第九話 第一の事件
静かな夜、僕はいつものように窓を開け、夜空を眺めながらレニーを盗聴していた。
レニーは不自然なほど疑わしい行動はなく、教室でもチャラ男で同い年のお兄さんといった感じで、悪い印象は聞かない。盗聴すれば何か掴めるかと思っていたが、そううまくはいかないらしい。毎日、友達と喋る声や勉強する声、いびきなど生活音しか聞こえない。それに学校もなにも問題なく平和に学校生活を過ごしている。平和なのはとてもいいことなのだが、正直に言えば拍子抜けであった。
「でももうすぐあれか」
考えているうちに一つの事件を思い出した。
その事件とは原作では序盤の話。オルカが一人で街に出かけているときに起こった事件だ。ある日、一人買い物に出たオルカは遅くなってしまったと、寮へ急いでいると尋常ではない悲鳴を聞いた。主人公のお人好しが無視できるわけなく・・・と、事件に巻き込まれていく。
厄介だ、この事件は被害者が出るため無視ができない。オルカにいかないよう注意をすればいいかもしれないが、その後の物語に支障がでるのは困る。自分の知らない物語は防ぎようがない。
「しかたがないから、手助けしますか」
僕は思い腰を上げた。
薄暗い夜の街を僕は黒いローブをし、狐のお面をつけ、近くで適当に買った使い捨ての杖を持ち、事件が起こる店の前で隠れていた。ここなら、すぐにオルカを助けられるし店の人も助けられる。ただ怪しさは満点だ。下手にオルカにバレるのはよくないので、仕方がないのだが、その前に誰かに見つかって声をかけられたら終わる。
「遅くなっちゃった。」
気配を消し、様子を伺っていると急いでいるオルカの声が聞こえてきた。急いでいるのが分かる、早歩きだ。
さて、そろそろか。僕は顔を少しだけ見せて様子を伺う。
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
男の恐怖に満ちた悲鳴が外まで聞こえるくらい響き渡った。オルカが驚いて肩を跳ねさせた。
「なんだ!?」
オルカは一瞬戸惑ったように固まるが、正義感からすぐに声が聞こえた店の中に飛び込んでいった。
「どうしたん・・・!」
店の中に入ったオルカの言葉が途中で途切れ、顔が恐怖で染まる。
「ガァ、グ、ギュウゥ」
そこにいたのはおぞましい姿をした中級魔物だ。僕が幼少期に見た種族ではなく、人のような形をした、眼がない口が裂けた化け物。オルカは、恐怖からぶるぶる震え思わず後ずさりする。
僕はこの後を知っている。この後、オルカはこの魔物に襲われ怪我をする。魔物に襲いかかられ、左手を折られるほど噛みつかれ恐怖と痛さで気絶する。オルカが気絶をすると魔物は玩具を変え遊ぶように、自分で殺した店主の遺体をぐちゃぐちゃと喰い散らかす、その音で目覚めたオルカは思わず悲鳴を上げてしまい、オルカが鳴ることに気が付いた魔物は鳴る玩具で遊ぶためオルカに飛びつく。しかし杖を常に携帯し、魔法をすでにいくつか習っていたオルカは咄嗟の魔法で魔物に撃退に成功する、というのがこの後起こる事件の一連の流れだ。
しかしそれではその結末ではだめだ、その結末では店主は死ぬし、オルカは怪我をする。あの時の怪我はとても痛かったのだ。そんな目には合わせたくない、それに僕がいる限りはあまり被害は出したくない。こういうところはまだ主人公気質が残っているのかもしれない。僕は自分に苦笑を漏らす。
「グガァァ!」
魔物が鳴いて、オルカに飛びつく。オルカは咄嗟に杖を取り出すことができず、顔を覆うように腕でカバーする。仕方がない。僕は杖を魔物に向けた。魔物を風で攻撃するのは初めてなので、成功するか少し怖いが躊躇している暇はない。
「〝風よ、切り刻め〟」
風は鋭い刃となり魔物に放たれる。魔物の首を狙う、魔物は強くはないが弱くもない、一発で殺せればラッキーとは思ってはいたが、上手くいくとは最初から考えていない。魔物は魔法を避けるように飛びのき、着地すると僕を敵と判別して、鋭い口を開けて飛び掛かってきた。僕もこんな魔物は一週目で、沢山相手してきた。魔物の動きを読むとジャンプして避け、空中のまま飛びつき無防備になった魔物に杖を向ける。
「〝切り刻め!〟」
風がしっかりと魔物の首を捉える。勝った
ブシャッ!ドサッ
重く鈍い音と何かが落ちる音が聞こえた。風はしっかり魔物の首を切り落とした。
部屋が荒らされ、魔物の血で汚くなってしまったが命と比べると安いものだろう。ちゃんと魔物を討伐できたことに安心して息を吐く、失敗するつまりはなかったが油断はならない。二人が無事なことを確認するべく、二人を振り返ると店主は恐怖で気絶しており、オルカは目を見開いてこちらを見ていた。帰りたいところだが、まだ仕事は残っている。
「ねぇ」
「はい!」
僕に話しかけられたオルカは大げさに肩をビクッと上げ、反射的に返事をした。
「これあげる」
「へ?」
僕はまるめた紙をオルカに投げる。オルカは戸惑いつつもしっかりそれをキャッチする。
「任せたよ」
「え、あの」
僕はそういうとそのまま颯爽と店を出た。そしてオルカに追いつかれる前に風魔法で屋根へと上る。予想通り追いかけてきたオルカは、きょろきょろ辺りを見渡した後、誰もいないのをみると恐る恐る紙を開いた。僕はオルカが紙を読んだのを確認すると帰るべく、寮に足を向かわせた。時期にオルカも帰るだろう、紙に書かれている内容に頭を抱えながら。
しかし実はこの事件まだ終わっていない。まだあの魔物を使役する人間が存在するのだ。
一週目と原作では、魔物の追い払いには成功したが倒せてはいないため夜間魔物の被害が出るようになる。この街の魔法使い達が魔物退治に赴くが、中々うまくいかず調査は難航。怪我を直してもらったオルカも仲間達と魔物探しへと出る。そんなときにレニーが魔物の拠点を偶々探し出し、先生にいう前に確信を持つため自分たちで一回見に行くことにするのだ。
今思うとレニーが本当に偶々見つけ出したのかは分からない。十中八九偶々ではないだろうが、そのレニーの偶々を今回待つには、時間がかかりすぎる。前回は見つけるまでに多くの犠牲者が出してしまった。存在する魔物は後二匹、今回も十分犠牲者がでる可能性は高い、しかも今回、逃がすではなく目の前で倒してしまったため問題が大きくなるまで時間がかかる可能性もある。自分で殺しにいっても自分の能力なら問題ないだろうが、これは所謂序盤のボス戦だ、この戦いは成長のための実践となる。だから自分で殺してはオルカ達の成長の機会を奪ってしまうことになる。それはまずい、今後も戦いはあるのだ、成長してもらわなくてはならない。そのため先ほど、オルカに魔物の場所をさした地図と、迎えというメモを渡した。とても怪しさ満点だが主人公体質のオルカなら行くだろう、友達を連れて。きっと動くのは明日だ、早く寝てしまおう、明日に備えて
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次の日の夜、オルカにつかせていた風は外に出ていく音を聞き取った。仲間は四人、一週目、そして原作通りだ。オルカ、レニー、マヌ、シエナ、そしてテオだ。
テオとは本名テオ・ダーマー、可愛い顔をした僕っ子のあざとい系男子、そしていい子の癒し系だ。そしてこの子も最後にレニーに殺される一人である。
五人が外に出たのを確認すると僕もローブとお面をつけこっそりあとをつける。原作なら苦労しつつ討伐に成功するが、僕のような異物がいるのだ、失敗する可能性も大いにある。それに騒ぎに乗じてレニーを暗殺できたら尚良い。
オルカ達は地図を見つつ、地下への階段を発見する。
「なぁ、これやっぱり罠じゃね?」
階段を下りる前にマヌがごもっともなことを言い出す。シエナもそれに賛同するように頷く。
「私もそう思います。やはり先生方に相談すべきでは」
五人は怪しい階段を前に悩みだす。レニーも黙って階段下の様子を見ており、進む様子がない、悩む内容としては正しいのだが僕からしたら勘弁してほしい他ない、一向に前に進もうとする様子がない五人に僕は思わずため息をつく、仕方がない。
「〝風よ、舞え〟」
静かに呪文を唱える。すると風が巻き起こり五人の背中を階段へ押しだした。
「お、お!?」
皆驚いているが特にマヌが情けない声を出す。マヌの反応は正しい、いきなり背中が押されるなど怖さしかないだろう。でも帰られても困るのだ、大人しく進んでくれ
「今!今!絶対敵に呼ばれてた!帰ろう!」
マヌは必至に四人に訴える。四人もさすがに戸惑った顔をしていた。しかしみんなと同じく戸惑っていたオルカは覚悟を決めた顔をする。
「つまり奥に敵はいるってことだ、はやく被害が出る前になんとかしないと」
いまなら先生に任せろよと思うが、オルカのときは自分がどうにかしなくてはと思っていた気がする。主人公気質なのか、それともそれは作者に心をコントロールされていたのだろうか、なんて
「先生方には相談したいですが、今呼ばれたということは下に何かがいるということ。私たちが今帰れば、被害が出てしまう可能性があります。それにオールさんに紙を渡したお方は、オールさんをここに呼びたかったのではないでしょうか。なら帰ってしまえばアジトが変わってしまう恐れもあります。私も今は進むのに賛成です。」
オルカの隣にいたシエナは暗い顔をし、震える両手を握りながらオルカに賛同する。
「シエナさん、僕オルカ」
すっとオルカは名前を訂正する。震えているシエナは気づいていない
「僕はちょっと怖いかも」
テオは涙目であざとくオルカの裾を握る。行くか行かないか、意見が割れた場をまとめたのは今まで様子見していたレニーだった。
「まー、まー。俺らも魔法を練習してる見習いだしー、五人もいればある程度何とか
なるでしょ。もし何かあったら俺が助けてあげるし、ね。」
レニーはなぜかかっこよく決まるウィンクをし、そう言った。授業でレニーはトップの成績だ、一応信頼できるためその意見にマヌもテオも渋々納得した。成績上位といってもまだ入学したての一年生、僕からしたら頼れる要素は全く持ってないが、今の皆からしたらその言葉は心強かったのだ。
五人は静かに階段の先、地下を進む。
「なんか牢屋みたいだな」
マヌは地下を見てそういった。マヌのいうことはある意味間違ってない。ここは昔、奴隷たちが売られたり、働かされていたりした場所。もう今は、奴隷制が廃止されここも使われることがなくなり、ただの廃墟と化した。ここを知る者ももう多くはなく、今こんなところに訪れるのはただの変人くらいだ。奥に進むにつれ空気が変わっていく、それに重い空気を感じる。まだ五人には感じ取れないだろうが着々と敵の方向へと進んでいる。
「なにかいます!」
最初に気が付いたのはシエナ。五人が緊張の面持ちで奥を見る。コツコツと歩く音と共に足音の持ち主の顔が見えた。
「なにかと思えば、ただのガキ五人の侵入ですか」
高身長、長髪銀髪の男。目は鋭く顔立ちは整っているように見えるがどこか気持ち悪い。そんな男は舐めきった態度で五人を見下ろす。こいつが作品で最初のボスである。一週目の時は知らなかったが、原作では名前が書かれていた。
名をアクチュエート、属性魔法は氷、弱くはないが序盤ボスのためそんなに強くもない。しかもこいつは魔人ですらない。ただただ堕ちた人間。それでも今の五人にとっては強敵である。実力でいけばレニーがいるから大丈夫であると思うが、レニーも敵であるため見殺しにする可能性の方が高い。ちゃんと無事に倒せるか、見届けなくては。
五人は異様な雰囲気の男に杖を向ける。
「僕にあの紙を届けさせたのはお前か」
オルカは警戒心高く、アクチュエートに問う。しかし知るはずがないアクチュエートは、はて?と首を傾げる。
「何を言っているのか分かりませんが、ここに侵入してきたからには生きて返しませんよ」
アクチュエートの言葉に一触即発の雰囲気が流れる。そんな五人に対しアクチュエートは、興味なさげな顔。
「私の手を煩わせるまでもないですね。あなた方など、この子で十分です。」
そういうアクチュエートの後ろから、魔物が一匹現れた。僕が幼い頃に出会った魔物と同じ種族だ。頭に大きな角を生やした狼、中級魔物だ。本ではなく初めてみる中級魔物に四人は顔を青ざめさせる。前回、違う中級怪異を一回見たオルカも顔は蒼い。
「なんなんだよ、あれ!!」
マヌがパニック気味に声を荒げる。マヌの問いにレニーが顔を強張らせながら答え
る。
「魔物ってやつだね。しかも中級」
「魔物・・・!本で読んだことはありますが、まさかこんな街中に」
「ひィ!?に、逃げよう!死んじゃうよ!」
あたりまえだが皆、パニック気味だ。テオなんかは目に涙を溜め腰を抜かしてしまった。そんな状況にアクチュエートは楽しそうに、不気味な笑い方をする。
「見られたのに、逃がすわけないですよねぇ」
アクチュエートのその言葉を合図に、魔物が五人に飛び掛かる。
「うわっ」
五人は何とか避けると、出口の方向に走り出した。
「逃げるが勝ちだ!」
「だから先生に言った方がいいっていたんだー!」
オルカの言葉にマヌが叫ぶように文句を言う。五人は全力疾走するが、相手は魔物すぐに追いつかれそうだ。それにオルカは腰を抜かしたテオをおんぶしている。逃げ切れるわけがない。そう悟ったとき、レニーが後ろを振り返った。
「グガァァ!」
魔物は止まったレニーに狙いを定め、飛び掛かる。
「レニー!」
オルカは振り返り、レニーの名を叫ぶ
「なにかあったら、助けるっていたからね」
レニーは不敵にほほ笑みそういうと魔物に向かい杖を構える。
「〝氷よ、貫け〟」
氷は、氷柱のように鋭くなると魔物を貫くように放たれた。何個かは魔物に当たり、何個かは魔物に当たらず消える。しかし足止めとしてはうまくいったようで、魔物は止まった。
「マヌ、テオを頼む!」
「はァ!?おい!」
レニーのそんな姿をみたオルカはテオをマヌに託すと、レニーの隣に立った。
「俺を犠牲に逃げればいいのに~」
レニーはオルカに冷や汗を浮かべながら笑う。
「できる訳ないだろ、お前は相棒で、ここは僕が誘ったんだから」
二人は敵に向かい、杖を構えた。
いやーなんて、熱い展開なんだろう。これであいつが裏切りものじゃなければ最高なのに、僕はひっそりのぞき込みながらそう思った。僕のせいで所々違うところはあったもののほとんど、原作とほとんど変わらない。この後は、結局テオとマヌも参戦、回復属性のシエナの後方支援のもとなんとか討伐するはずだ。
見ていれば予想通り、五人で戦い始めた。テオもマヌも弱い方じゃない、無傷とは言わないがちゃんと倒せるだろう。五人は代わる代わる休みなく攻撃し、魔物に近づかせない。繰り出すのは初級魔法だが、中級魔物も中級の中でもそう強いものじゃない、だんだんと弱っていく魔物にオルカが杖を向け唱えた。
「〝炎よ、焼き尽くせ!〟」
オルカの魔法はしっかりと発動した。
「ガァァァァァ!!!」
オルカから放たれた紅い火は、魔物を焼き尽くす。魔物は最初の頃は苦しそうに暴れていたが、次第に動かなくなって息絶えた。これは本で見た、まだ習っていない中級魔法。普通は初心者が使うような中級魔法で上級など倒せるはずがないが、オルカは同じ中級魔法でも威力が普通の生徒と違う。この場面でオルカの実力が仲間に知れ渡る。しばらくみな燃やされた魔物を見て黙っていたが、マヌがぽつりと言葉を漏らした。
「やったのか?」
それはフラグというものだ、オルカよ。僕は綺麗なフラグに苦笑いを浮かべた
「殺したのですか?たかがガキが」
魔物は死んでいたが、魔物が死んだことを感じ取ったアクチュエートが奥から現れた。アクチュエートは嫌悪感いっぱいの眼差しで五人を睨む。
「舐めてかかった私がバカでした。雑魚相手でも最初から本気で行かなければいきませんね」
やれやれとアクチュエートは肩をすくめて首を振り、杖を構えた。
「仕方がないので私が相手をしてあげましょう。」
五人に先ほどよりも緊張感が走る。だが僕は知っている、こいつは弱い。潜伏する才能と魔物を従わせる才能はあれど魔法の才能はない。だがそれその才能以上にこの男アクチュエートはずるい男だ。この男アクチュエートはいつ、魔物が一匹だといったのだろうか。
「ギュガァ!」
戦う五人の背後から魔物の叫び声が聞こえた。目の前の男に集中していたせいで後ろががら空きになってしまっていた。まだ戦闘に慣れていないためのミスだ。原作と一週目では襲う魔物よりも先にぎりぎりレニーが反応して、一発で討伐する。レニーがオルカと練習していた魔法が成功するシーンだ、そのはずなのに
「おい!レニー!」
「いっ!!」
「シエナさん!」
「っ〝相手を癒せ〟」
なぜレニーは傷を負っているのだろうか。
レニーは魔物に反応できず、無抵抗のまま襲われた。すぐにオルカが魔法でどけたが魔物によって負わされた傷は重症だ。回復属性のシエナも初級の簡単なものしか使えないため、この傷に対しては意味がない。
しかしこの魔物ごときにレニーが反応できないはずがない、できないはずがないのだ、わざとか?僕に気づいての誘き出し?それとも入学前から魔物とつながっていたと思っていたが、本当はまだつながっていない?だから監視も意味がない?僕の頭の中で様々な憶測が流れる。レニーが何を考えているのか、なぜなにもなしに怪我を負ったのか分からない、でもここでそのままレニーが死んでくれれば一番僕にとって都合がいい。都合が、いい
「レニー!」
必死にレニーの名前を呼ぶオルカにアクチュエートが不敵な笑いを見せる。
「お仲間さん、死んでしまいますねー。」
都合がいいはずなのに、胸が大きくドクンと鳴る。
「ッ」
僕は杖を構えた。そしてレニーに杖先を向けると、僕は顔を歪ませ、今にも飛び掛かろうとしている魔物に杖を向けなおした。杖が震えいてるのか狙いが定まらない。狙いを定めるため、僕は大きく息を吸う。
「〝風よ、切り刻め〟」
死角から放出した風は避けられることなく魔物の首を切り落とした。
「っ!」
いきなりのことに皆が驚き止まる。しかし先にオルカ達が我に返った。
「〝炎よ、焼き尽くせ!〟」
「〝土よ、弾丸となれ!〟」
「〝音よ、響け!〟」
オルカの火、マヌの土、そしてテオの音がアクチュエートに降りかかる、先ほどもいったが自身は強くもないアクチュエートはその攻撃を真正面から受けて、あっさりと倒れてしまった。四人は倒したのを確認してから、すぐにレニーに駆け寄る。僕はそんな四人を尻目にひっそりと離脱した。
僕は部屋に戻ると力なく、ずるずると座り込んだ。そして荒い呼吸を落ち着かせるべく。深く深呼吸をする。
「はッ、ふ、ふぅぅ、ひゅ、すぅぅはっ」
助けた、助けてしまった。あと少しで死んだのに。手が震える、頭がぐちゃぐちゃで考えがまとまらない。僕はなにがしたいんだ。自分の考えていることが分からない。殺したいはずだった、そのために今世は生きていくつもりだった。憎くて、憎くて顔も声も二度と聴きたくないとも思うくらい死んでほしくて、復讐を心に決めていた。でも、でも・・・レニーが死にかけたとき、僕は躊躇してしまった。
今までのレニーに怪しい動きなどなかった。だからレニーはまだ魔人と繋がっていなのではないかと、ただの人間のレニーなんじゃないかと思ってしまった。オルカのときは、いや、あの事件が起こるまではレニーのことが好きだった。相棒だった。そんな奴が死ぬ、僕はそう思うと・・・血の気がないレニーの顔をみると見捨てるという行為ができなかった。それに、必死に呼びかけるオルカの姿をみた。まだ仲良くなって間もないのに相棒といえる相手。とても信頼していた、そのレニーが死ぬというときオルカは顔を真っ青にしていた。相棒が死ぬという顔、その表情は自分でありながら、したことがない顔で見ていられなくなったのだ。まだ、覚悟が決まっていない。だから突発的に行動しその時の自分の行為を悔い、自分のことが分からなくて、今こうして取り乱しているのだ。
「レニー・・・」
僕は憎しみをもってレニーの名を呼ぶ。次は、次こそは、絶対自分の手で殺してやる。




