10・第八次【魔界大隆起】
「【魔界大隆起】だと!!!!!!!!!!!!!」
ジャスタネールが白目を剥かんばかりに目を見開いて絶叫した。
あまりの勢いに胸のボタンが弾け飛んで大変なことになっているがそれどころではない。
驚くのも当たり前だ。
【魔界大隆起】とは、地底にある魔界が一時的に地表に飛び出して来る最上級の天変地異だ。
魔界には魔族や魔物が棲んでおり、人類史上たびたび魔族の大侵攻が起こっては滅亡の危機を迎えてきた。
前回が確か300年前で、7つの国が壊滅した――
「第八次魔族大侵攻が起こるのか!? 答えろ早く今すぐ即座にナウさあ!! どういうことだぁおいおいおいおいおおおおおおおいいい!!」
「ゆゆゆゆゆ揺すらないでください俺はわからないですすすすす!!??」
体当たりくらいの勢いで突っ込んで来たジャスタネールに激しく揺さぶられるが、もちろん俺は何も知らない。
脳が頭蓋骨に当たって失神しないように無理やり離れて緑箱を突き出す。
「説明してくれ!!」
「……仕方ない。マスターがバターになっても困る……」
緑箱は、掌の中でガシャガシャと音を立てて変形し、少女の姿を現した。
緑の短髪に眼鏡、黒と黄色のコートを着た物静かそうな印象の子だった。
「私はアイロ……人型神器……」
「アイロかわかったではすぐに答えてもらう【魔界大隆起】が起こるとはどういうことだ!!」
「そのままの意味……人型神器は【魔界大隆起】に対抗するために用意されたものだから……」
「いつだ!! いつ起こる!! そしてどこで起こるのだ!!」
「わからない……私たちはただの備え……それ自体が神の警告……」
「お、おかしいぞ! それだったら過去の魔族大侵攻の際に、人型神器の記録が残っているんじゃないか?」
と、ファルソーダ先生。
確かにその通りだ。そんな話聞いたこともない。
「……知らない……記録が残らないほどの戦いだっただけかもしれない……
それに別に人型神器だけじゃない……【伝承神器】だって【魔界大隆起】の時に現れる……」
「なっ……!? 我々の知っているのと、真逆じゃないか……」
先生が膝から崩れ落ちそうになるのも無理はない。
【伝承神器】は、英雄が振るうもの。
魔族大侵攻に際して戦った英雄たちの持つ規格外の神器が、神に認められて後世に残ったとされている。
だが実際はそうではなく、神があらかじめ強力な武器を授けていたということになる。
そして、それが現れること自体が【魔界大隆起】の警告ということだ。
「何ということだ……! 何ということだ!!! 国家の一大事だぞ!! 神学者どもは何をしていたのだ!! あとで懲罰してくれるぞ!!」
「……神の意図が伝わっていないから……私たち人型神器を送り込んだってこと……つまり私たちの言葉は、神の意志……」
「おおおおおお!!!」
だとしたら人選ミスだろ。
マイペースしかいないじゃねえか。
「とにかく……私が知ってることはこれで全部……あとはよろしく……」
「待った!」
「何……? マスター?」
「なぜ俺なんだ?」
「……さぁ? 単に適正なんじゃない……?
自分で戦うより、人を動かすのが得意な人……」
「……!」
体の芯に来る一言だった。
それは、俺がずっとプレイヤーとして抱えていたジレンマそのもの。
南米にまで渡って、テクニックで覆そうとしていたコンプレックス――
「じゃあ……また……」
アイロはそう言い残し、箱に戻って行った。
「ぬぬぬぬぬ!! 国家の一大事だ!! 吾輩は隊に戻り報告する!!」
「ま、待ってください! サバウロはどうなるんです!」
「保留だ! 人型神器の言葉が神の付託!! ならば我らの触れて良いものではない!! そちらできちんと訓練させるが良い!! おおお!! 大戦争が起こる!! 挙国一致の防衛体制を整えねば!!!!」
ジャスタネールはもはや振り返ろうともせず会議室を飛び出していった。
先生も真っ青な顔をして「後でまた呼ぶ!」と言い残し、職員室の方へ走って行った。
それほどまでに、アイロの語った情報は衝撃的だったのだ。
一人残された俺はしばし茫然としていたが、一人になると、箱からアイロの声が聞こえてきた。
「……嘘も方便……ってね。助かったでしょ……?」
「嘘なのか!?」
「……強力な神器が現れるのは【魔界大隆起】が近いから……たぶんそのうち、それは起きる……でも、私たちの言葉が神の言葉なんてことはない……」
「じゃあ……俺が黒戒騎士団に入りたがっていないのを察して……」
こいつ、なんて情に厚い――
「誰だってリア充になりたいもんね……」
「え?」
「マスターのキャッキャウフフのスクールライフ……それを邪魔させるなんて許さない……」
「えっ、えっ?」
「学生生活は、戻ってこないんだよ……?」
いや、それは人生2回目だから知ってるけど!! 痛感してるけども!!
「……しっかり楽しんで……ね」
そうしてアイロは沈黙した。
コイツの中では、世界の危機より、リア充という概念の方が優先度が高いのか……?
しかし、彼女の願いむなしく、この後ほどなくして【魔界大隆起】が起こるのだった――




