第5話 星を見る人
第五話 星を見る人
中学最後の合唱コンクール。
私は舞台の上に立っていた。
スポットライトが眩しい。
観客席は見えない。
それでも。
歌うことだけは好きだった。
「この背中に鳥のように」
声が重なる。
私たちの最後の合唱。
隣にはアユがいる。
それだけで少し安心した。
◇
結果は金賞だった。
みんな喜んでいる。
泣いている子もいる。
「やったね」
私はアユに話しかけた。
「そうだね」
でも。
アユはどこか上の空だった。
◇
「アユ?」
「ん?」
「どうしたの?」
「別に」
そう言いながらスマホを見ている。
珍しかった。
いつもなら見ないのに。
◇
「なに見てるの?」
「動画」
「動画?」
「星」
「は?」
意味が分からなかった。
◇
スマホを覗き込む。
そこには夜空が映っていた。
星。
月。
望遠鏡。
そして。
一人の男子。
◇
『冬の大三角って知ってますか?』
画面の中の男子が笑う。
『この三つの星を結ぶと――』
◇
「誰?」
「めぐるくん」
初めて聞く名前だった。
◇
「有名なの?」
「知らない」
「じゃあなんで見てるの」
「なんとなく」
アユはそう言った。
でも。
その顔を私は知っている。
◇
歌の話をする時の顔だ。
好きなものを見る顔だ。
◇
「ふーん」
私は少しだけ面白くなかった。
理由は分からない。
◇
それから。
アユはよく星の話をするようになった。
「今日流星群らしいよ」
「土星って輪があるんだって」
「望遠鏡で見るとすごいらしい」
私は適当に頷く。
正直よく分からない。
◇
でも。
アユは楽しそうだった。
◇
そんなある日。
進路希望調査が配られた。
「高校どうする?」
私は聞いた。
◇
「決めた」
アユは即答した。
◇
「早くない?」
「そう?」
「私はまだ」
病気のこともある。
将来なんて分からない。
◇
「アユは?」
「星ヶ丘高校」
◇
私は顔を上げた。
「そこって」
「めぐるくんがいる」
◇
少しだけ胸が痛んだ。
◇
「好きなの?」
思わず聞いていた。
◇
「違う」
アユは笑う。
「憧れ」
◇
その言葉に。
なぜか安心してしまった。
◇
でも。
その安心が何なのか。
私はまだ知らなかった。
◇
放課後。
病院の帰り道。
私は一人で空を見上げる。
◇
夕焼けだった。
綺麗だと思う。
◇
だけど。
アユが見ている空は。
たぶん違う。
◇
もっと遠く。
もっと高い場所を見ている。
◇
その時。
スマホが鳴った。
◇
アユからだった。
『見て』
送られてきた写真。
◇
夜空だった。
◇
その中心で。
一つだけ明るい星が輝いている。
◇
『綺麗でしょ』
◇
私はしばらく画面を見つめた。
◇
綺麗だった。
確かに。
◇
でも。
少しだけ悔しかった。
◇
その写真を見た時。
最初に思ったことは。
星が綺麗。
じゃなかった。
アユ、楽しそう。
だったから。
◇
私はスマホを胸に抱く。
◇
夕焼けは消えていた。
空には一番星が浮かんでいる。
◇
その光を見ながら。
私は少しだけ寂しくなった。
◇
まだ知らない。
この星が。
私たちを遠ざけることになるなんて。




