23・神器【七つ鎌】
「先輩!!」
「ずいぶん待たせてもうたな。こっから働くさかい許してや」
鎧を切り裂いたサルルバーンは強がって笑ったが、そんな軽いダメージには見えない。
交通事故直後のようなものだ。
耐えがたい痛みが襲っているだろうし、立っているのも奇跡に思える。
だが、サルルバーンの力をアテにしなければ勝てる相手ではない。
「コオオオオオオ……」
切り裂かれた鎧が起き上がってきているのだ。
顔すらないのにどこから声がしているのか。
少なくとも致命傷には至っていないようで、体を再生していく。
自分に突っ込んで来た事故車が何度も再生して突進してくるとしたらホラーだが、その感覚に一番近い。
「ひぇー、流石にタフすぎない!?」
アイロの銃撃で落としてもらったナタ剣を構えながら、エルピが涙目になる。
確かにいくらなんでもタフすぎる。
首はないし、中身の羽虫は倒したし、鎧も破壊した。
それでも倒せないのだ。
どこが本体なのかすらわからない。
……いや、待てよ。
「先輩、アイツ1分頼めますか」
「舐めんな。10分だろうがいったるわい」
「お願いします。その間に打開策考えるんで」
「期待しとくわ……っと!!」
迫り来る鎧騎士は、どこから出したかわからない槍を両手に持ち、それを高速で突き出して来た。
それを軽やかにかわしながら、サルルバーンは鎌を叩きこむ。
「神器【七つ鎌】! 【雷鎌】!!」
鎌が雷を纏い、鎧を切り裂きながら電撃を流し込む。
そんな【スキル】が秘められていたのか。
七つ鎌というくらいだから、七種類の属性があるんだろうか。
もしそうだとしたら破格すぎる。
いずれにせよ今は彼に任せるしかない。
「マスター! 手伝いますか!」
「そうだな、エルピはサルルバーンの援護だ」
「かしこま! 助けてもらいましたしね」
エルピも前進し、ナタ剣で鎧を削っていく。
一方、ナダレとアイロは、二の足を踏んでいた。
「拙者は……どうしたもんかなぁ。
斬ったとて回復するんじゃあ意味ないしねえ……」
「……私の火力じゃ、倒せない……」
「ちょっと聞きたいんだが、二人は敵を感知する能力とかあるか?」
「ないねえ」
「ない……」
……そうか。
……これは参ったな。
「どしたのよ? 何でその能力がほしかったわけ?」
「たぶん、あの鎧は本体じゃない。魔族は油で動くはず。
なのに、あの鎧をいくら斬っても大して油が出てこない」
「なるほどぉ……」
「どこかに本体があって、鎧を操作してるんだと思うんだが……」
城はただでさえ薄暗いし、隠れているなら本体は小さいはずだ。
それが実在していたとしても、肉眼で見つけるのは容易ではない。
「……やってみる」
「え?」
アイロが、いつになく言葉に力を込めて言う。
「でも、そんな【スキル】ないんだろ?」
「……うん。でも、やってみる」
雲を掴むような話だ。
だが、【スキル】を持たない俺にはわからない感覚で、何かを感じているのかもしれない。
アイロはかがみ込み、まるでビスマルクのゴールパフォーマンスのような体勢で目を閉じると、集中力を高め始めた。
戦場においては命取りとも言える無防備さだった。
「わかった。任せる。
ナダレはアイロの護衛を頼む」
「はいよぉ」
前線のバトルの余波は、破片を撒き散らし、あるいは天井からの落石も招いた。
それをナダレがアイロに当たらないように弾いていく。
普段面倒くさがるくせに、この献身的なクリアの姿勢は、素晴らしい。
俺も座している場合ではないので、何か本体らしきものがないか辺りを見渡すが、全く見当たらない。
と――
「違う。そっちじゃない」
いつの間にか、アイロが立ち上がっていた。
その目が、青く輝いている。
「アイロ……お前」
「本体は、あそこ」
アイロが指さしたのは、古ぼけたシャンデリアだった。




