9・代理人交渉
「人型神器なるものが実在するというのは目の当たりにした以上信じざるを得ん」
ズズ、と茶を飲むジャスタネール。
このお茶のおかげで落ち着いたのか、マシンガントークに隙間が出来てようやくまともに会話ができる……。
ちなみにボーゲ教官は、茶を入れた後も残ろうとして尻を鞭でしばかれて追い出された。
「では、うちの生徒の調査はこれで終わりということでしょうか……?」
「まだだ。だが構える必要はない。なぜなら神器は神が授けるものであり神器自体の善悪を人間が判断するなど許されぬ。それは人型であろうが変わらぬ絶対の原則である。黒戒騎士団が調べるのはそれが国家にとって有用か、あるいは悪用されていないかだけだ。神器の分類としての位置づけなど学者が考えれば良い」
悪名高い黒戒騎士団だが、案外、理性的な判断だ。
それと【継承神器】かどうかの判断すら気にしていないようだ。
「すなわち吾輩が調べるのは、その性能がいかほどのものかということだが」
ジャスタネールが視線を机の上に向ける。
そこには、断ち切られた三節棍の破片が置かれていた。
「通常、神器を破壊するというのは至難の業だ。【階梯】に隔絶した差がある場合に起こり得る。それを神器が与えられたばかりの生徒が起こすなど早々あることではない。無論、例外はいるがな」
例外と聞いてまず浮かぶのは、国権騎士団長のシャリガン・バーンだろう。
彼は神器を授かって即【スキル】を発現し、神器破壊まで行ったという。
「その例外並のことを引き起こしたのだ。しかも、それが三個もあるという。これは無視出来ん」
「無視できないとは、この子をどうするおつもりですか?」
「スカウトするに決まっているであろう」
「えっ!?」
「は!?」
会話に入るつもりは無かったが、思わず声が漏れる。
「黒戒騎士団は神器犯罪を行う者を捜査・処罰するための機関である。神器破壊が出来る若手など欲しいに決まっている。国権騎士団に採られる前に接触するのは当然の事だろう」
「こ、この子はまだ入学したばかりですよ!?」
「それがどうした。才能は早い内に確保した方が良い。それでなくとも近年になって神器犯罪は組織化して急増している。今すぐにでも連れて行き国家のために働いてもらう」
「そんな!?」
サッカーならば、こういうことはよくある。
中学生にトップチームからスカウトが来ることなどよくある話だからだ。
だから、むしろ俺は冷静に聞いていたのだが、ファルソーダ先生は常識外れの提案に大慌てになっていた。
「とんでもない! コイツはまだ戦闘のイロハも知らないんです! 今、黒戒騎士団に入ったら、すぐに命を落とすでしょう!」
「最前線に勝る教師なし。修羅場を乗り越えてこそ、一流の戦士となる」
ジャスタネールの言葉は生存者バイアスそのものだ。
生き残りさえすれば、それも嘘ではないのだろうが……。
しかし人生、そうだとしてもイチかバチか飛び込まなければならない時はある。
だが問題は、俺は別に黒戒騎士団に入りたいわけではないことだ。
ここからどうにかして、断りを入れられないか――
「黒戒騎士団の権限は国武専に優越する。これは決定事項でありそれを動かすことは出来ない」
「そんな馬鹿な!? 納得がいきません!!」
「納得は不要だ。これ以上語るべきことはない。サバウロの身柄は我々が預かり、そして黒戒騎士団員として犯罪捜査に参加させる」
ジャスタネールがカップを置き、立ち上がった。
先生は抗弁を続けているが、これはもう――
「そんなことしている場合じゃない」
「!」
不意に、俺の腰から声が響いた。
それは緑の箱からの声だった。
「女の声……人型神器のものか!」
「静かにして……そうどならなくても聞こえる……」
ホルダーから取り出した緑箱を掌の上に乗せる。
変形するつもりはないらしく箱のままなので、まるでスピーカーだ。
「マスターにはここで基礎訓練をしてもらわないといけない……」
「駄目だ。それは実戦の中で行う」
「そうじゃない……人間同士の戦いなんてさせている場合じゃないってこと……」
「何だと? どういうことだ!! 答えろ!!」
「……だからうるさい……」
「誰がうるさいだこれは正当な――」
「これどうぞ」
お茶を差し出す先生。上手い。
「うむ。頂こう」
お茶でジャスタネールが落ち着いている間に、緑箱に聞いてみる。
「人間同士の戦いをさせてる場合じゃないって、どういう意味だ?」
「言葉通りだよ……だって、私たちが目覚めたってことは……
まもなく【魔界大隆起】が起こるってことだもの……」
「はぁ!!?」
その場にいた全員が、思わず大声を上げていた――




