2・逆箱化ヒロイン
手の中の、10センチ四方の箱が、急に喋り出した。
よく見れば、ただの鉄の箱ではない。
いつの間にやら、赤と黒のひし形の模様が現れている。
まるでトランプの裏面の模様だ。
更に、いくつも溝があり、複雑な組木細工を思わせる――
「いや、これって……」
さらによくよく観察すると、それは人がうずくまっているようにも見える。
うずくまった人間の上に箱を被せて、無理やり四角く成型したかのような形だ。
箱のサイドに見えるのは、折りたたまれた腕や足なんじゃないか?
顔らしきものは見当たらないが……。
「人間なのか……?」
「半分当たり!」
「うわっ! やっぱり喋った!!」
思わず放り出してしまったが、箱は空中で変形を始めた。
変形玩具のように、てきぱきと腕や足がスライドし、あっという間に人型に姿を変える。
そして現れたのは、小さなピエロ少女だった。
変形玩具のように、パーツはどこか角ばっているが。
箱の際に顔がわからなかったのは、大きなピエロの帽子を被っており、首を下げて折りたたまれていたので、帽子しか見えていなかったのだ。
「な、なんだこりゃあ!?」
「どもーっ! 人型神器のエルピですよぉ!!」
にぱっ、と音がしそうな素晴らしい笑顔だ。
おしろいで真っ白に塗られたうえ星や涙滴のペイントがされた顔だが、不気味さを感じさせることはなく、コケティッシュな印象を与えて来る。
間違いなく、プロだ。ピエロの。
「何なんだよ人型神器って……」
「ふふん。見ての通りですよマスター。っと、このサイズじゃ喋りにくいですね。うー、ジャンボ!」
エルピとやらが飛び上がって前転すると、どんなからくりか、人間大に巨大化した。
「どもども。改めて。ボクはあなたの武器、エルピですよ! じゃじゃん!!」
「……そう」
「何でそんなにテンション低いんですかぁ!?」
「なんだろう、生理的に?」
「ひどいこと言う! ボクはこんなにファニーなのに!」
南米でラテンのノリには慣れているが、このぐいぐい感は、その、苦手だ。
エネルギーを吸い取られるというか。
「それより、俺の武器ってのはどういうことだ?」
「それよりって……ファニーがボクの最大のアイデンティティなのに……
まぁ、お答えしますけど、ボクは神器そのもの。
貴方の手によって覚醒したブロックヒロインですよ!」
ふふん、と腰に手を当てて片足立ちするエルピ。
「ブロックヒロインって何だ……聞いたことないぞ。おもちゃ屋にはありそうだが……」
「おもちゃじゃないですよう! こう見えて超高性能な――」
と、周囲にざわつく声が聞こえてきた。
「おーい、いつまで潜ってるんだー!」
この声は、戦闘教員のパルフェン先生のものだ。
すぐに終わるはずの神器獲得だ。
心配して探しに来たのだろう。
しかし――
「マドレミーア(まいったな)……上手い事説明できるかこれ……?」
ツィニキートは鼻血出して倒れているし、他に二人の生徒も気絶している。
何より、このピエロ姿の不審者は、なかなか説明に困る。
人型神器なんか聞いたことが無いし。
下手すれば部外者を引き入れて級友たちに暴力を振るったなんてことになりかねない。
特にツィニキートは金持ちの子だ。
こういう手合いは、南米でも審判や監督を買収して好き勝手やってたからな。
これ以上、関わりたくない。
鼻血出している以上、正面からやられたわけで、その恥をわざわざ吹聴はすまい。
逃げるが吉だ。
「……よし、とにかく逃げよう」
「何でですか? 最強武器のボクのお披露目チャンスでは?」
「お前を俺の武器だと認めたことはない」
「残念でした~神器は手放せないのですよ!」
「くっ、そうだった」
神器はダンジョンで手に入るが、意味合いとしては神から授かるものとされる。
そのため、基本的に手放すことは出来ない。
中には国宝級神器のように、持ち手を継承していくものがあるが、いずれにせよ自分から手放すことはあり得ないし、感覚的に強く結びつくため、引き離すと精神に大きな負荷がかかるとされる。
「じゃあ、とりあえず箱に戻れ! このままじゃ目立ちすぎる!」
「えー、目立ってなんぼなのに。でも従いますよ。ボクはマスターの武器なので!」
エルピは宙返りするや、小さな箱に戻った。
「……よし、じゃあ見つかる前に帰るか……」
「あ、その前に」
「その状態で喋るな」
「いやいや、大事なことですよぅ」
「何だ」
「あなた専用の箱は、まだあと二つありますよ。ほら奥の壁」
「は!?」
言われて見た奥の壁には、青い箱と緑の箱が、鈍く光っていた――




