アクイタニア
「これは……」
セリオンは唖然としていた。
それは夜だった。
セリオンの前には闇によって汚染された町が広がっていた。
この都の名は「アッコン(Accon)――。
どす黒い闇がかつて人が住んでいたであろう場所を汚していた。
町の人々は黒ずみ死体となっていた。
町の至る所から腐臭がした。
闇はこの町を侵食し、人が住めない場所へと変えた。
「ここでいったい何が起きたんだ? 闇の侵食が起きたのか?」
セリオンは疑問を抱きながらも、アッコンを後にした。
次にセリオンはベフルート(Befrout)を訪れた。
ベフルートは海港都市だった。
港から海産物がたくさん陸揚げされる。
セリオンはここで魚をいただいた。
海の幸は新鮮だった。
セリオンはレグラス帝国の首都アクイタニア(Aquitania)に行くつもりだった。
そのためにはベフルートの列車から首都入りするのが最も近かった。
セリオンは列車に乗った。
列車は木々のあいだを抜けていった。
レグラス帝国の首都アクイタニアは内陸にあった。
列車に乗って二日、セリオンはアクイタニアに到着した。
セリオンは駅から外に出た。
急に人の人口密度が上がった。
セリオンは駅から赤い城を見上げた。
そこはレグラス帝国の宮廷がある場所だった。
レグラス帝国は東洋と西洋がぶつかる地点に位置する。
そのため、建築には東洋風と、西洋風の混交が見られた。
文化的にも宗教的にも、レグラス帝国は西洋と東洋が交わる地なのだった。
西と東が交わる独自の文明だということだ。
「おまえがセリオン・シベルスクか?」
「……誰だ、おまえは?」
「ククク、俺はノクスト(Noxt)。帝国三剣将の一人だ」
ノクストは黒い髪に黒い衣を着た男だった。
武器は腰に刀をさしている。
ノクストで特徴的だったのがその目だった。
彼の目は細く長かった。
しかも、冷酷さを内包していた。
「帝国三剣将?」
「レグラス帝国を代表する、三人の軍人よ!」
ノクストの口元がつり上がる。
「戦わない、という選択肢はなさそうだな」
セリオンが大剣を出して、構えた。
「クークククク! その通りだぜ! いいねえ! 体中を熱が駆け巡る! あんたとの戦い、楽しめそうだぜ!」
ノクストが刀を抜いた。
すばやく接近して、ノクストはセリオンを斬りつける。
ノクストはまるで疾風のように刀を振るった。
ノクストの攻撃は鋭かった。
ノクストの剣の技量は極めて高かった。
まるで鷹が攻撃をしているかのようだった。
「三剣将」とういのもうなずける。
しかし、「技」だけで倒せるほど、セリオンは弱くない。
セリオンは「力」と「技」の両方を併せ持つ剣士だ。
セリオンはノクストの猛攻に反撃を入れた。
「なにい!? なぜ、反撃ができる!? この俺が!?」
「行くぞ?」
セリオンがつぶやいた。
ノクストはぞくっと寒気を感じた。
セリオンは大剣を巧みに操り、ノクストの攻撃を受け流し、あるいは力で受け止めた。
セリオンの大剣はノクストを強く、激しく、速く、打ち付ける。
剣術はセリオンの方が上手だった。
さらにセリオンの体の速さが加わる。
セリオンはさながら破壊者のようにノクストに迫った。
今度はノクストの防戦となった。
セリオンは手を緩めなかった。
「こ、この野郎! 俺はこんなところでやられる男じゃないんだよ! くらえ! 夜風!」
黒い風の刃がセリオンに向けられた。
黒い刃はセリオンに振り下ろされる。
それはかなりの鋭さを持っていた。
しかし、セリオンは横に跳びのいて、無事だった。
「はーー、はーー、へへへ、これは防げないだろう? 黒旋撃!」
ノクストは黒い、竜巻上の斬撃を出した。
黒い竜巻はどこまでも深い黒さを持っていた。
セリオンは黒い旋風に呑まれる。
「はーははははは! 見ろ! 俺の勝利だ!」
ノクストは顔を歪めた。
ノクストは勝利に酔いしれた。
ノクストは勝ったと思った。
その時、ノクストの顔に刃が届いた。
ノクストの顔に斬り傷ができた。
出血していく。
「は?」
ノクストは思考が現実についていかなかった。
「無駄だ」
「!?」
無慈悲な判決が下る。
セリオンは光の大剣で、黒旋撃を斬り払った。
黒い旋風が散らされていく。
黒い風は粒子さえ残さなかった。
ノクストは愕然とした。
これが、英雄……龍殺しの英雄セリオン・シベルスクか!
「くっ! なら、接近戦で確実に、殺す! 夜風斬り!」
ノクストは黒い風の斬撃を叩きつけた。
すさまじい風の気流が荒れ狂う。
刀とドッキングした風はありとあらゆるものを断つだろう。
そう、セリオン以外ならば。
セリオンは光の大剣「光輝刃」でそれを受け止める。
セリオンにとっては黒い風は穏やかな風に等しかった。
「なっ、なんだと!?」
ノクストの顔が引きつる。
それはもはや信じられないものを見ていると言ったありさまだった。
自分が押されるのが信じられない……。
おそらくノクストはこれまでの人生で相手から圧倒されるという経験が少なかったのではないだろうか。
セリオンにとってそれは甘さに映る。
「光子斬!」
光の粒子が大剣に集まり、輝く。
これはセリオンの上級光技だった。
光の粒子をまとって、あらゆるものを斬り裂く一撃だ。
光子斬はノクストを斬り捨てた。
「がああああああ!? なっ、この、この、この、俺が!? 帝国でもトップクラスの俺が……ちくしょう……」
ノクストは倒れた。
セリオンはノクストとの戦いののち、宿を予約した。
今しばらく夜までは時間があるため、セリオンはアクイタニアを観光することにした。
レグラス帝国の独自の建築がセリオンの目を引いた。
建物についている、丸い塔と、縞模様、西洋と東洋が融合している建築様式だ。
レグラス帝国はかつて古代レーム帝国が支配した東方部分と領域が重なる。
これはレグラス帝国がレーム帝国の末裔だと自称していることからもわかる。
セリオンは大公園を訪れた。
セリオンは一休みするためにベンチに座った。
「ふう、今日もいい天気だ」
「お助けを! お助けくださいませ!」
「何だ?」
一人の貴婦人がセリオンの前にやって来た。
息が乱れているところから、察すると、この人はどうやら走って来たらしい。
「わたくし、狙われているんです! 戦士様! 私を助けてください!」
婦人は強く必死に訴えてくる。
「? どういうことだ? 話が見えないんだが?」
そこに斬撃が飛んできた。
「危ない!」
セリオンは婦人を守って斬撃をかわした。
セリオンはすぐに大剣を出す。
「ほう……私の攻撃をかわすとはな。なかなか腕がある奴のようだ」
そこに緑色の服を着た男が現れた。
男は一方的に自己紹介する。
「私はハルピュイウス(Harpyius)。雷の剣士ハルピュイウスだ。帝国三剣将の一人でもある」
「!? 三剣将の一人か。ノクストの仇にでも来たか?」
「!? なぜ、ノクストのことを知っている?」
ハルピュイウスは驚きの表情を見せた。
セリオンは叩きつけるように。
「簡単なことだ。俺が倒した」
「ほう……なら、私の攻撃をかわしたのもうなずける。しかし、ノクストめ。奴が死んだことで私の仕事が増える」
「その語りざま……死者に哀悼の気持ちがあるわけではないようだな」
「フッ、三剣将と言っても、仲がいいわけではないからな。それに私はノクストの猪突猛進なところを軽蔑していたのだ」
「それがおまえたちの味方に対する態度どいうわけか」
セリオンは非難のまなざしを向けた。
「別に、同僚同士で慣れ合うなど私の好みではない。さて、おまえの名前は?」
「俺はセリオンだ」
「そうか。ではオクタヴィア(Octavia)姫を渡してもらおう」
「オクタヴィア姫?」
「フン、おまえにそれを知る権利はない。さあ、どうする? 引き渡すか、それとも死ぬか? 好きな方を選べ」
「答えはどちらもノーだ!」
「フッ、なら消えてもらおう」
ハルピュイウスが両手の剣を構えた。
セリオンは大剣をハルピュイウスに向ける。
ハルピュイウスは剣に雷をまとわせた。
それからハルピュイウスは剣から雷の斬撃を繰り出した。
それは紫色をしていた。
紫の斬撃はセリオンに向かって正確に飛来する。
セリオンは蒼気を発した。
空気が、大気が、気息が震える。
セリオンは大剣に蒼い輝きを出した。
セリオンは蒼波刃を放って、紫の斬撃を迎撃する。
二つの刃は砕け散った。
ハルピュイウスはセリオンとの間合いを一気に詰めてきた。
ハルピュイウスがにやりと笑う。
ハルピュイウスにしてみればもらったと思ったろう。
そんな会心の笑みだった。
ハルピュイウスは突きを出した。
セリオンは大剣でそれを防いだ。
だが。
「うっ!?」
「フフフ、この私の刃は雷の粒子をまとっている。不用意に触れれば感電するぞ?」
ハルピュイウスはそのまま大きく上方に斬り上げる。
セリオンは銀光の大剣でそれをガードする。
銀光の輝きは神剣の魔法無力化だ。
セリオンはとっさにハルピュイウスの攻撃が魔力によるものと判断した。
その判断の正しさはハルピュイウスの攻撃が無効化されたことで証明された。
「何!?」
「おまえの攻撃は魔力を使用したものと見た。ならばこの銀光の光はそれを無効化する」
「フン、その程度で!」
ハルピュイウスは飛んだ。
ハルピュイウスは宙に滞空した。
「フッ、私の本領は空中戦にある。この雷粒子の翼が飛行を可能とするのだ。大雷刃!」
ハルピュイウスは空中を飛行して、雷の斬撃を繰り出してきた。
セリオンはそれに合わせるように蒼気の刃をぶつける。
ハルピュイウスがオーラを発した。
「はあああああああ!! これで、終わりにする! 流星雷!」
雷を伴った斬撃をハルピュイウスが放つ。
セリオンは蒼気の刃を極限まで収束した。
セリオンとハルピュイウスが交差する。
二人は斬撃をそれぞれ放った。
「ぐはっ!? なんだ、と」
ハルピュイウスは地面に落ちた。
その胸から血が流れ落ちる。
「くっ、任務失敗か……セクスティウス様……申しわけ、がはっ!?」
ハルピュイウスは倒れ、そして死んだ。




