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16・ジャイアントキリングス

「【クロスカウンター】!!」


 エルピの体が輝き、二本のナタ剣が宙を舞う。

 だが、それはドラゴンの頭を大きく上に逸れていく。

 そのまま、壁面に一本目が突き刺さる。

 

「はい、だーん!!」


 その一本目に、二本目の剣が命中。

 そのまま直角に落下した。

 まるでゴ(・)ー(・)ル(・)ポ(・)ス(・)ト(・)に(・)当(・)た(・)っ(・)て(・)ゴ(・)ー(・)ル(・)に(・)吸(・)い(・)込(・)ま(・)れ(・)る(・)ボ(・)ー(・)ル(・)の(・)よ(・)う(・)に(・)――


「ガアアア!!!???」


 全くの予想外から襲い掛かった剣に、ドラゴンはまるで対応できない。

 炎の残る脳天に、剣が突き刺さる。

 痛覚が残っているのか、大きく首を持ち上げた瞬間――

 

「【三日月返し】!!」」


 ミドルレンジから、ナダレの斬撃が放たれた。

 剣の軌跡がそのまま飛ぶ。

 まさに三日月といった弧を描きながら飛ぶ斬撃は、ドラゴンの視界を大きく外側に逸れていく。

 だから、奴は気づいていない。

 それは、ロベルト・カルロスのフリーキックのように、外れたと思わせるほど外に行きながらも大きく巻いてドラゴンの首に襲い掛かった。


「アギャアアア!?」


 こちらも完全に意識外からの攻撃が命中し、腐りかけの首が半ばまで切り裂かれる。

 知性無き怪物は、ただ痛みに大暴れするしかない。

 それを安全なロングレンジから冷静に見定めているのは、アイロ。


「【スコーピオン】!」


 なんとアイロは、ジャンプしてエビ反り!

 その揃えた両足の踵裏から、ビームを放った!

 イギータかお前は!

 厳密に物理学としてのビームとは異なり、目で追えるスピードの光線――剣と魔法の世界だ。そういうものもあるのだろう――だが、事前動作から全く想像のつかない攻撃である。

 ドラゴンが避けるどころか、大口を開けたところにカップイン。

 口中で炸裂した。


「ボアアアアアアアアアアア……!?」


 ナタ剣が突き刺さった頭や切り裂かれていた首から、爆発が一気に漏れ出す。

 それは容易くドラゴンの頭を吹き飛ばした。

 首を失った巨体が崩れ落ちるのから一瞬遅れ、爆発で撒き散らされた油状の体液が雨のように落ちて来る。


「ほいほいっと」


 それをいつの間にやらナタ剣を回収していたエルピが、勝手に肩車をしてくると、頭上でぐるぐると振り回し、油を弾いてくれた。


「お、おう。ありがとう」

「へへん。ボクって気も利くんですよ」


 まぁ、大方、トドメをアイロに取られたので、アピールしておこうという魂胆だろう。

 ゴールに絡めなかったがビルドアップはちゃんとしていたとアピールしたくなるのは人のサガだ。

 ちなみに、アイロは無言で両膝をついて滑り込みしている。

 あいつはあいつで嬉しかったのだろう。

 そのせいで油に突っ込んで後悔しているが。

 ナダレはなんか不貞腐れながら、体についた油をぬぐっていた。

 一人ご機嫌になれば二人は不機嫌。

 ……ううん。面倒だ。

 だが――


「まさかたった三人でドラゴンゾンビを倒してしまうとは……」


 それも、大したダメージもなく。

 あんな化け物、本来は騎士団がそれなりの犠牲も覚悟しなければならない手合いだ。

 人型神器の凄まじさを改めて思い知る。


「何言ってるんです?」

「ん?」

「四人で倒したんじゃないですか」

「……あー、うん」


 まぁ、そうとも言えるが……。


「俺はただ指示を出しただけだ」

「ていっ」

「いでっ」


 肩車したまま、上からぐるりと回り込んできた手がデコピンしてきた。


「いやぁ~よくないですね~。そうやって自分を卑下されると気持ち良くないです」

「卑下しているわけじゃないが……どう考えてもお前らがすごいだけだからな」

「何言ってるんですか。ボクらみたいなやつ、マスターの指示がなきゃまともに戦えませんよ? あ、これは卑下じゃなくてシンプル事実です」


 ううむ。まぁ、そうか。


「わかったわかった。俺もすごい。これでいいな」

「はい。はなまる」


 額に花マルを指で書かれる。

 監督の威厳とは。


「おーおー、なんや。ホンマにドラゴンゾンビおったんか」


 のそのそと入って来たのはサルルバーンだった。


「だから言ったじゃないですか」

「すまんすまん。まぁ、訓練にはなったからええやろ」

「まぁ、【スキル】も覚醒しましたしね……」

「ほな、先進もうか」

「えっ」


 廊下の奥に進もうとしているサルルバーン。


「いや、【スキル】は発現したんですけど……」

「何言うとるんや。せっかく廃魔城に来たんやで? 一番奥まで行かなもったいないやろ」


 言うや、こっちの反論も聞かずに一人で進んで行く。

 何を考えているんだ……!

 ドラゴンゾンビよりヤバいのがいるかもしれないんだぞ。

 ……いや、それでも勝てるという自信の表れか。


「仕方ない……」

「ま、いいんじゃないですか? ボクもジャイアントキリングしたいですし」

「賛成! 拙者の真価はまだまだここからなのよ」

「……マスターが行くなら、まぁ……」

「……」

 

 まぁ、仕方ない、か。


「よし、じゃあ行こう」

「やったー! 行きましょう行きましょう!」

 

 人の頭の上でに逆立ちして喜ぶエルピ。

 思ったより重くないが、やめてくれ。

 

 後から振り返ってみれば、ここで帰らなかったのは、正解でもあるし、失敗でもあった。

 まさか、あんなのがいるとは……流石に予知能力でもなければわからなかっただろう……。

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