1・武器無し男とブロックヒロイン
「はははは!! 何だよサバウロ! お前、どの武器の適正もないのかよ!! はははは!! ご愁傷様!! 人生おしまい確定だねーー!!」
ツィニキートのもやし野郎が、煽ってくる。
相変わらず、レベルの低い煽りだ。
相手を怒らせたいなら、もっとやり方を考えないと。
「お前のおふくろは誰とでも寝る淫売だ」くらいは言わないと、気の短いFWだって殴って来ない。
「な、なんだよその目は!! 何の未来もねえカスの癖に……!!」
くだらない。
見え見えの挑発でレッドカードを貰わないのは基本だ。
味方がリードしてる状況でアディショナルタイムとかなら、喜んで買ってやるが。
時間潰せるし。
「チッ、腰抜けが! 神器ダンジョンで恥かきゃいいさ!!」
こっちが無視していると、ツィニキートは去って行った。
煽ったんなら、後ろから襲われるかもしれないんだから、気を付けながら帰ればいいのに。
まぁ、俺は襲わないが。
何しろ、実年齢はともかく、主観時間的には二回りも下のガキなんだ。
いちいち怒るのも大人げない。
「もう、アンタなしてそげんあるかね!!」
バンと、背中をはたかれる。
「つっ……」
振り向くと、そこには狼の獣人の女の子がいた。
ピンクと黒の二色の髪の間から、イヌ科の耳が出ている。
他には尻尾があるくらいで、それ以外は人間と大差ない。
「なんだ、ハイ・ヴォルクか」
「な、なんだはなかろーもん! 同じ村のよしみで気にかけとーとに!!」
ハイ・ヴォルクの言葉通り、俺とは出身が同じだ。
彼女はばーちゃんに育てられたので、方言バリバリだが、この都会に出て来てもそれは変わらない。
「なんね、さっきの武器適正、全然やったとね」
「そうだ。剣も槍も弓も……他のどれも適正はないらしい」
この国武専――国立武器専門学校では、各地から15~18歳くらいの少年少女が集まり、主に武器の専門教育を受ける。
武器と言っても単純な凶器ではなく、神から授けられることになる神器に備えた訓練を行う場所だ。
「どげんすっと? まさか、やめると?」
「やめないよ。まだダンジョンにも行ってないのに」
「そげん言うたって、適正なかったっちゃろ? 何も貰えんっちゃなか?」
「その時はその時だ」
とは言いつつ、内心ではそう思ってはいない。
俺は、この世界アムカルディアに生まれる前の、地球での前世の記憶がある。
つまり、転生者だ。
南米の路上で銃撃戦に巻き込まれて死んだ俺だが、こうして記憶を持ったまま生まれ変わったことが、理由や意味のないものだとは思わない。
他にそんな奴がいるのかは知らないが、転生した以上は何かの役目を負わされたんだと思う。
それに、地球人の知識からすると、武器が剣や槍だけだとは思えない。
この世界にはまだ無い、例えば銃なんかが貰える可能性は全然あると思っている。
「強がらんと。うちの子分にしてあげてもよかよ?」
「必要ない」
「もう! 馬鹿にして! これでも槍の適正値が89もあったんよ!」
国武専では新入生がある程度環境に慣れて来ると、適正値を試し箱で測る。
見た目は手のひらサイズの立方体で、武器を授かる前の生徒たちに握らせ、それがどんな形に変化するかで武器の適正を見る。
手の中でにぎにぎしていると、勝手に粘土のように変化して、剣や槍の形になる。
その仕上がりを見て、教員が適正を判断するのだ。
ちなみに俺は、箱のままだった。
前代未聞らしい。
「それは良かったな。1部でも頑張ってくれ」
「1部って何ね」
「あ、ああ、すまん。つい昔の癖で……要は国権騎士団に選ばれるかもなって話だ」
「それは流石に言いすぎっちゃないとー? ま、悪い気はせんけど……」
若者には無限の可能性がある。
誰にだって夢を見る権利はあるのだ。
……まぁ、俺はいきなりブラジルに渡って全く通用せずに、南米から中米のあちこちを渡り歩く羽目になったんだが……。
10代のサッカー少年なんてみんな自分がメッシだと思っているものだし、変に斜に構えるよりその方が健全だ。
「とにかく、明日の神器ダンジョン攻略は、うちを頼るとよ」
「いいよ。一人で……」
「そげん、うちが邪魔と? ふんっ、サバウロなんかもう知らん!」
ぷんすこ怒って去っていくハイ・ヴォルク。
ちょっと邪険にしすぎたかもしれない。
しかし、転生者であることで、何か普通と違う神器など得るというのはあり得る。
一人で受け取った方が無難だ。
そもそも、ダンジョンと言っても、神器ダンジョンは、そんなに危険度が高いところじゃない。
ある意味、巨大な試し箱の中に入るようなものだ。
果たして俺は何を得るのだろう。
南米の名門チームの門を叩いた時以来の、わくわくがある。
まぁ、あの時はワイロを用意してなくて問答無用で叩きだされたんだが……まさか、神器までワイロを要求してくるということはあるまい。
*
翌朝。全寮制の国武専で、俺は誰より早く目が覚めた。
ほかの5人のルームメイトはまだぐーぐー寝ている。
緊張ではなく、単に前世からの習慣だ。
毎朝のランニングから一日は始まる。
国武専の敷地内を走っていると、他の連中も起き出して来たが、みな緊張の面持ちだ。
今日で人生が決まると言っていい。
わざわざここに来るような奴は、国権騎士団入りを目指している奴がほとんどだ。
強力な神器を授かればそれも夢ではない。
頑張れ若人たち。
どこか他人事のように聞こえるかもしれないが、俺はせっかく違う世界に生まれ変わったのだからと興味本位で入っただけなので、騎士団に入れなくても別に構わない。
南米各国の下部リーグを渡り歩いた経験からすると、人生どうにでもなるという哲学もあって、楽しみではあれ、不安はさほどなかった。
朝食を終えると、教員の引率の元、神器ダンジョンに向かった。
ダンジョンは国の最重要施設の一つで、この都市内に存在する。
なので、遠足気分すらなく、簡単に到着した。
巨大な箱が、丘に埋まっているような形で、あちこち苔むしており、古からの年輪を感じさせる。
入り口前で教員から注意事項があったが、生徒らは聞いちゃいない。
一刻も早く飛び出して、神器を得たいのだ。
そして、許可が出るや、生徒たちは我先にと中に駆けこんで行った。
「わああああああああああああああああ!!」
俺はそれに巻き込まれるのもあれなので、一人最後方からダンジョンに入る。
中は、無機質な黒い金属の壁が続いていた。
原理のわからない光のラインが走っていて、それが灯りとなって薄暗い程度。
空気は澱んでおらず、絶えず入れ替わっているようだ。
神器というだけあって、このダンジョン自体も、人類の技術を超えたものを感じる。
通路はあちこちに伸びており、各自好きな道に進む。
その先に、壁などに神器の箱が埋め込まれており、それを取り出して己の神器に変形させるのだ。
その意味では、ガチャのようなものと言えなくもない。
と、のんびり歩ていると――
「うわああああああああ!?」
「やめてくれえ!!」
奥から叫び声が聞こえて来た。
蜘蛛の巣のようにあちこちに伸びた通路を、声を頼りに向かうと小部屋に辿り着いた。
二人の生徒が倒れており、うめき声を上げている。
そして、その前には剣を握ったツィニキートが立っていた。
「おい、お前何やってんだ!!」
「そうイキるなよ。別に殺しちゃいない。単にどっちの武器が強いか試してみようぜって言っただけだ」
「やりすぎだろ!!」
「フン、この程度の攻撃も受けられないようなカス武器を引いたんじゃ、どのみち騎士団にゃ入れないさ」
「それはお前が決めることじゃない」
「うるさいな!! いつもいつも舐めた態度取りやがって。
……どうせお前は武器にすら選ばれてないんだ。ここで腕の骨でも折った方が諦めもつくよなあ!!」
「!」
癇癪持ちのツィニキートが、峰を返した剣で斬りかかってくる。
いかに切れ味のない峰とはいえ、あんなものを食らったら大怪我は必至だ。
「このっ! このっ!! 当たれよこらぁ!!」
南米サッカー仕込みの体さばきで攻撃をかわすが、長物を持たれている以上、じり貧だ。
こっちも武器を――
「!」
と、視界に入ったのは、壁に埋め込まれた貯金箱サイズの小箱。
「神器か!」
「いいぜ! 試してみろよ! なんの適正もないお前に扱えるとは思えないけどなあ!!」
テレフォンパンチならぬテレフォン斬撃を繰り出すツィニキートをいなしながら、神器の箱を手に取る。
だが、武器に変わるかもわからないものを頼りにしていられない。
「は?」
俺は小箱を地面に置き、そして蹴った!
「はごすっ!?」
そして、小箱はツィニキートの顔面に直撃した。
鉄の塊を顔面にくらったツィニキートはそのまま気を失って倒れ込む。
「FK成功……いや、顔面クリアされたとも言えるか……?」
とりあえず箱を回収に行く。
やはり何も変化はない。
ただの箱だ。
「結局、俺は本当に何の適正もなかったってことか……」
と、次の瞬間――
「痛ったああああああああああああああああああ!!
何で蹴るのおーーーーーーーーーーーー!!」
箱が、喋った。




