11・才能の不一致
【魔界大隆起】が起こるという情報は、たちまち学内を席捲した。
ファルソーダ先生が言いふらすとは思えないので、ボーゲのおっさんからだろう。
職員室には国権騎士団からも人員が送り込まれ、調査でてんやわんや。
学校でこれなら、元老院や騎士団本部はもっと混乱しているだろう。
一方、俺は下手に扱うとまずいということで寮に戻され、一人部屋に放り込まれた。
一人部屋ならブロックヒロインも喋り出し、情報を得られるかもしれないという計算もあったのだろう。
……今のところその気配はないが。
気のいいルームメイトたちもいたので、少し寂しいが、気楽でもある。
そこで、考える。
「……監督、か……」
苦い記憶が蘇る。
前世の俺は昔から、サッカーを観るのが好きだった。
部活ではなく地域のクラブチームに入り、サッカー漬けの日々を送った。
サッカーが大好きだったから、戦術には詳しかったが、どうしても実戦では上手く行かなかった。
レギュラーになれたことはない。
だが、学校の部活の顧問が育休で不在となり、クラブでの経験を買われ、学生なのに監督代行をすることになると、驚くほど簡単に結果がついてきた。
戦術眼は間違っていなかった。
だが、俺には実践する才能がなかったのだ。
それがあまりに悔しくて、認められなくて……俺は周囲の反対を押し切り、単身、南米に渡ったのだ。
本場のテクニックを身に着ければ、俺だって……そう思った。
だが、現実は甘くなかった。
名門だけでなくあらゆるチームから門前払いをくらった。
何よりショックだったのは、ワイロを払ってすら入れてもらえなかったことだ。
俺のスキルは、そのくらい酷いものだったわけだ。
最終的に下部も下部のチームに、ワイロを払って入り込んだ俺は、そこでも才能の壁にぶつかった。
結局、どうしても出場機会を得るために、潰し屋として生きていくことになったわけだが――
「……ここでもプレイヤーにはなれないのか」
思わず深いため息が出る。
二度目の人生、国武専の門を叩いたのは、サッカーがない世界だというのもあるが、一度くらいまともに栄光の道を歩いてみたかったからだ。
……まぁ、早々に武器の適正がないこともわかったのだが。
人型神器は特別な存在だが、俺自身に【スキル】が発現したわけではない。
つまり、俺を強化する武器ではないのだ。
「分相応に生きろと、ここの神も言っているらしいな……」
「考えすぎじゃないですかぁ?」
「!」
これまで無視を決め込んでいたエルピが、いつの間にか変形し、小さなまま机の上でくるくる回り出した。
「確かにマスターには指揮をお願いしたいですよ? ボクらは、そういう存在ですし」
「なら……」
「でも、マスターはマスターの生きたいように生きればいいじゃないですか。
ボクらは何があってもマスターの味方なんですから」
「!?」
あ。
なにか。
上手く言葉には、出来ないのだけど。
「……どうしました?」
「あ、いや、なんでも」
いかん。
このままでは泣いてしまうかもしれない。
もしかしたら、俺はこの言葉が聞きたかったのかもしれなかった。
誰かに、そのままで認めてもらいたかったのかも――
「もしかして、ボクの可愛さにビビっときちゃいました? かーっ、困っちゃうなあ~!」
前言撤回。
涙とか出ない。
「あれぇ!? なんか急に冷たい目に!?」
「気のせいだろ。そんなことより、これからのことだが……実際どうしようかな」
魔族大侵攻が起こるなら、訓練しないという選択肢はない。
必ず戦いには巻き込まれるのだ。
身を守るために、鍛えられるだけ鍛えておかなくてはならない。
だが――
「何を悩んでるんですかあ?」
「俺に【スキル】が発現するタイプの武器じゃない以上、俺の訓練よりは連携を高めた方がいいとは思うんだ。だが、このサボリ魔たちじゃな……」
机の上に、ナダレとアイロの箱を置く。
「そんなのほっとけばいいですよ。ボクとの連携を鍛えちゃえばいいんです。そして、二人で目立ちまくっちゃいましょうよ!」
お前が目立ちたいだけだろ。
そうツッコむより早く、ナダレとアイロが人型に変形した。
「別にぃ、やらないとは言ってないがー、ないがー」
「……自分だけ点数稼ぎ?」
「何ですか! 邪魔しないでくださいよ! いつもぐうたらしてるくせに!」
「貴方も……ひとの事言えないでしょ……」
「失礼な! ボクはボクが一番輝くタイミングを計っているだけです!!」
「それを言ってるんだけどねぇ?」
机の上でわちゃわちゃモメだす三人。
放っておこうかとも思ったが、急に三人が武器――アイロはどうやら銃らしい――を構えて俺を睨みつけた。
「お、おいどうした?」
「マスターじゃありません。もっと奥ですよ」
「そう、その天井……!」
アイロの銃が火を噴き、ビームの如き紫電が走る。
「ぎゃあっ!?」
そして、天井の板ごと、人間が落ちてきた――




