寂しくなった。



 まだ知らない。


 この星が。


 私たちを遠ざけることになるなんて。


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