第37話:紅月の姫君の憂鬱
第37話:紅月の姫君の憂鬱
「その通りじゃよ。不死身であり、飲んだ血液の生命体を殺す、『魔呪』を宿し、吸血鬼の女王なのじゃから。まぁお主の言うレイラとは一悶着あったがな」
俺はこいつの声がやけに高らかで余裕のある声に聞こえた。恐らくだが……いや、間違いない。
「お前……人類の上位連中と組んでるな?」
「当たり前じゃよ。種族間のぐろーばる化とも言うべきじゃな。さて、若き王よ。そなたの欲する剣は近いうちにできる。楽しみじゃなぁ、再び人間同士が大勢殺し合う戦が見れるのは」
「色々聞きたいが、レイラに手を出したら潰すからな……そしてそれを知ってるなら、お前は国際ギルド連合軍にいるのか?」
通話先の姫様は「口がなっておらんなぁ……」と煽り気味に返してくる。仕方ない、今は少し抑えるか。
「聞かせてください。あなたは国際ギルド連合軍の上層部に位置する者ですか?」
「上層部どころが人類の味方じゃよ。むしろレイラの方が人類にとっては敵なくらいじゃ。あの幼子はいずれ、異適を暴走させる。早めに始末するべきじゃよ」
「そんなことを……俺がすると思うのか……?」
「おぬしは望まんかもしれんが、レイラが望むかもしれんのぉ。あの子自身も気がついてるはずじゃ」
俺は怒りと恐怖で通話を切りたかったが、ここで切れば情報を得られないかもしれない。最悪俺なら国際ギルド連合軍の本部にも入れるが、この紅月の姫君に会えるかは分からないのが事実。
「1つ聞かせてください……レイラが異適を暴走させない方法は……?」
「んなもんあれば、妾達があの教団を地獄の果てに追い詰める必要などなかったわ。じゃが、目を取り出すのはやめておけ、世界が滅びるからな。そうそう、お主の剣についても言うように言われとったわ。文明を滅ぼす剣じゃそうだ。レオーサー帝国を滅ぼす覚悟を忘れるなよ?」
プツンと通話が切れる。俺は魔導通信機をしまい、執務室に戻るとレイラはいなかった。
私室か!?
「レイラっ!レイラっ!」
ドアをノックすると、レイラは泣きながら答える。
「レイラは悪い子だから!この世にいちゃいけないから!お兄様まで失うのは嫌!!」
「レイラっ!約束する!俺は絶対に異適の力を完全に封じる策を見つける!だからレイラも頑張るって約束してくれ!」
「……お兄様……無理だよ……異適の力は……どんどん増してるんだから……」
「レイラ……黙ってこの運命を受け入れるつもりか?」
ドアの向こうから「えっ……?」 という声がこぼれ落ちる。
「ストレイドさんの美味しい料理もっと食べようと思わないのか?木造船作りもしたいって言ってたよな?それに……俺はレイラが18歳になったら付き合いたいとすら思っている!これら全ての気持ちを投げ捨てるのか!?」
「お兄様……お兄様っ!!」
ドアが開き、レイラは俺の胸元に顔を埋め、泣きながら背中を抱きしめる。
「レイラ……お兄様がどんな選択肢を選ぶ事になってもレイラだけは守り通す。だから安心して笑顔を見せてくれ」
「う、うんっ!約束だよ!お兄様っ!」
レイラは笑顔に戻り、僅かな涙の粒が光っていたが、これがレイラの求めている希望の光なら、俺はたとえ帝国すら滅ぼしてみせる。
国際ギルド連合軍本部都市アステリア郊外の洋館にて
赤い屋根に、古びた石レンガの昔は豪華だった建物も今や、地震が起きれば容赦なく崩れ落ちる外観をしているこの建物で、『人類側』の吸血鬼が集まっていた。
「はぁ……よくぞ集まった同志達よ。ディレオスの扇動は成功した、今のあやつなら帝国も滅ぼす選択を取れるはずじゃ」
妾のお気に入りの赤いソファには堂々と座るレイドモッド闇光帝が、赤いワインを嗜んでいた。
「まさか、あのディレオスを本当に飼い慣らしちまうとはねぇ。流石現代最上位の吸血鬼様だよ」
「そう思うなら、足くらい机から下ろしたらどうじゃ?」
「すまんすまん。だが、この姿勢が楽なんでね」
「絶命異界『デッドワールド』の魔呪を持つからと言って調子に乗らんでくれ」
彼は「わーかったよ」と気だるそうに足を下ろす。
「さてさて、この吸血貴族さん達をどう動かすおつもりかな?我らが姫君」
「レイラを生かす。何としても守り切る」
「へぇ〜先程の通話とは真逆の答えに思えるが?二重標準というやつかな?」
「ダブルスタンダードと言いたいんじゃろ?答えは簡単じゃ。妾しかあやつを確実に始末できないし、妾の好敵手、らいばるというやつじゃ」
「そりゃご立派な大義名分で」
そのまま妾達はワイン飲むが、やはり血の方が馴染みがいい気がするのが気のせいではないだろう。もう何百年も若い女の子の血を吸ってないのは、吸血鬼としては苦しみが残る。いっそ深夜に街の若い子を襲おうかという、人で言うなら邪悪な妄想が立ち込める。
そんな妄想を抱いていたら堂々と妾の執務室のドアが開かれ、顔を見た時に嫌な予感がした。
「やぁやぁ、化け物の姫君。悪い妄想でもしてないか?」
「貴様っ!我らが女王にっ……!!んんんっっっ!!」
「コイツ殺しちゃっていいか?」
「殺鬼罪で訴えるぞ」
「そりゃあ怖い怖い。神々の代行者でも法律には勝てないからねぇ」
神々の代行者のリーダーはアイアンクローで掴んでいた、貴族吸血鬼を自由にする。
神々の代行者、妾達吸血鬼と長年戦ってきたSSランクパーティ。一人一人が低階層の階層宮なら単独で攻略できるプロの生命殺し集団。お互いの本部には入らない規定はどこに行ったのやら。
「おぬしらはなんの用じゃ?」
「いや〜異適の力を暴走する前に止めたいなと思ってね。今のままでは、我々神々の代行者が持つ理念である人類の永続と平和が脅かされそうだと思ってるんだよ」
「そう思うならまずは階層宮を攻略したらどうじゃ?」
「それも結構。だが、異適をどうにかしないとマズイの事実じゃないかな?」
このパーティリーダーの口には、聞く度にイラつきを覚える。もう少し生命の先輩に敬意とか持てんのか。
「代行者さんよぉ、俺は眠いんだ。帰ってくれないか?」
「ほぉ〜レイドモッド闇光帝までいたとは。陰キャすぎて見えなかったよ」
「そうか?それは光栄だ。吸血鬼は日陰者だからね」
「私の父上が君と戦ったそうだが、強かったか?」
「強かったら顔くらい覚えているが……お前の顔に似たやつは血を吸われた人間くらいだな」
一瞬で代行者が消える。来るな……
ソファを置いてある床を大きく踏むと同時に蹴り飛ばして、3部屋貫通し、代行者を吹き飛ばす。
しかし彼にとってはこれは1ダメージ削れたか、ミスダメージくらいだろう。
「いやぁ、まさか動きを読まれるとは。ちょっと本気出しちゃおうかな」
!?あいつ……ガストラフェテスの神話級兵器を使う気か!?
「我らが主よ、尊き生命を侮辱する奴らに鉄槌を。銀色を雷撃を与えたまえ!」
ガチャン……ピシュン!!という銀色に光った雷撃で俺の右腕が持ってかれた。
「おっと、手元が狂ってしまった。今度は心臓に当ててあげるよ」
「いい加減にしろ。代行者と貴族長吸血鬼。妾が本気でキレたらこの館ごと貴様らが死ぬのは分かっておるじゃろ?」
「紅月の姫君、異界の解放を!!」
「ふざけるな!おぬしらが会う度に妾の館を破壊したのを忘れたのか!?築年数800年の文化遺産じゃぞ!なんとか文化遺産の補助金でこの建物を維持しとるというのに……」
すると代行者はガストラフェテスというクロスボウをしまい、「降参っ」と言う。
「さて代行者リーダーよ、レイラは妾がなんとかする。というより何とかしないと我々吸血鬼にも生きる道が無いことくらい分かっておる」
「1つ質問させてくれ、異適は魔呪も無効化するのか?」
「いずれはなる……あくまで予想じゃがな。しかしまぁ、異適の根源と繋がる異境鏡橋は帝国にある。ディレオスが帝国を滅せば解決じゃ」
妾は先程の戦闘で割れたグラスを魔力で復元し、ワインを注ぐ。
「便利な魔法ですね、姫君さん」
「そこまで便利じゃったら、壁や屋敷を壊されたくらいで文句は言わんわ。とりあえず請求書は神々の代行者にお送りするからな。300万ルピーは覚悟じゃぞ?」
「枢機卿殿に怒られますね。まぁ命があるだけマシと考えるか」
「レイドモッドももう少しやり方を考えろ。あの若造の何十倍も生きておるんだから知恵くらい回さんか!」
「悪かったよ、紅月の姫君」
妾がワインを飲み終わる頃には彼の腕は治っていた。全く妾の周りはどいつもこいつも破壊したがる。お祓いとやらに行くべきじゃろうか……
こんにちは!いつもご拝読ありがとうございます!
自分の執筆の特性を色々な数値や評価、自己視点から見直したんですけど、執筆のストーリー力になる中二病的な思考は異世界向きで、本格的な表現・文章表現はミリタリー作品向きというなかなか難しい状態だと感じていましたが、魔法×ミリタリーなら行けるんじゃないかと1ヶ月前のくろいは思って次回作を執筆しております!
もしミリタリー好きの読者様がいらっしゃいましたら楽しみにしてください!それではよい週末を!




