3・よくある決闘とショータイム開演
翌朝。
「お前、何やってるんだ?」
寮で同室のゲータが、俺の手元を覗き込んで来た。
「神器の箱のホルダーを作ってるんだよ」
革ひもを組み合わせて、ベルトに装着できるようにしたホルダーだ。
水筒のホルダーを正方形にしたような形になっている。
南米時代、スパイクを自分で補修していた経験が活きている。
「おいおい、ほんとに箱のまんまなのかよ? 俺は斧になったぜ?」
ゲータが手斧を見せびらかして来る。
昨日は誰しも武器の入手にウキウキで、俺の武器にまで気にかけていなかったが、今日はもう他のルームメイト四人からも似たような絡みをされて、流石にうんざりしていた。
「それじゃ【スキル】も発現しないんじゃないか?」
「そうかもな」
【スキル】というのは神器が与える加護のことだ。
神器が普通の武器と異なるのはまさにこの点で、【スキル】の付与とその成長によって、持ち主は超人となっていく。
ただ、入手してすぐ【スキル】発現が起こるのは稀で、そもそも国武専はその発現と成長を促すのを主目的とする。
「でも、三個も呼応するなんてなかなか聞かないし、何かはありそうだけどな」
「だといいが」
俺の手元には、赤と黒の箱と、青い箱と緑の箱がある。
神器の箱は、基本的に一つしか入手できない。
取ろうとしても壁から離れないのだ。
そのため、取れることを呼応といい、稀に二刀流適正がある人間に二つ呼応することがある。
「まぁ、そのひもでハンマーみたいにブンブン振り回すのもいいんじゃないか? 神器は滅多に壊れないしよ」
「考えておくよ」
「つれねえなあ……」
塩対応を続けていたら、ゲータも流石に興味を失ったらしい。
悪いが、箱がいつ喋り出すかわからないし、今は一人になりたいのだ。
「あ、そうそう。ツィニキートの奴、カンカンになってお前を探してたぜ」
「あーやっぱり」
奴が級友を怪我させた件は、問題になっていない。
各方面にワイロでも握らせたのだろう。
南米の下部リーグでさんざん経験したあれだ。
審判も握手――の際に紙幣を握らせる――一つで見て見ぬふりをするものだ。
「面倒だが、顔を合わさないというのも無理だしな……」
「そりゃそうだ。特に今日は初めて神器を持っての合同訓練だしな」
*
国武専の広い校庭で、合同訓練はスタートした。
合同というのは各寮合同の意で、国武専には特待寮と男子寮、女子寮がある。
他に貴族寮があるが、そちらは合同訓練に参加することはない。
金持ちが入るのが特待寮で、俺たちは当然、一般の男子寮に入っている。
合同訓練は同系統の武器持ちの組み合わせで模擬戦を行うのだが、やはり特待寮の方が成績がよい。
この辺りは、入学前から家庭教師をつけている差だろう。
あとは、下手に金持ちに勝って面倒になるのを避けたいという意識もあるかもしれない。
俺も出来れば関わりたくなどないのだが――
「サバウロ!! 俺様と勝負しろ!!」
顔面にドでかい絆創膏を貼ったツィニキートが見逃すはずがない。
組み合わせは教官が決めるはずだが、黙認しているあたり、「握らせた」のだろう。
俺らの担任で女傑のファルソーダ先生はそういうのを嫌うが、今日の担当教官のボーゲのおっさんは、バリバリに貰う派だ。
なんなら、ツィニキートより出すなら止めてやるが? みたいな視線を送ってきている。
いっそ清々しいが、そんなカネはないのでやるしかない。
面白がって、他の生徒たちも見物に集まって来ているので逃げるのも現実的じゃない。
「と言ってもなあ……」
腰のホルダーに手を当てる。
こいつをお披露目していいものか。
昨日、図書館の神器辞典で調べたが、ブロックヒロインなんてものはなかった。
他の連中がどんなリアクションするのか全く分からない。
異端の疑いなんかかけられてはたまらないが……これもいつまでも隠し通せるものでもない。
やるしかないか――
「危なかよ!!」
「!」
ハイ・ヴォルクの声で気づいたが、もうツィニキートは剣を振りかざし、向かって来ていた。
ちっ、笛が鳴る前に来るタイプか!
プレー前に上手くやればカードを貰わないので、仕掛けて来るやつがいたのを思い出す。
「死ねぇ!!」
「訓練で死ねとか言うな!! 一発レッドだぞ!!」
とにかく間合いを取る。
剣は間合いさえ気にしておけば、大して怖くない。
そして脚力は毎日走り込んでいる俺の方がずっとあるはずだ。
とりあえず走り回ってあいつを疲れさせるか……と、思ったその時、ツィニキートの剣が赤く変色し、刃の部分が炎のように波打った。
「馬ぁ鹿が! 【スキル:エクスプロージョン】!!」
ツィニキートが叩きつけた剣先が爆発した!
そして、爆発によって石礫が飛んで来る。
腕でかばうが、痛い。
「くっ、もう【スキル】を発現してるのか!」
驚くべき才能に周囲は喝采しているが、それどころではない。
まずい。
【スキル】を発現したら、身体能力にも補正がかかる。
【筋力強化】や【頑強】っは低レベルのそれでも、常人が敵うものではなくなる!
「はっはー! いい顔だね!! でも後悔するのは遅いぜ!!」
ツィニキートは、わざと直撃を狙わず、周囲を爆破。
少しずつダメージを与えて来る。
ただ削るだけの攻撃だ。
「これこれ! これが正しい力関係ってやつだ!! ずーーーーーーっと気に食わなかったんだよ!! 体力テストでもこれ見よがしに前を走りやがってよぉ!!」
そんなに根に持っていたのか。
神器を得る前のテストなんか、大した意味はないだろうに。
「今もそうだ! 見下すような目をしやがって!!」
「お前が勝手に下がってるんだ!」
「ふざけるなぁ!!」
空振りすら爆風を生んで肌を焼いてくる。
息を止めねば喉が焼かれる!!
「くうっ!」
「はははは!! どうした反撃してみろよ!! 箱のまんまで出来るならなあ!!」
「くそっ、このままなじゃぶり殺しだ!」
「なーにやってるんですかぁ。ボクを使えば、こんな相手楽勝で倒せるのに」
「!」
腰から響く声。
くっそ。
使いたくはなかったが、背に腹は代えられないか……!
たとえスラムのサッカー場でもホームチームに勝たなきゃならない時はある!
絶対に暴動になるのがわかっていても、昇格のために勝ちを狙っていったあの時のように!!
腹をくくれ!
「わかった! 行けエルピ!!」
エルピの箱を放り投げる。
「また箱かぁ!!」
ツィニキートが爆風を箱に浴びせる。
「しまった!?」
と思った次の瞬間、爆風を×字に切り裂いてピエロが現れた。
「な、なあっ!?」
「ふふふん!! こっからはずっとボクのターンですよ!!」
人間大に巨大化したエルピが、黒鉄のナタのようなナイフを両手に構え、得意満面の笑みを浮かべた……。




