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王子たちは、聖女に愛をささやき

怒りに満ちた緑の目。

マリー・ゴールドの視線は、熱をはらんで、私と腕の中の少女を焼き尽くさんばかりだ。


マリーの視線から守るように、私は少女に覆いかぶさるように抱きしめた。

小柄な少女は、私にすがるように抱き付いてくる。

その華奢な体は、恐怖にすくみ、震えていた。


「だいじょうぶですよ、アン。あなたは、なにがあっても私が守ります」


私は、少女を安心させるように、穏やかな声でそう語りかける。

何度も繰り返し、少女の背を撫でていると、少女の震えはすこしずつ収まってきた。


「アン。俺たちも、いる。俺たちも、君を守るから」


マリーの凶行を聞きつけた友人たちも、マリーから守るように少女を取り囲む。

アンは、彼らに気づくと顔をあげ、ぎゅっとひとりずづに抱き付いた。


宰相の子息であり、自身も文官としてエリートコースを進んでいるグレンは、アンと同じ漆黒の髪を持つ。

そのためか、アンはグレンを兄のように慕っているようだ。

今も、真っ先にグレンに抱き付いた。


ふだんは生真面目ゆえに女性を近寄せないグレンも、アンだけは特別なのだろう。

いたわるように、その背を抱きしめる。


アンはぎゅうぎゅうとグレンに抱き付くと、涙目でグレンを見つめる。

そして、もう一度ぎゅっと抱き付いてから、その腕から離れた。


次にアンが抱き付いたのは、財務大臣の子息マニオンだ。

ふだんは修行と称してあちこちの国を旅している彼も、アンと出会ってからはずっと彼女の傍にいる。

吟遊詩人の真似事をして女性たちの心をとろかしているマニオンは、そのあまい声でアンに「もうだいじょうぶだ」とささやく。

アンは、マニオンに抱き付いたまま、こくんとうなずいた。


そんなアンを、近衛兵のソルが横から抱きしめた。


「なんで、俺の傍から離れたんだ?どこかに行きたいときは、ぜったいに俺たちに言えって言ってるだろ」


「ごめんね、ソル。ちょっとひとりになりかたったの」


軍務大臣の嫡男であり、近衛兵の精鋭でもあるソルは、アンの近辺警護を任されている。

がっしりとした体格のソルは、その大きな手で、アンの頭をぐりぐりと撫でた。

アンは眉をしかめながら、ソルに謝罪する。

私はアンをソルの腕から助け出し、背中から抱きしめた。


ソルはちらりと私の顔を見て、


「ハイドレンジア王子。アンに聖なる力を使って姿を消されたら、俺だって追いきれない。その間に、こんなことが起きた。もし彼女が怪我でもすれば、後悔しても遅いんだぞ」


アンの耳を覆うようにして、小声で言う。

アンに聞かれて、彼女を脅かさないようにだろう。

そしてその仮定でさえ、アンが殺されるというような最悪の仮定をしないところに、彼の、アンへの情を感じる。


「心配しなくても、君をアンの護衛から離そうとは考えていないよ」


「そういうこと、言ってるんじゃねぇよ!」


いらだったように履き捨てるソルは、けれど離しがたいというように、アンをもう一度抱きしめた。


「頼むからよ、アン。俺に守らせてくれよ。お前になんかあったらと思ったら、俺、めちゃくちゃこえーよ」


大きな体で、すがるように抱き付いてくるソルに、アンは苦笑した。


「うん。ちゃんと守ってね、ソル」


優し気なアンの笑顔に、私も言わずにはいられない。


「私もだ、アン。私も君を守ろう」


「もちろん、わたしもですよ、アン」


「いう間でもないけど、俺もね。君を、全力で守ると誓うよ、お姫様」


グレンと、マニオンも言葉をつづけた。

すると、アンは。眩しいものを見るように目をすがめ、にっこりと笑った。


「みんな、大好きだよ」


笑顔でいう彼女の声は、あまい。

そして私たち全員への媚が潜んでいる。


私の婚約者という立場を得てなお、彼女は私だけに守らせてくれるつもりはないらしい。

ぎゅっと、胸が痛くなる。


けれど、それが彼女望みなら、私はそれを受け入れよう。


「私も、君を愛しているよ。アン」


私の心が、すこしでも君の心を温められればいい。

そう願っていえば、グレンたちもまた同じように、アンに「愛している」とささやいた。


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