第八話 図書室でお勉強
入学後しばらく座学であったが、ついに今日魔法の実技実践に移った。
それまでの苦労は長かった、魔力の流れ方や込め方、自分の属性魔法の初級魔法を座学で習い、実際に魔力を自分の体の中で操るなど練習を重ねてきた。皆からしたら重要な授業なのは間違いないだろうし、実際魔力について知らなければ、使うものも使えない。そのため必要な授業ではあるのだが、内容としては基礎の中の基礎、前々世ある程度魔法を使えていた僕からしたら当たり前にできることで、つまらない他ないことだ。
しかしそれも今日はついに終わる。今日はその練習の成果を実践として試す日だ。的に向かい自分の教えてもらった初級魔法を放つ。一番最初の実践授業ということで簡単な魔法を一回打つだけ、楽しい訳では決してないが椅子に座って眠たくなるような座学よりかはよっぽどマシだ。
今はクラス皆で実践授業のため外に出ているが外にはクラスメンバーだけでなく、他の人間も待機している。初めてには失敗がつきものということで、医療班がなにかあってもいいように待機しているのだ。
「わくわくするぜ」
皆の魔法を放つ姿を眺める僕の隣にはメイトが楽しそうに立っている、すっかりメイトには懐かれたものだ。一回目や原作では話している姿など一ミリもなかったのに、なぜだかいつも絡んでくる。最初は避けていたがメイトの隣は意外と悪くないことに気が付いたため、最近は気にならなくなった。しかし僕がよく暴走しかけるメイトを止めるせいで狂犬と飼い主と呼ばれているのは解せない。よかったな、メイトふたつ名だ。
「次、メイト・サンチェス」
先生が名前を呼び、順番に魔法が出るも出ないも関係なく魔法を放つ。的まで魔法が届く人が2割、届かないが魔法が出る人3割、そもそも出ない人が4割、魔法が暴走する人が1割といったところだ。メイトなら大丈夫であろう、僕が直々に教えてやったのだから。僕は小さく微笑んで、杖を構えるメイトを見つめた。
「〝闇よ、撃て!〟」
メイトによって放たれた魔法はしっかりと的をとらえ、そして命中した。周りがワッと盛り上がり、メイトはドヤっと得意げな表情をする。うまく放てたことと周りの反応で上機嫌なようだ。メイトはこちらを見ると、にやっとしてピースした。随分なドヤ顔だ。嬉しい気持ちもドヤってしまう気持ちも分からなくはないが、今調子に乗っていると後から痛い目に合うことを後で教えやらないと。そう考えていると、落ち着いた上品な声の呪文が聞こえてきた。
パンッ!
落ち着いた声の呪文で放たれた魔法は、的を狙いまっすぐ放たれ、そのまま的がいい音を立て割れ落ちた。的が落ちた瞬間ワッと場が沸き、僕も思わずそちらを見る。皆が注目する中心にいたのは金髪美少女、カトレア・リアスティ、所謂貴族だ。
「騒ぎ過ぎよ、ただ魔法を撃っただけじゃない」
皆が騒いでいるのを見てカトレアが、ツンとした対応で美しい髪をたなびかせた。
カトレア・リアスティ、オルカ時代に仲が良かった女子の一人。貴族で高飛車のように見えて、ただのツンデレいい子ちゃんだ。最初の頃は、貴族であるため上手く我々のような平民と仲良くできなく、高嶺の花であったが、ある事件を気に一気に仲良くなったのだ。その後もうまく仲良くできないカトレアはツンデレではあったが、最後までとてもいい子であった。しかしそれを知る人間は今や僕しかいないため、今はただの高嶺の花である。現に
「さすがだよな、女王様」
「何があっても冷静そう」
まだ入学して間もないのにも関わらず、貴族なだけで爵位としては全く女王ではないが、性格のせいで女王様というあだ名がついている。カトレアが知れば、恐れ多い、やめなさいとか言いそうだが鈍感気味な本人は気づく素振りはない。
「次、ルーア・アステリ」
ついに僕の名前が呼ばれ、僕は的の前に立ち杖を構える。
下手に成功して注目を浴びたくない気持ち4割、メイトに負けたくない気持ち3割、前々世の気持ちが騒いでちゃんと力を出したい気持ち3割だ。つまりちゃんと的を撃ちたい気持ちが勝った。
「〝火よ、撃て〟」
僕が放った蒼い炎はしっかりと的を射た。そして場が沸く、僕は燃えて落ちた的を見てふっとほほ笑む。正直ちゃんと久しぶりに正式に魔法が撃てて気持ちがよかった。村にいた頃はこそこそバレない程度で練習したり、風の魔法を使っていたが炎の魔法はなんだか気持ちが晴れる。最も初級魔法じゃなくて色んな魔法を使いたい気持ちは強いが、今は我慢だ。
しかしこんなにも普通に魔法を使って目立っても大丈夫なのか、と思うかもしれないがその点は問題ない。なぜなら
ドーン!ゴオォッ!
大きな的が射られた音と的が燃える音、大きな赤い火柱が立ち上がる。
『オォォ!!』
『すっげぇ!』
場がさっきの場以上、盛り上がる。皆の注目は一気に音がした方へ、そこに立つのは、杖を下ろし撃たれた魔法に誰よりも驚いている”オルカ・ハンウィン”。オルカは驚きと興奮で頬を赤らめていた。
「すげよ、オルカ!」
レニーに褒められ肩を組み、嬉しそうなはにかみ笑顔を浮かべるオルカは、クラス中の注目を浴びる。
「さすが首席さま」
「レベルが違うってか」
この時、周りの生徒の魔法の凄さをかき消すように、オルカは魔法を成功させた。
だから僕が成功させるだけでは、ただ成功させただけでは、皆の記憶にはならないのだ。皆の記憶に残るのは、レベル違いを見せた首席さまだから。
「あいつやべぇな」
いつの間にか隣に戻ってきていたメイトは、オルカを見て素直に感嘆の声を出した。先生ですら、眼を見張っている。学園長から魔力については聞いていただろうが、ここまでとはと驚いているのだろう。それにしても
「いいなぁ、首席さまは」
「目立ちたがりなだけじゃね?」
「前から教わってたんじゃねぇの?」
素直にすごいと認める人間がいるように、妬みを持つ人間も存在する。前々世でもこれで随分と苦しんだものだが、ここから始まっていたのは知らなかった。今なら、その気持ちを持つくらいならその分努力し練習に当てろとでも思えるが、今のオルカには難しいだろう。今や自分のことでもないのだが、やはり自分が言われているような気持になって大変腹が立つ。だが僕はもう子供ではないので、言い返すことはせず腹いせに隣にいたメイトを蹴ることで我慢しておいた。
「な、なにすんだ!てめぇ!」
隣で吠える犬を無視し、オルカを見る当事者のオルカは周りの妬みに気づくことなく、自分の放った魔法に興奮しレニーと話が盛り上がっている。これから学園で学ぶことは、全部が初めてのことで全部が楽しいだろう。どうか彼に楽しい学園生活をと僕は密かに願った。
それにしても、ずっと思っていたがこのダサい魔法呪文は何とかならないのか
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あれからしばらく経ったある日、僕が廊下で落ちたものを拾っていることに気が付かなかった生徒がそのまま突っ込んできてぶつかってしまった。
「きゃっ、ごめんなさい!」
尻もちをつく音と本を持っていたのか、重い本が落ちる音が廊下に響く。ぶつかって転んだと思われる少女はすぐに謝ってきた。すぐに謝罪が出るところを見るにいい子だろう。僕は倒れてしまったそんな少女に手を差し伸べる。
「いや、僕も悪かった。大丈夫かい?」
少女は僕の声に反応し顔を上げ、僕の手を取った。顔を上げた少女には見覚えがあった。この子は・・・
「ごめんなさい、ちゃんと前見てなくて」
立ちあがった少女は、可愛らしい声、桃色の髪に金色の綺麗な瞳を輝かせた美少女。
「 シエナ・メリアム」
思わず名前を呼ぶと名を呼ばれたシエナは驚いたようにこちらをみた。
「あれ、ルーアさんだったんですね。」
驚いたルーアに僕も少なからず驚く、今世ではシエナと話したことがなかったが、まさか名前知っていたなんて。クラスメイトなら名を覚えるのは普通かもしれないが、なにせ人の名を覚えるのは苦手なシエナだ、覚えてくれているとは思わなかった。
「僕の名前、知ってたんだね。」
「それはこちらのセリフですよ、知っていただけたとは」
優しい笑顔を浮かべるシエナに普通の男子なら惚れていただろう。僕にはただのドジな少女にしか見えないため、惚れることはないが
「君は有名人だからね」
「え、私なにか変なことしましたか」
不安げそうな顔をするが全く悪い意味じゃない。ただ美少女で有名なだけだ。
それを言っても本人は恐縮するだけ、なので僕はその問いに答えを出さず本を拾い、シエナに渡す。
「たくさん本読むんだね。シ・・メリアムさん」
「シエナでいいですよ。私もルーアさん呼びでしたし」
僕から本を受け取ったシエナはにっこりとほほ笑む。本の数は一冊二冊ではなく、五冊以上はあるだろう。内容も物語ではなく、難しい内容の魔法に関する話ばかり
「勉強するんです。今度テストありますし」
真面目な生徒だ。まだテスト範囲ですら伝えられていないのに今から予想して勉強するなんて、メイトにぜひとも見習ってほしい姿だ。
「そうなんだ。頑張ってね」
「あ」
さっさと立ち去ろうとすればシエナは僕を名残惜しそうに止めた。
この子も実は前々世のあの事件にいた仲がよかった少女なのだ、なのであまり仲良くなりたくないし、この子自体目立つから嫌なのだが。最も、目立つ目立たないはメイトのせいで半分以上諦めてはいるが
「えっと、あのルーアさんって勉強お得意ですか?この後時間があれば」
一緒に勉強でもどうかということだろう。僕は一回目、二回目の人生もあるので勉強はできる方だと自分でいえる。勉強ができる人を勉強に誘うというのは、十分な理由だろう。
「このあとはちょっと」
やんわりと断ろうとすればシエナは分かりやすくしょぼんと肩をおろし、悲しそうな顔をする。そんな悲しい顔をするシエナが捨てられた子犬のように見えてきてしまい、僕の心は揺れ動いてしまう。元よりシエナは前々世の時から妹のように可愛がっていた子でもある。僕はこの子に強くいけない質があるのだ。
「・・・いいよ、少しなら」
「ほんとですか?!」
しっぽがあればブンブンふられていただろうシエナは、心底嬉しそうな顔をする。僕は結局、昔のお人好し様が抜けていない、そう自分で実感してしまった。
二人で図書室へ訪れたがテスト週間でもない図書室は、静かで人があまりいない。
前々世では静かな空間自体は好きなため、たまに訪れて物語を読んでいたりした。今世になっては初めての図書室、静かな空間ということもあり昔の光景が簡単に頭に浮かんできてなんだか懐かしい気持ちになった。
僕らはそれぞれ本をもって、対面で席に座る。シエナは静かに選んだ本をめくり、真剣な表情でよんでいた。一方の僕は、持ってきた本ではなく真剣な表情で本を読み進めるシエナを見つめる。シエナの金色の眼にはたくさんの活字が映っていて、難しい本を読んできることが見て分かる。
「シエナさんは偉いね。ちゃんと勉強をしてるんだ。」
前の僕に見習わせたい。シエナは少し顔を暗くさせる。
「私、恥ずかしい話。文字も読めなかったんです。だから文字の勉強から始まって、授業でも置いてかれてしまうことも少なくなくて」
そうだった、僕の村も田舎だが、シエナの村は端の端の端にある田舎な村で文字を必要としなかったらしい。本を初めて読んだときはとても興奮したといっていたし、前々世は今まで本が読めなかった影響か、本大好きな女の子になっていた。物語でも本が好きで夢見がちな少女とも書かれている。
「恥ずかしい話じゃないよ。君が努力をした誇るべき話だ。」
僕が気持ちを率直に伝えるとシエナは目を開いてこっちをみた。
「何だい」
「いえ、優しいお方なんですね。ルーアさんって」
変なことを言うシエナを理解できず僕は不思議そうな顔を向けてしまう。
「普通のことじゃないかな」
「それが普通じゃないんですよ、私が田舎者ってだけで、勝手にがっかりしたり、悪態つけてくるお方もいますから」
僕も田舎出身だが、そういうことじゃないだろうからそうは言わなかった。人は勝手に人に幻想を抱くものだ。シエナも苦労しているのだろう。僕はある一冊の本をシエナに渡す。
「これは?」
「シエナさんが好きそうな本」
前世シエナが愛読していた本、妖精と人間の恋愛物語だ。
「勉強もいいけど、こういう本で楽しく文字を読むのもいいと思うよ。分からない言葉とか文字があれば教えてあげる。」
シエナは素直に嬉しそうな顔をしながら本を受け取る。
「ありがとうございます。読み終えたら感想をお伝えしますね!」
シエナにいい影響が与えられたのならいいのだが、僕とシエナの好きな本のジャンルが違うため感想を言われても少々困る。分かり合えないし、内容すら知らないので聞くことしかできない。あの本も前々世でのシエナのお気に入りということで知っているだけで、僕は知らない。
それでも頬を緩め嬉しそうなシエナを見ると、一緒に来てあげて、あの本を進めてよかったのかもしれない、と少し思ってしまったのだった。
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次の日、マヌと一緒にいるとシエナが近づいてきた。ちなみにマヌは人懐っこくて、離れなかったので距離を置くことを早々に諦めた。
「ルーアさん!」
シエナはすこし興奮気味に、近づいてきた。綺麗な顔の目の下にはうっすら隈が見える。
「この本とても面白かったです!それでなんですが!この漢字が読めなくて」
見ろ見ろ、とグイグイ本を見せてくるシエナは大人しそうだった昨日とはまるで別人だ。
「すごい興奮気味だな、シエナさん。その本なに?」
マヌは気になる、とシエナの持っている本をのぞき込む。
「昨日、ルーアさんに教えていただいた本です!すごく面白くて」
パッと輝かしく眩しい笑顔にマヌは眩しい、と目を抑えた。
「気に入ってくれたのかい」
「はい!とても!今までこの本に出合えなかったのが悔しいほどです」
笑顔で本を大切そうに抱えるシエナの様子が微笑ましく、小さく微笑んでやる。
僕はそのままシエナが質問してきた漢字の読み方とその意味を教えてやると、シエナは感謝を述べご機嫌な様子で席に戻っていった。マヌは黙ってシエナを見届け席に戻ったことを確認するとニヤニヤしながら肩を組んでくる。
「なぁ、ルーアさんよ。いつ女神さまと仲良くなったんだ。」
シエナを女神さま呼びするマヌに白い眼を向ける。
「だからモテないんだ、マヌ・ブライアント」
「なんでいきなり俺、ディスられたの?!」
マヌを無視して席に座る、シエナを横眼で見ればオルカ達と仲良さそうに会話していた。もう仲が良かった時期か。マヌもこの会話にダルがらみしておりシエナとも今の僕よりかは仲が良かったはずだが、今は僕にダルがらみをしてきている。やはり、記憶違いという訳ではなくマヌはオルカ達とも絡むものの一週目ほどではないように感じる。
「マヌってオルカ達とあんまり絡まないよね」
一週目より
「そうか?」
うーん?とマヌは首を傾げる。
「オルカとは仲いいけど、レニーってなんか好かないんだよな」
マヌは意外と感が鋭いのか自分でもよく分からないけど、と自分で言っておきながら不思議そうな顔をする。マヌと言いメイトと言いこういう馬鹿な男程勘が鋭い。
「でもなんで?」
マヌはなぜそんなことを聞いてきたのかと、こちらを見てくる。
「別に」
もう興味がなくなったと、無視すれば連れないなぁと馴れ馴れしく肩に腕を回してくる。勿論、不快なので腕をバシッと叩き落とした。ひどい!とうるさく訴えてくるマヌのことは勿論無視をした。そんなことをしていると眠たそうでだるそうなメイトものんびりと登校してきた。そしてそのまま僕の近くに席に近づいてくる。
「うわ、ブライアント」
僕の隣にいるマヌに対しメイトはあからさまに嫌そうな顔をする。一ミリも隠す気がない。
ヤンキー系でありながら人見知りでグイグイ来られるのが得意ではないメイトには、誰に対してもグイグイいくおもしろおふざけ系のマヌが苦手らしい。それでも席を変えないのは少々面白いところなのだが
「おっはよー、メイト」
マヌはそんなメイトの様子に全く気にせず挨拶をする、メイトも苦手と言えど無視をすることなく
「おう」
とだけ短く言い、僕の隣に座った。
「全く、二人してドライだよなー」
そう思うなら放っておいてくれ。その気持ちはマヌに一生届くことはない。




