13・廃魔城に巣くう怪物
廃魔城。
第七次魔族大侵攻の際、バイルカルキ国周辺に建てられた橋頭保としての城。
奇怪にねじくれた石の城は、未だに魔物が跋扈している。
魔物は魔族とは異なり知能が低いので侵攻はして来ないが、個々の危険度は極めて高い。
ゆえに廃魔城の破壊は何度も検討されたが、【スキル】覚醒に有用と判断されたことで、進入禁止措置だけでそのまま残されている。
そんな激やばエリアに、俺はいた……。
というか、行かされた。
「ここに入るのか……嫌だなあ……」
「僕かて嫌や」
そう、俺は一人で来たわけじゃない。
流石にそれは自殺行為だし、元老院も俺を殺すのが目的ではない……らしい。
特待寮生たちが親に言いつけていないとは考えにくいし、金持ちたちが元老院にパイプがあるのは公然の秘密だ。
俺を殺しにかかる可能性は、十分にある。
だが、アイロの虚実入り交えたブラフで、神の意志に反する行いは出来ないという枷を、上の人間たちに与えているのは間違いない。
だから、俺を危険度の高いエリアに送りながら、最強の助っ人もまた送り込んでいた。
「サルルバーンさんなら楽勝でしょう?」
「せやから、僕はここに来なあかん意味なんかない」
「すいません。でも引率よろしくお願いします」
「ええ性格しとるわお前」
糸目で短髪で長身痩躯の少年は、【規格外神童】のサルルバーン。
国武専2年で、1年の時点で国権騎士団入りが内定している天才。
当然、【スキル】も発現しており、彼の言う通りここに来る意味は薄い。
ちなみに【スキル】の覚醒とは、スキル発現とスキル成長のいずれの意味も含んでいる。
だから、既に発現しているサルルバーンにも成長の余地はあるから無意味というわけではないが……不機嫌になるのも理解はできる。
「ま、僕がいちいち手助けしとったらお前の成長にも繋がらんわ。一人で入ってき」
「ええっ!?」
「人型神器持ちなんやろ。はよ行きぃや。なぁに、悲鳴が聞こえたらすぐ助けに行ったるさかい」
俺の背中を押して入り口に追いやると、鼻歌を歌いながらルービックキューブのような組木細工をいじり出した。
……本気のようだ。
「仕方ない……行くか」
「お、案外物分かりがええやん。もっと泣きつかれるか思たわ」
「それなりに人生経験はあるほうなので……」
前世でだけどな。
最下層のリーグでは、スラム街がホームのチームもある。
そんなところとの試合では、命がけになる。
勝とうものなら乱闘どころか襲撃を受けるのは目に見えているからな。
ぼろぼろのロッカールームの血痕は嫌でも目に入るし。
なんか、床に人型の線も残ってたりする……。
わざと負ければ済むが、昇降格争いの時はそんなことも言ってられない。
覚悟を決めるのには慣れている。
入り口を封鎖している鉄格子をどかして中に入る。
天窓から入る明かりで、中は案外明るい。
「流石に働いてもらうぞ」
俺は神器の箱を三つとも投げる。
すると、ガシャガシャと人型に変形して人間大のサイズに変わる。
「もー、ボクはピンチで呼ばれたいほうなんだけどなー」
「贅沢言うな」
「拙者は有休中なんだけどぉ?」
「却下だ」
「……」
「無言で睨んでも知らん」
問題児たちだが、そもそも、彼女らのための訓練でもある。
三人バラバラに戦うより、連携した方がいいに決まっているのだ。
「今日はとにかく、みんなの連携を深めていくぞ。
……と、ふと思ったけど、お前たち同士って、そもそも面識はあるんだよな?」
「ないよー」
「え? そうなのか?」
「ブロックヒロインは……最低限の知識だけ入れて送り出されてる……」
「拙者らは、3個組で配置されたことしか知らんよぉ? こやつらがどんな能力があるかもぜーんぜん知らない」
「だったら、余計に今回はコンビネーションを高めてもらわないとな……」
「そんな悠長な暇あるかなー?」
「!」
エルピがナタで指し示したのは、通路の奥から這いずってくる影だった。
「スライムか……」
スライムは不定形の魔物で、人間を窒息させて殺す。
だが、クラゲみたいなものだから、倒すのは容易だ。
俺も見るのは初めてだが、前世ではゲームでさんざん――
「スライムじゃない……」
「なに?」
確かに、話で聞いていたよりずいぶん大きい。
人間の子どもくらいのサイズのはずだが、奥から来る塊は車くらいある。
そして、この饐えた臭いは……。
ずるりと大きく持ち上がるスライム――違う!!
「ドラゴンゾンビ!?」
「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
巨大な腐りかけの竜が、吠えた。




