第6話 ポーションをグミにしたい
グミの商標登録をしてから数日後。ついにリトラグミの発売日がやってきた。
「緊張する……!」
「大丈夫だ!」
「宣伝も打ってたみたいだしな」
「きっと上手くいきます」
店の二階に上げてもらって一階の売り場の様子を伺っていると、開店早々、なだれ込むように沢山のお客さんが入ってきた。
「リトラグミってやつください!」
「新発売のお菓子が出たんだって? それおくれよ」
飛ぶようにグミが売れていく。
「なんだよこれ!? 美味い!!」
「もう一個食べたい! グミください!」
「へぇ、グミかぁ。覚えやすい名前でいいね」
そんな声が聞こえてきて、心の底から嬉しくなる。
「リトラグミ本日分完売だ! 明日また来てくれ!」
メレーが宣言する。
「やったな!!」
「うん!!」
レティシアとハイタッチを交わす。
二階に上がってきたメレーが満足気に言った。
「いやぁ、ここまで売れるとはね。大成功だよ。ほら、これが報酬金だ」
「わぁ……! ありがとうございます!!」
(この世界で初めて、グミでお金を稼いだんだ)
「新しいフレーバーのグミの開発も期待してるよ」
そうしてリトラグミの発売は大成功を収めたのだった。
「新しいフレーバー、かぁ……」
帰途につきながら呟く。
「最近新商品の研究してたよな。あれはどうなったんだ?」
「それが、実は……」
アイデアを思い付いて以来、リトラグミの生産の傍ら、魔力回復ポーションをグミ化する研究をしていた。しかし研究開発は思うように進んでいなかった。
というのも、効能を維持しようとすると味が悪くなり、味を維持しようとすると今度は効能が失われてしまうのだ。
それを伝えると、
「……原料の薬草と果物をそのまま食べてみるといいかもしれない」
それまで黙って話を聞いていたルークが口を開いた。
「魔力回復ポーションの原料って知ってるか?」
「ううん」
「ドルゾーっていう薬草と、ピモルっていう果物が原料なんだ。ドルゾーが魔力の源で、ピモルがそれを増強する役割をしてる。それぞれの性質と味を解析すれば、効能を維持したまま味を改善する手がかりを掴めるかもしれない」
「そっか……! 完成品ばかり見てた。まずは原料から分析するんだね」
「ああ。これは僕の推測にすぎないが、効能と味が結びついている可能性がある。それを上手く切り分けられれば、味だけで調整ができるようになるんじゃないか?」
「なるほど……! 分かった、やってみる!」
そうと決まれば早速実践だ。ドルゾーとピモルを購入してきて、いざ実食。まずはドルゾーからだ。
「にっっっが!!!!!」
「ふ、普通は生で食べるものじゃないですからね……」
とてもではないが食べられないほどの強烈な苦味が舌を襲う。けれど数秒もしないうちに、体の奥からじわりと力が湧いてくる感覚があった。
「ん……でも魔力は回復するな」
(苦味が強すぎる。でも後味は意外と残らないな。この苦味が効能の正体なのかな?)
次はピモルを食べてみる。
「おっ、甘いな」
「普通に美味しいですね」
「やっぱり、ピモルだけだと魔力は回復しないな」
ピモルはリトラとは違う甘さだった。蜂蜜のような濃い甘味のあとに、わずかな酸味が追いかけてくる。
(なるほど。ピモルは苦味を消してるわけじゃない。甘味と酸味で飲みやすくしてるんだ)
実験的に、ドルゾーだけを材料にしたグミと、ピモルだけを材料にしたグミを作ってみる。ドルゾーグミは案の定苦くてとても食べられたものではないが、魔力は回復する。ピモルグミはそこそこ美味しいが、魔力は回復しない。
「ドルゾーグミから苦味だけを取り除くことってできるか?」
「どうだろう。やってみるね」
苦味を除いたドルゾーグミを生成して食べてみる。
「……!! 魔力が回復しないぞ!」
「なるほど。少なくとも、魔力の源は苦味と同じ成分に含まれてるみたいだね。うーん……魔力の源から苦味だけを取り除けないかな?」
ルークと議論を重ねながら、試行錯誤を繰り返す。
「くそ……苦味を取り除くとどうしても効能が無くなるな……」
「苦味ありで味を整えるのは無理ですか?」
「これだけ苦味が強烈だとさすがに厳しいと思う」
皆してうーん、と唸る。
「なぁ、ドルゾーとピモルを合わせたグミはどうなるんだ? ポーションと同じ味になるのか?」
「そういえばまだやってなかった。やってみよう」
ドルゾーとピモルの両方を手に持ち、グミを生成して食べてみる。
「本当にポーションそのままの味ですね」
「ん……? 苦味がさっきと少し違うか……?」
(待って……ドルゾー単体の苦味は鋭かった。でも今の苦味は少し丸い。もしかしてピモルが魔力と苦みの成分そのものを包み込んでる? もしピモルが苦味を変化させているなら……)
「待って。今度は二つを合わせた状態で苦味を抜いてみる」
再びドルゾーとピモルの両方を手に持って、今度は苦味を取り除いたグミを生成し、食べてみる。
「!!」
飲み込むと、体の奥に温かい感覚が広がる。さっきドルゾーだけで試した時と同じだ。
「回復してる……!」
「魔力が回復してるぞ!!」
「そうか……! ピモルと結びついたことで、魔力成分と苦味が別々に扱えるようになったのかもしれない」
(なるほど……苦味そのものが魔力だったわけじゃない。ピモルと結びついたことで、魔力を残したまま苦味だけを調整できるようになったんだ)
「これなら効能を残したままで味の調節ができる!! やった!!」
嬉しくて、思わずルークにハイタッチを求める。ルークは少し恥ずかしそうにしながらも応じてくれた。
「よし、僕はポーションから苦み成分だけを取り除く魔法を開発する。ポーショングミが売られても、液体ポーションの需要はあるだろうからな。ポーショングミの開発は頼んだぞ」
「うん! 任せて!!」
(今度こそ、この世界初のポーショングミを完成させてみせる!)
意気込んで、今度は味の調整に移行する。
まずはピモルの量を増やしてみる。
「う、甘すぎるな……」
「薬っぽさは消えましたけど、今度はお菓子としてくどいですね」
今度はピモルの量はそのままに、香りを強くしてみる。
「悪くないかな。でも何か足りないような……」
(ポーションだって分かる風味は必要。でも『薬みたいで不味い』は残したくない)
ピモルの風味を最大限に活かせるよう、味と香りや食感の微調整を行っていく。
「……これだ」
ピモルの香りが先に広がり、そのあとにほのかな薬草の風味が追いかけてくる。苦味はない。それなのに、ちゃんとポーションらしさは残っていた。
「……できた!!」
「こっちもできたぞ!!」
ポーショングミと苦味除去魔法。二人がそれぞれの成果を完成させた頃には、いつの間にか夜が明けていた。




