剣舞祭
剣舞祭当日。
スルトが会場であいさつした。
会場はシュヴェーデにある円形闘技場だった。
わざわざこの時のために闘技場をレンタルし、入場料を取っている。
この円形闘技場は古代レーム帝国の建築を模倣したもので、凱旋門と同様である。
スルトがマイクを持ってあいさつする。
このマイクは魔術「拡声」が付与されていた。
「諸君、今年も剣舞祭の季節がやって来た。リストを見る限り、今回の剣舞祭は熾烈な争いになるだろう。それは諸君がヒートアップする試合を見れるということでもある。このような祭りの機会に我々はシベリア民族としての誇りを自己認識できるのだ。剣舞祭は戦争の時をのぞいて中断したことはない。この祭りは我々の伝統である。その戦士たちは大いなる名誉が与えられよう。我々は東の果てよりやって来た民族だ。聞くところによると、我々の祖先は寒冷化とそれによる食糧不足によって、西へと移動したらしい。しかし、どこにいようと我々は父祖たちと共に在る。我々の民族共同体では父祖からの伝統を重んじてきた。だが時に、伝統そのものが変質を被る場合もある。預言者シベリウスの出現がそれだ。預言者シベリウスは宗教的大変革を成し遂げた。当初は彼と彼の賛同者だけだったが、やがて多くの支持者を獲得していった。そしてシベリウス教が我らの新しい伝統になった。私は神を信じる者であり、同時に神の戦士でもある。私自身も一人の戦士としてこの祭りに参加したいがそれは不公平というものだろう。(会場で爆笑が起こる)私は私たちの息子たちに戦いに機会を譲ることにしよう。では、今年も剣舞祭を開催することをここに宣言する!」
スルトがあいさつを終えた。
「うー、今年も剣舞祭が始まったわね!」
「そうだね、シエルちゃん。今年はお兄ちゃんが優勝できるといいよね」
シエルとノエルが観客席で話をしていた。
二人とも興奮している。
ボルテージはマックスだ。
「そうそう、、今年はあのアリオンも出るらしいよ? シエルちゃんは知ってる?」
「え? そうなの? 私には初耳よ」
シエルが目を見開いた。
意外、とでも言いたい顔だ。
「ふーん、そうかあ。でもなあ、アリオンじゃさすがに決勝まではいけないんじゃない? そうおもうけど?」
「でもでも、たまたま運が良くて決勝まで行けるかもしれないよ?」
ノエルが首をかしげる。
「うーん、その可能性もあるか……今年はお兄ちゃんがアンシャル様に勝てるといいけどね」
「そうだよね。去年はお兄ちゃんはアンシャル様と戦って負けちゃったからね」
「今年はいつもより大きく応援しないとね!」
「うん、そうだね!」
シエルとノエルは互いにうなずき合った。
二人はセリオンの勝利を信じていた。
別の観客席で二人の女性が会話していた。
ディオドラとダリアだ。
「ねえ、ディオドラ……あなたはこの祭りの試合を見ていられる?」
ダリアが不安そうにディオドラに尋ねた。
「? どうしたの、ダリアちゃん?」
「私は心配よ。もしセリオン君とアリオンが衆人注目している中で武器で斬り合うなんて……私はとても見ていられないわ。だってこの祭りでは例年必ず負傷者が出るじゃない。せめて武器が木でできていたらいいのに……」
ダリアは神に祈るしぐさをした。
ディオドラは優しくほほえみながら。
「そうね。ダリアちゃんの不安もわかるわ。私もセリオンと兄さんが戦う時は心配で見ていられなかったから……」
「はあ……三人ともエントリーしているのよね? せめて血を流す事態にはなってほしくないわ」
「私は三人は決してそこまでいかないと思うわ」
「? どうして?」
「あの三人は互いに信頼関係で結ばれているからよ。それがあるから私は不安でも試合を見ていられるわ」
「セリオン君とアリオンが戦うことにならなければいいんだけど……」
ダリアはため息を出した。
二人がぶつかることが、不安でたまらないという顔だ。
「セリオンとアンシャル兄さんはどこかで必ず戦うと思うの……それに今年はセリオンはアンシャル兄さんに勝つって渦巻いていたから」
その瞳には一抹の不安があった。
「さあ、これから剣舞祭が始まります! 司会はわたくし、クラリッサ(Klarissa)が実況を務めまーす! まずは第一試合です! セリオン選手対ノクト(Nokt)選手です! さあ、両者、ステージに上がってください!」
円形闘技場は周辺に観客席があり、中央に円盤型のリングがあり、リングの周りは砂地だった。
セリオンと黒髪のノクトが円形のステージに上がる。
「へへっ! 最初の敵があんたとはな。俺もついてないぜ。だが俺も負けるつもりはないんでね。最初から全力で行かせてもらうぜ!」
ノクトがセリオンに剣を向けた。
セリオンは静かに大剣を構える。
「お兄ちゃーん! がんばってー!」
「お兄ちゃーん! 勝ってねー!」
観客席から、シエルとノエルの声がセリオンに伝わってきた。
自然と、セリオンの顔も笑顔になる。
「シエルとノエルか。この戦い、負けられないな」
「それではセリオン選手対ノクト選手、試合、始め!」
ノクトが一気にセリオンに攻め込んだ。
この試合では戦闘不能、または武器を手放した場合失格となる。
「その大剣と渡り合うのは不利! なら、接近戦でその大剣の間合いを逆に封じてやるぜ!」
ノクトはセリオンの間合いを潰そうと攻撃を仕掛けてきた。
ノクトの華麗な連続攻撃がセリオンに迫る。
ノクトは調子に乗った。
「へっ! 反撃のチャンスもつかめねえってか! このまま押してやるぜ!」
ノクトには調子の乗るという悪い癖があった。
ノクトの剣がセリオンを襲う。
セリオンは防戦一方だ。
ノクトは一方的に攻撃していたため、セリオンの反撃を予測できなかった。
重たい大剣が軽々と振るわれる。
セリオンはノクトの剣を強い力でノクトの剣を打撃した。
ノクトの剣ははじき飛ばされた。
ノクトの剣が宙を舞い、落下して、ガランと音を鳴らす。
「おあっ!?」
「おーっと! ノクト選手、武器を手放してしまいました! 武器を手から離した選手は失格となるルールでーす! セリオン選手の勝利でーす!」
「わあああああああ!」
「お兄ちゃん、やったー!」
「お兄ちゃん、すごいよー!」
歓声がセリオンの周囲を支配した。
セリオンの勝利を祝う声だ。
試合はその後も進んでいく。
「さあ、では次はなんと前回の優勝選手、アンシャル選手です! 対するのはボルジャー(Boldcher)選手! さて、どちらの選手が勝つのかー! 試合、開始!」
「ククク、前回の優勝選手と当たるとはな。この俺はついている。あんたを倒してこの俺が最強だと思い知らせてやるぜ!」
ボルジャーの表情が不敵に笑い、己の勝利を確信する。
「行くぜえ!」
「フッ、かかってこい」
それに対してアンシャルは余裕の笑みだ。
ボルジャーがレイピアでアンシャルを突いてくる。
「どりゃあああ! 連速突!」
ボルジャーがすばやい連続突きを繰り出した。
まさに疾風!
ところが……。
「!? なんであんたは傷一つないんだ!?」
ボルジャーが愕然として驚いた。
アンシャルは平然と長剣を手にして立っている。
「フム、おまえには見えなかったか。すべてはじいた。それだけだ」
「ふざけるな! あの速さの剣をすべて防ぐのは不可能だ!」
アンシャルは不敵に笑うと。
「それができるから、こうして立っている」
「えーい! もう一回だ! 連速突!」
「遅い」
アンシャルは風の衝撃をボルジャーに叩きつけた。
「ぐっはああああああ!?」
ボルジャーは吹き飛ばされて、宙を舞った。
ボルジャーが倒れた。
すかさず、クラリッサがカウントを取る。
「おーっと、ボルジャー選手! ダウン! カウントを取ります! 10! 9! 8! 7! 6!……」
ボルジャーは動かない。
彼は気絶していた。
「0! はい! アンシャル選手の勝利でーす!」
「おおおおおおおおおお!!」
観客席から拍手が巻き起こった。
アンシャルは周囲を睥睨する。
アンシャルは目をつぶり、納得したように、リングを降りた。
それからアリオンの試合が行われた。
「続きましてはアリオン選手対ゾルク(Dzork)選手! 両者、ステージに登ってください!」
ゾルクは魔装の鎧をつけた戦士のようだった。
武器は直線的な剣だった。
「アリオンとか言ったか。おまえはあのセリオン殿と親しいそうだな?」
「そうだな……俺にとってセリオンは兄みたいなもんだからな」
「へえ、うらやましいよ。あの英雄とそこまで親しいとはね。では、いざ尋常に……」
「「勝負!」」
アリオンとゾルクが一気に間合いをつめた。アリオンは刀で、ゾルクは剣で打ち合う。
「行くぜえ! 紅蓮剣!」
紅蓮の炎がアリオンの刀を覆いつくす。
紅蓮の炎は揺らめき、揺らぎ、ともる。
これがアリオンの灯火だ。
セリオンもこの試合を見ていた。
「ここにいたか、セリオン」
「アンシャル?」
「アリオンも着実に腕を上げている。アリオンはまだ子供だが、大人に匹敵するほどの実力をたくわえつつある。おまえも油断していると、アリオンに追い越されるぞ? アリオンに足りないのは経験だからな」
セリオンはうなずいた。
「ああ、わかっている。だからこそアリオンの戦いを俺は見ているんだ。あいつも努力してきた。それは俺も知っている」
二人はアリオンに視線を固定させた。
アリオンが紅蓮の刀をゾルクに振り下ろす。
「ぐっ!?」
ゾルクはアリオンと距離を取った。
それはアリオンの優位を認めたということだ。
アリオンとゾルクは互いに距離を保った。
アリオンの刀から紅蓮の炎が赤々と燃える。
二人とも、最後の一撃を出す気だ。
「次の一撃で決着がつくな。セリオン、アリオンの動きをよく見ておけよ?」
「ああ」
「……」
「……」
アリオンは刀を横に構えた。
一方、ゾルクは剣を上に構えた。
双方の攻撃の方向は明確。
あとはただ、ぶつかるのみ。
「行くぜ!」
「終わりだ!」
アリオンとゾルクがぶつかり合い、交差した。
その瞬間、ゾルクの鎧が爆発した。
アリオンの一撃にゾルクの鎧は太刀打ちできなかったのだ。
「ぐう……俺の、負けだ……」
ゾルクは倒れた。
クラリッサが金髪の長い髪を揺らしながら、宣言する。
「決まったー! アリオン選手の勝ーー利! この若きエースに声援を送ってください! 皆さん!」
クラリッサが声を張り上げる。
観客はアリオンをたたえた。
アリオンはセリオンを探した。
いた。
セリオンはアンシャルといっしょに立っていた。
アリオンは不敵な笑みを浮かべると、セリオンに左手の拳を向けた。
これはアリオンからの挑戦状だ。
「ふふっ、アリオンの奴……」
観客の視線がセリオンに集まる。
ダリアはこれを見て背筋が凍るような思いをした。
試合は次の日に持ち越された。
一日で全試合の消化は不可能だったからだ。
その日は雨が降ってきた。
会場から観客は撤収していた。
そこに雨に打たれながら、一人の男がステージに立った。
男は黒いマントを着ていた。
「フッフフフフフ……セリオン・シベルスクにアンシャル・シベルスク、そしてアリオン・フライツか……。我らの敵は着々と実力をつけつつある。我々も力をつけねばならんな。フフフ、ハハハ、ファーハハハハハハハ!!」
黒衣の男の哄笑が円形闘技場全体に響き渡った。
黒衣の男はいつしか消えていた。




