2-13 神様になりました ①
今回、主人公不在です。
ユールシアが『御山』の僧侶達や異世界の『勇者』と愉しい会談をしていた頃、もう一人の高位悪魔である凜涅と退魔師である恩坐は、新幹線の中にいた。
リンネとしてはさっさと一人で飛んで帰っても良かったのだが、リンネがユールシアの身を案じて心配しているはずと思い込んだ恩坐が、やたらとリンネに気を使ってくれていたので、一人で帰ることが出来なかったのだ。
しかも恩坐はユールシアと『悪魔の契約』をしているので、悪魔として彼を蔑ろに出来ない。
リンネもユールシアが心配かと言われたら、はしゃぎすぎていないか心配だったが、ユールシアは獲物を放置して熟成させる趣味があるので、慌てて出向いて獲物を殺してしまったら、会話をして貰えなくなる危険性がある。
時は、恩坐が襲撃を受けた直後まで遡る。
男二人でユールシアの所へ向かおうと移動を始めたが、携帯電話が通じる場所に戻るだけでも数時間を要し、そこから慈円に連絡を取ったところ、ユールシアを招集する為に『御山』の僧正が動いていることを聞かされた恩坐は、碌な詳細も聞かずに『御山』の本殿を目指した。
恩坐がそれを勘違いだと気づいた時は、夜中近くになっていた。
夜中に車を走らせる事も考えたが、いつ同様の襲撃があるかも分からないので、恩坐は公共機関の移動に拘り、運良く空いていた温泉宿で一泊することになったのだっ。
女将は良い人で、夜中に来たいい歳をした男二人組に、生暖かい笑みを浮かべ、新婚用の部屋に案内して鍋まで用意してくれた。
翌朝、早朝に出ようとする恩坐達を引き止めて、精の付く朝食を食べさせてくれたのは、特に穿った他意はないはずだ。
そうして二人は朝早い新幹線に乗り込むことが出来た。もちろん、冷凍ミカンは忘れていない。
「リンネさん、ミカン食うか?」
「…いや」
「嬢ちゃん、心配だな」
「…ああ」
「リンネさん、ミカン食うか? 冷凍だぞ」
「………」
リンネは恩坐の魂を喰わない自分を不思議に思う。もちろんユールシアの契約者と言うこともあるが、こういう恩坐のお人好しなところをユールシアが気に入ったのかと、しみじみと思った。
彼らがユールシアと合流するのはまだ先のようだ。
その頃、二人の迷子の悪魔がどうしていたかと言うと、ラーメンに嵌っていた。
悪魔なので別にラーメンが美味しいと思って食べている訳ではなく、例の正体不明の『力』の正体を探り、その力を受けた『少年』を捜そうと、彼が好きそうなラーメンが美味しい場所を巡っていたのだった。
「麺が太めでしっかりしていますね」
「野菜と…海産物? ユールシア様好きそう」
「濃厚なのにさっぱりしていますし、良さそうです。そこのシェフ、レシピを」
何のラーメンかは想像にお任せするが、食べなくても良いのに毎回食して、二人は無駄に詳しくなっている。
その代金を払うのに、いつの間に現地の貨幣を手に入れたのだろうか? 答えは、彼女達は一度も代金を払ったことはない。
もちろん高貴な主に仕えている彼女達が食い逃げなどする訳もなく、どうしているのかと言うと、ラーメン屋の前でメニューを見ながら立っているだけで良い。
何を言っているのかと思うかも知れないが、中身はともかく、見た目は十代前半のとても可愛らしい外国人の少女だ。しかも二人ともメイド服。そうなると立っているだけで、若者やらおじさんやら声を掛けてご馳走してくれるのだった。
その後、しつこく彼女達に付きまとった者達の末路は説明するまでもないだろう。
彼女達は普通の『悪魔』なのだから……。
そんな悪魔達の動向を見つめる『存在』がいた。
その『存在』は、『悪魔』という『強者』の気配に揺り起こされ、悪魔が作り出した障気のラインと同化することで、その眠りから目を覚ました。
悪魔達が注意深く障気のラインに注目していれば、その『存在』の残滓が日本のある場所に強く結びついていることに気付けたかも知れない。
その『存在』は、悪魔と言うこの世界に現れた『異物』を恐れた。
まるで産まれたての子供のように……。
***
勇気はホテルから脱出すると無文達と合流もせずに、全力で移動していた。
魔力の残量も気にせず転移の秘術を使い、数百キロ離れた時点で倒れ込むように膝を付いて、荒く息を吐いた。
「…はぁ、はぁ」
勇気は酷く混乱していた。
あのユールシアと言う留学生があの場に居たことではない。
元より彼女に強い魔力を感じて警戒していたので、この国に起こった異常事態に何かしらで関わってくるだろうと予想していた。勇気も自分だけで対処できない場合は、僧侶達よりもよほど信頼できるのではないかとも考えていたほどだ。
それなのに……
「……どうして俺は、あの子に攻撃をした?」
彼女は敵ではない。友人とは言い難いが、彼女は美紗の友人で美紗とは姉妹のように仲の良い相手だ。
それなのに気づけば、勇気はユールシアに向けて剣を振るっていた。
彼女がそれに対応できる実力を持っていなければ、勇気はユールシアを斬り殺していたかも知れない。
彼女は勇気が思っていた以上に強かった。強大な『聖』なる力……彼女がもし勇気の故郷に召喚されたら、伝説の『聖女』と同等に讃えられるだろう。
勇者達を導き、光の勢力に勝利をもたらす、頼りになる味方になってくれるような存在だというのに、その力を思い出すと勇気が感じるのは『恐怖』であった。
なぜ、そう感じるのか、そう感じたのか。
剣を振るう勇気を見て、ユールシアが呟いたあの言葉。
『あなた、何の力を得ているの…?』
確かに今の勇気は、新たに『力』を得て、前世の『勇者』の力を取り戻している。
その力を得てから、何か『敵』を倒さなくてはいけないような思いが心の中に強く渦巻いていた。
その『力』とは何なのか……。
それは少し時を遡る。
京都の竹林で『邪竜クラス』の魔物に襲われた時、不思議な『力』を得て撃退……とは言えないが何とか追い返すことが出来た。
無文達の傷も癒され、不思議に思いつつ警戒していた勇気達に、ある『存在』が姿を現した。
それは光り輝く……小さな子供の姿をしていた。
無文達は驚いて、それが『仏』の化身ではないかと言っていたが、勇気はその存在を『精霊』に近いものだと感じていた。
だが精霊とは何かが違う。強いて言えば、新たに出現した精霊の『新種』ではないかと勇気は考えるが、精霊とは永い年月を掛けて成長するのに、この『存在』からはすでに『大精霊』のような威圧感を感じたのだ。
それなのにその『存在』は、弱々しくこう勇気達に語りかけてきた。
『……タスケテ……タスケテ……』
心の奥底に響くようなその声に勇気達が感じたのは、純粋に幼子を守りたいと思う、『正義感』と『義侠心』であった。
その正体も分からない、敵か味方かも分からないその『存在』を、勇気達は疑いもせずに受け入れて、それを守る為に『力』を受け取った。
勇気はそれからも障気溜まりに湧く魔物を倒しながら、あの『存在』を『美紗』のように感じて全力で戦った。
それは無文達も同じようで、その『存在』の害になるものは親しい者の仇にでも会ったように、魔物も邪魔をする人間もすべて容赦なく打ち倒していった。
無文達が勇気と『御山』から招集を受けた時、無文はかつての仲間達に本当に仕えるべき『仏』が現れたことを伝えるべきと考え、もし『御山』の上層部が無文達を断じようとするならば、『邪悪』として滅ぼすべきだと考え、『黒の勇者』派と呼ばれはじめた者達や勇気も、それを“当たり前”のように感じたのだ。
そして話し合いの中、勇気が僧正の一人を殺すことで戦いが始まった。
それはその僧正が、美紗とその家族に手を出すようなことを言って、勇気の怒りに火を付けたことが原因だが、勇気は今まで感じたことのない激しい怒りに心を焦がされながら、沸き上がった『美紗』への想いと、感じている『怒り』に違和感を感じて、その時に掛けられたユールシアの言葉に混乱した。
「…俺は……何をやっているんだ?」
第二章も山場に入りました。
第三章からはまた『実験』をさせていただきます。
新しいテンプレストーリーを別小説として同時進行しようというものです。
ですが、密接に関わったりしないので、個別に読んでも問題はない内容にしますが、投稿が少し遅れることをお許し下さい。




