セクスティウス
セリオンはオクタヴィアを宿に連れて行った。
「それで君はいったい何者なんだ?」
「私はオクタヴィア。このレグラス帝国の皇女です。私は私の血を狙われて……それでお忍び中に抜け出してしまいました。あのハルピュイウスは私を連れ戻しにやって来たんです」
オクタヴィアの黒い長い髪が揺れる。
オクタヴィアの面持ちは暗かった。
そこから、セリオンは厄介ごとが舞い込んできたと察する。
「はあ……」
セリオンがため息をついた。
厄介ごとに巻き込まれることは慣れているし、コミットもするが帝国の皇女ともなるとため息も出てこようともいうもの。
「それで、君はどうしてほしいんだ?」
「はい、しばらく私をかくまってもらいたいんです。それと……」
「まだあるのか?」
ただでさえ厄介なことにさらにまだあるという。
この手の連中は厄介なことだけは多いのだ。
「私にはじいのスヴェン(Swen)がいるのですが、三剣将の一人、アトラス(Atlas)に囚われてしまったのです。それを助けてほしいのです」
「……いいだろう。ところで帝国はいったいどうしてしまったんだ?」
オクタヴィアは首を横に振った。
「私にもわかりません。ただ……」
「ただ?」
「はい、セクスティウス(Sextius)という魔道士が現れてから、何かが変わり始めたような気がします」
「セクスティウス……。覚えておこう。どうして帝国は君の血を狙うんだ?」
「それは……私の血を何かの実験に使いたいようです」
「それは誰だ?」
「おそらくセクスティウスだと思いますが……」
「血か……いったい何に血を利用するつもりなんだ?」
「セクスティウスは魔道の実験をしているようです。もしかしたら、そのためかもしれません」
「魔道の実験か……まあいい、今はほかのことが先だ。それでおまえのじいはどこにいる?」
「『紅の塔』です」
セリオンは皇宮の近くにある、紅の塔に侵入した。
この塔には人はいなかった。
セリオンは上へと上がっていく。
会談は円形になっており、上へと続いていた。
塔の最上階手前でセリオンは一人の男と出会った。
その男は赤い服を着ていた。
「よお、よくここまで来たな?」
「おまえは何者だ?」
そう聞かれると男は待ってましたとばかりに。
「俺様はアトラス! 帝国三剣将の一人、アトラス様だ!」
アトラスが剣を取り出した。
セリオンも大剣を構える。
「ククク、ここは狭くて戦いにくい……場所をべつのところに移そうぜ?」
セリオンたちの周囲の風景が歪む。
周囲の風景は音を立てて変わっていった。
「これは、亜空間」
アトラスはニヤリと笑った。
アトラスはそれでご名答と伝えた。
気づくとセリオンたちは火山の中にいた。
「へへへ! おまえ、セリオン・シベルスクだろう? ノクストとハルピュイウスを倒したんだってな? じゃあ、俺様と踊ってくれやあ! 火炎刃!」
アトラスは剣から炎の刃を出した。
火炎刃はアリオンも使える、ポピュラーな技だ。
攻撃が当たった物を炎上させる効果がある。
炎の刃はセリオンへと飛来する。
それゆえ直接斬りつけるのは愚策。
セリオンは氷結刃を出した。
氷の大剣が周囲の水分をも凍らせる。
氷の大剣は炎の刃をあっさりと斬り裂いた。
「いくぜええええ!」
アトラスが接近してきた。
アトラスは炎の突き「火炎突」を出した。
炎の突きだ。
灼熱の炎がセリオンを狙う。
セリオンは氷結刃を炎に当てた。
そして、迎撃を図る。
炎と氷がスパークを起こす。
「くっ!?」
セリオンはやや押された。
氷結刃では少し、足りないらしい。
「へへへ! どうしたよ? これまでか? なら、今、ここ死んでくれやあ!」
アトラスの炎がさらに燃え上がる。
このままセリオンが押し切られると思いきや、セリオンの大剣が青白く輝いた。
「何!?」
これはセリオンの技「氷星剣」だ。
火炎突の炎は氷星剣によって一瞬にして消された。
「バカな!? この俺様の炎が!?」
「おまえの炎はずいぶん涼しいな?」
「この野郎、くたばりやがれ! 火炎斬!」
アトラスは炎の斬撃を放った。
炎がセリオンを呑み込もうとする。
凍てつく氷の光が炎を押しのける。
セリオンの氷星剣は火炎斬を無力化した。
アトラスの炎がかき消される。
「何だと!?」
アトラスは愕然とした。
良くも悪くも、アトラスは状態が顔に現れる性格をしていた。
アトラスは追いつめられている。
アトラスは無意識に後退していた。
セリオンの実力がそうさせたのだ。
「くそが! これでぶっ殺してやるぜ! 爆炎剣!」
アトラスが一撃必殺の技を出した。
爆炎剣はその名の通り、爆炎をまとった剣だ。
爆炎がとどろき、ごうごうと燃えてセリオンを殺すべく迫る。
爆炎剣はセリオンの大剣に当たり、すさまじい爆発を巻き起こした。
さすがの氷星剣も爆炎剣にはかなわなかった。
「フフフ! フハハハハ! ハーハハハハ! 最後に笑うのは俺だったようだな!」
アトラスが大きく笑う。
それは勝利を確信した笑み。
だが。
アトラスの目に氷の粒子が入った。
「何だ? これは? 氷の粒子?」
一瞬にして爆炎剣が霧散される。
「なんだと!?」
そこには氷の粒子をまとった剣を持つセリオンが立っていた。
セリオンの技「氷粒剣」である。
この技はセリオンの氷の技で最上級のものだった。
セリオンは無傷だった。
セリオンが大剣を振るう。
「ぐはあああ!?」
セリオンの大剣はアトラスを斬った。
致命傷だった。
「この、俺様が……」
アトラスは倒れる。
その瞬間、周囲の風景が塔の中に戻った。
「死ぬ前に答えろ。ここに囚われているスヴェンという老人はどこだ?」
「ククク、そいつは塔の地下にいるぜ。おまえみたいな侵入者は必ず、塔の上に登ってくるからな」
アトラスの体から床に血が流れる。
もはや回復魔法をかけてもらわねば助からない量だ。
「ククク、あばよ。がはっ!?」
アトラスは死んだ。
アトラスの体から力が抜ける。
セリオンは地下に行き、スヴェンという老人を助けた。
「なんだと!? 三剣将はすべてやられたというのか!?」
「そのようです、陛下」
玉座の間で、レグラス皇帝「ハルバリウス(Halbarius)」が愕然とした。
ハルバリウスは思わず立ち上がっていた。
それに対して、フードをかぶった男――闇の魔道士セクスティウスはただ客観的事実を淡々と告げた。
別に驚いてはいないらしい。
「どうやら三人ともセリオン・シベルスクに倒されたようでありますな」
「セリオン・シベルスク……。そ奴は何者か?」
「はい、暴竜ファーブニルを倒し、ツヴェーデンに平和をもたらした英雄でございます」
「……」
ハルバリウスは少し理解に時間を要したようだ。
しばらくすると、冷静になったのか玉座に腰かける。
「……オクタヴィアはどうした?」
「どうも、セリオン・シベルスクの保護下にあるようですな」
「オクタヴィアは魔道のしずく……魔石ラピス・ルベル(Lapis Ruber)のことを知っている……オクタヴィアにツヴェーデンにでも行かれては、我々の秘密の計画が漏れてしまう! なんとしてでもオクタヴィアを捉えねばならぬ!」
「その心配はないでしょう」
セクスティウスが冷静に告げた。
「? なぜだ? どうしてそう言える?」
「セリオン・シベルスクの性格では向こうからこちらに攻め込んでくると思われます。
「何!?」
「警備を整えておいた方が良いでしょう。もっとも、どれだけ兵士がいても、セリオン・シベルスクを止められはしないでしょうが……」
セリオンはオクタヴィアと共に皇宮に入った。
皇宮からわんさか兵士が出てきたがセリオンの敵ではなかった。
セリオンはオクタヴィアからの要請で極力兵士を殺さないようにしていた。
もっとも、それでも骨が数本折れることは覚悟しなければならないが……。
セリオンの無双ぶりに、兵士たちは恐れをなして逃げ出した。
しかし、逃げた兵士たちは後ろに控えていた兵士によって斬られた。
この部隊はもし、セリオン・シベルスクから逃亡するようでは斬れと命令されていた。
命令は冷酷なほど確実に実行された。
「味方を斬るか……敵前逃亡も許さないつもりか」
セリオンは残りの兵士を翔破斬で一掃した。
セリオンたちは玉座の間までやってきた。
そこには玉座で倒れた皇帝ハルバリウスがいた。
「お父様!」
オクタヴィアがハルバリウスに近づいいた。
ハルバリウスにもはや息はなかった。
セリオンンはハルバリウスから傷を探した。
ハルバリウスからは血が流れていた。
「誰かが刺殺したのか」
「フフフ、お初にお目にかかる」
「誰だ、おまえは?」
「あなたは……セクスティウス!」
「フフフ、皇帝にはもはや用がなくなったのでね、そのため始末させてもらった」
男はフードの付いた黒いローブを着ていた。
フードの奥からは陰に隠れて顔が見えない。
「セクスティウス、あなたが父を殺害したのですか!」
「フフフ、その通り」
オクタヴィアが怒りの目を向けた。
しかし、セクスティウスは涼しい顔だ。
「初めまして、セリオン・シベルスク。私はセクスティウス。闇の魔剣士だ」
「どうして皇帝を殺した?」
「皇帝には感謝しているよ。なにせ、ラピス・ルベルに必要な大量の血を供給してくれたのでね。もちろん、犯罪者や社会のくずを利用させてもらったが……本当はまだ完成していないくてね」
「ラピス・ルベルとはなんだ?」
「それはね、闇の力を圧縮した石だよ。血の色から赤い石――つまりラピス・ルベルというわけだ」
「そのために多くの人を殺したのか?」
「フ、その通りさ。完成のためには高貴な血が、オクタヴィア皇女の血が必要だったんだが。魔石の力を高めるためにはね。さて、セリオン君、君は皇女を守るだろう? それでは私と手合わせを願おうか」
セクスティウスが黒い長剣を出した。
「さあ、闇の力のすばらしさを、君に味あわせてあげるよ!」
セクスティウスがセリオンに斬りかかってきた。
セクスティウスの攻撃がセリオンを襲う。
セクスティウスの剣には黒い闇がまとわれていた。
それに対してセリオンは光の大剣で迎え撃った。
「アーハッハッハッハ! この闇の力に対抗できるかな?」
セクスティウスは闇の剣でセリオンを攻める。
セクスティウスは己が優位にたっていると確信していた。
闇の力の前に光など無力――。
あのアッコンの惨劇はセクスティウスが闇の魔道の実験として行ったものだ。
セクスティウスにとって多くの人間、そして一都市を犠牲にするなど大したことではなかった。
ジナイーダはセクスティウスの手先だった。
ジナイーダはセクスティウスの指令で動いていたのだ。
セリオンはセクスティウスの剣を見切るため、あえて受け身の構えを取っていた。
「闇黒斬!」
「光輝斬!」
セリオンの光とセクスティウスの闇が衝突する。
光と闇は全属性中最も相反する要素が強い。
均衡は崩れた。
セリオンの光の斬撃がセクスティウスの闇を払いのける。
「ぐおおおおおおお!?」
セクスティウスが悲鳴を上げた。
セクスティウスが顔を引きつらせる。
「くっ!? この私が……闇が光に敗れるというのか……認めない! そんなことは決して認めない! 闇よ、つどえ!」
セクスティウスの剣の闇がさらに膨れ上がり、暗くなった。
「クックック、これが私の闇だ! くらえ、セリオン・シベルスクよ!」
セクスティウスは暗い闇の剣をセリオンに振り下ろした。
「光子斬!」
セリオンは光の粒子をまとい、セクスティウスの闇に対抗した。
二つの剣はスパークを巻き起こし、周囲に被害をもたらしていく。
衝突を制したのはセリオンだった。
セリオンの光子斬がセクスティウスの闇を払った。
セクスティウスは後方の壁に吹き飛ばされた。
「がああ!?」
セクスティウスは口から血を吐く。
そしてそのまま、床に倒れこんだ。
「フフフ、よくもここまでやるものだね……でも、私は負けはしない! 真の闇の力を思い知らせてくれよう! ラピス・ルベルよ! この私に力を! ウガアアアアアアアア!?」
セクスティウスの手に赤い石があった。
ラピス・ルベルだ。
ラピス・ルベルから赤い闇が膨れ上がり、セクスティウスの姿を変貌させていく。
セクスティウスはその闇と同化していた。
セクスティウスの姿は巨大な狼と化していた。
「魔狼」セクスティウスである。
セクスティウスが口を開ける。
「グオオオオオオ! さあ、我が闇の力! たっぷり味わえ!」
セクスティウスが闇の爪でセリオンを攻撃してきた。
鋼鉄の壁でも切り裂けそうな攻撃だ。
セリオンは後方に跳びのいてこれをかわした。
「フン、よけたか。だが、これでもかわせるかあ!」
セクスティウスは闇の爪を連発してきた。
セクスティウスの攻撃が大波のようにセリオンを襲う。
セリオンは光の大剣ですべて斬り裂いた。
セクスティウスは息を吸い込んだ。
セクスティウスは口から闇の息をはいた。
セリオンは光子斬でこの闇の息に対抗した。
セリオンは闇に対抗し、この息を切断する。
闇属性大魔法「邪法陣」。魔法には大魔法という最上級魔法がある。
この邪法陣は闇属性の大魔法だった。
広範囲に効果があり、逃れるのは至難の業だ。
セリオンの足元から邪悪な魔力が噴出した。
セリオンはすぐさま魔法陣の中央を光の大剣で突き、闇の魔力を拡散させた。
「砕けろお!」
「そうはいかない!」
セクスティウスが闇の爪撃を放った。
セリオンは光の大剣でそれを斬り払い、セクスティウスを光子斬で斬り捨てた。
「グギャアアアアアアアアア!?」
セクスティウスの赤い目が大きく見開かれる。
そこには恐怖が彩られていた。
セリオンはセクスティウスを一刀のもとに斬り捨てた。
セクスティウスは人の姿に戻った。
ラピス・ルベルは砕け散った。
後日、オクタヴィアは女帝となり、セリオンと謁見していた。
「そうですか……国に帰るのですね?」
「ああ、この国のいざこざは解決した。俺は修行のために旅をしていたが、そろそろ剣舞祭が近い。俺は帰らねばならない」
「そうですか。今日は夕食を共にするよう予定を調整していたのですが……」
オクタヴィアは気を落とした。
「ははっ。気持ちだけ受け取っておくよ。俺には帰るところがある。俺の帰りを待ち望んでいる人たちがいる」
「そう、ですか……残念です」
「それでは俺はこれで。さよならだ」
セリオンはアクイタニアから去っていった。
セリオンはテンペルに帰還した。
「エスカローネ!」
「セリオン!」
エスカローネはセリオンの胸に飛びついてきた。
セリオンの鼻にエスカローネの甘い香りが広がる。
セリオンはエスカローネをいとおしく思った。
セリオンは自然にエスカローネを抱きしめる。
いろいろ語りたいと思うことがあったのだが、いざエスカローネを前にすると、それらは忘れてしまった。
きっと、どんな言葉でもこの一瞬、この瞬間を説明できる言葉なんてないだろう。
たった一か月離れていただけなのに、とても長く離れていたように感じる。
セリオンは思った。
自分はこれほどまでにエスカローネを必要としていると。
セリオンは一呼吸した。
エスカローネの体温がじかに伝わる。
その体の柔らかさがセリオンを安心させる。
「やっぱり、セリオンは私のところに、帰ってきてくれたわね」
「もちろん俺はエスカローネのもとに必ず帰ってくる」
セリオンとエスカローネは瞳を合わせた。
もう言葉なんて必要ない。
二人はうなずき合うと、自然に唇を合わせた。




