ジナイーダ
セリオンは森の中を歩いていた。
森の中は日の光が入り込んでいて明るかった。
木々は新緑の葉をつけ、日の光に照らされていた。
ふと、そこに女性の悲鳴が聞こえた。
「きゃあああああああ!?」
「!? なんだ!?」
セリオンは森の中から女性の悲鳴を聞いた。
セリオンは駆けた。
そして現場まで駆けつけた。
必死に声の主を探す。
そこには一匹のオークが一人の女性を殺そうと、剣を上げていた。
セリオンはとっさに大剣に蒼気を宿らせた。
大剣が蒼く輝く。
「蒼波刃!」
セリオンは蒼気の刃を発射した。
蒼い刃がオークを斬る。
オークは蒼波刃によって即死した。
セリオンは大剣を下ろし、女性に近寄った。
女性は赤いワンピースのロングスカートを着ていた。
髪は三つ編みだった。
「大丈夫か?」
セリオンが女性に声をかける。
「……」
女性はあまりのできごとに放心しているようだ。
セリオンはもう一度声をかけることにした。
「おーい、大丈夫か?」
「あっ、はいっ! 助けていただいて、ありがとうございます!」
女性が頭を下げる。
「俺はセリオン。旅人だ。君は?」
「私はアンネ(Anne)と申します。オルキュニア(Orcynia)村で教師をしています」
「オルキュニア村か……。今日はもう午後だ。野宿は避けたい。できれば、俺をその村に案内してくれないだろうか?」
「はい! 助けていただいた御恩はお返しします! それでは行きましょう!」
アンネはセリオンの前を先導していった。
セリオンは村の中に入った。
村はこじんまりとしていて、どこか寂しい雰囲気だった。
セリオンは村の中を見た。
セリオンの前に学校らしき建物があった。
アンネは宿までセリオンを連れてきた。
そこは小さくて二、三人しか泊まれそうもなかった。
「ここが宿になります!」
「ああ、案内ありがとう。もう大丈夫だ」
「それでは私はこれで!」
アンネは走って去っていった。
「あまり男慣れしていなさそうだったな……」
「あら、男の方? あのアンネが男の方といっしょなんて、珍しいこともあるものね?」
「あなたは?」
そこに煽情的なドレスを着た女性が現れた。
「私? 私はジナイーダ(Zinaida)。この村の酒場を切り盛りしているの。ねえ、お兄さん。よかったら、私の酒場に来ない? 安くしておくわよ?」
「俺は酒は飲まない主義なんだ」
「あら、そう……。残念だわ。お堅いのね。でも、好きよ、そういう人も、私は。ウフフフフ」
ジナイーダが妖艶な顔を見せた。
セリオンに腕をからませてくる。
「お兄さん、お名前は?」
「セリオンだ」
「そう、セリオンさんというのね。また、会えることを祈っているわ。それじゃあ、ね」
そう言うとジナイーダはセリオンから離れていった。
セリオンはその夜、村の宿に宿泊した。
セリオンは疲れていたので、早めに寝ることにした。
夜中のことである。
激しく扉を叩く音がした。
「セリオンさん! セリオンさん! 助けてください!」
セリオンはドアを打ちつける音に起こされて、宿の扉までやって来た。
「どうしたんだ、アンネ? まだ、夜中だぞ?」
セリオンは眠そうに出てきた。
アンネは緊張感を伴っていた。
「大変なんです! 村の子供たちがいなくなってしまって! 森の中に入っていくのを見たんですが……」
セリオンは一気に目が覚めた。
「落ち着け、アンネ。子供たちは森に言ったんだな? わかった。俺が行ってくる」
「私も行きます! 子供たちが心配なんです!」
「わかった。いっしょに行こう」
セリオンはアンネと共に森の中に入っていった。
森の中には明かりがともっていた。
「セリオンさん、あそこから明かりが漏れています。何かあるんでしょうか?」
「そうだな、行ってみよう」
セリオンとアンネは明かりに近づいていった。
そこにはジナイーダを中心にして、子供たちが輪になって踊っていた。
ジナイーダは妖しい儀式を行っていた。
中心では炎が赤々と燃えていた。
「ジナイーダ! 何をしている!?」
セリオンがジナイーダを問い詰めた。
「ウフフフフ……。来たのね、セリオンさん」
「ジナイーダさん、子供たちをどうするつもりですか!」
「フフフ、あなたもやって来たのね、アンネ先生……。この子たちは私の力によって魅了されているのよ。そう、魅了の力によってね」
ジナイーダが妖しくほほえんだ。
「ジナイーダ、おまえは何者だ?」
「ウッフフフフフ、この牙を見せれば私の正体がわかるかしら?」
ジナイーダは口を開けて牙を出した。
「吸血鬼!?」
「そう、ご名答。私は吸血鬼のジナイーダ。さあ、出てきなさい、我がしもべよ!」
ジナイーダは夜の闇から一体の魔物を出した。
その魔物は脚力に優れているらしい。
木々のあいだをぬってその姿を現した。
それは「人狼」だった。
「こいつは……。ヴェアヴォルフ(Werwolf)!?」
「フフフ、そうよ。吸血鬼に従う強ーい、魔物よ。さあ、やっておしまい!」
ジナイーダが人狼に命令を下す。
ジナイーダはすさまじい脚力でセリオンに接近すると、人狼の爪がセリオンを襲った。
まるで風のように爪が振り下される。
セリオンは大剣でガードする。
人狼はセリオンにかみつこうとしてきた。
人狼の牙がセリオンの目に入る。
セリオンはとっさに後退した。
そのまま、セリオンは大剣を構えた。
人狼の次の攻撃に備える。
双方、間合いを取りながら緊張を高める。
二人の視線が交差した。
先に仕掛けたのはセリオンだった。
セリオンは大剣で人狼に斬りかかった。
セリオンの刃が振るわれる。
しかし、人狼はくるりと回転して、セリオンの刃をかわす。
人狼はもう片方の爪で攻撃してきた。
セリオンはバックステップでそれをかわした。
人狼は大きく跳び上がった。
落下のスピードを生かしてセリオンに蹴りを繰り出す。
このまま蹴りを受けるセリオンではない。
セリオンは大剣に雷電をまとわせた。
セリオンの大剣から雷電が放出される。
セリオンは人狼に向かってジャンプすると、雷の大剣で斬りつけた。
セリオンの技「雷電昇」である。
人狼は雷電の刃で斬られて、全身を感電させ、地面に激突した。
人狼は震えながら立ち上がった。
「あの攻撃を受けて立ち上がるとはな……」
セリオンは大剣を人狼に向ける。
人狼はジナイーダへの忠誠からか、牙と爪を出して、セリオンに突っ込んできた。
人狼の姿は満身創痍だった。
セリオンは蒼い闘気を出した。
セリオンの闘気が全身にいきわたる。
もちろん、大剣にまで蒼気は届いた。
蒼く輝く闘気が人狼を一瞬ためらわせる。
しかし、人狼は蒼気を見て、震える体に鞭を打ち、セリオンに向かってきた。
蒼気は大剣とドッキングすることで剣の切れ味を爆発的に高める。
セリオンは蒼気の斬撃を放った。
人狼の首が切断された。
さすがに首を切断されては人狼も立ち上がれなかった。
「人狼は死んだぞ。次はおまえだ、ジナイーダ。子供たちを解放しろ。そうすれば命は見逃してやる」
「ウフフフフフ……。お断りするわ」
「なら、俺はおまえを殺す」
「来なさい、セリオンさん。ウッフフフフフ!」
ジナイーダの周りに黒い球が形成された。
「私の力をあなたは理解できるかしら? さあ、行きなさい!」
黒い球がセリオンの近くにやって来た。
セリオンは本能的に危険を察知し、後退した。
その瞬間、大地が何らかの力で圧縮された。
「!? なんだ、この力は? 地面が爆ぜた?」
「ウッフフフフ! もう、一発、そーれ!」
ジナイーダがセリオンに黒い球を投げつけてきた。
今度は爆ぜる代わりに、セリオンにすさまじい圧力をかけてきた。
「うおおおおおおお!?」
黒い球はセリオンを押しつぶすような圧力を与えた。
「これは……。この力は、重力か!」
「あら、戦士なのに博学なのね?」
「俺は頭の方も鍛えられているんだ。ただの戦士じゃない」
「ウッフフフフフ! いっそう好みだわ! あなたの血はさぞ、おいしいんでしょうね!」
ジナイーダが不敵に笑った。
ジナイーダは己の優位を確信していた。
ジナイーダが二つの重力球を放った。
闇が夜の中で広がる。
セリオンは強大な闇に呑み込まれた。
闇はまるで夜のように黒く、どす黒く染まっていく。
「アッハハハハハハ! さあ、もう倒れたかしらあ? その血をいただくわよ」
闇が晴れると、その中からセリオンが現れた。
光は闇を切り裂き、闇の中からあふれ出てきた。
セリオンの閃光剣だ。
「ぎゃあああああああ!? 光! ひかりい!? 忌々しい! どうして光が!?」
光の剣をかかげるセリオンが闇の中から現れた。
セリオンは光で闇を無力化していた。
「無駄だ! おまえの闇は俺には届かない!」
「くっ、こんなはずは……!? 行きなさい、重力球よ!」
ジナイーダが焦りを見せつつ、重力球を放出した。
重力球がセリオンに迫る。
セリオンは大剣を光で輝かせると、光の斬撃で重力球を一刀両断に斬り裂いた。
セリオンは大剣をジナイーダの前に突き付ける。
「そ、そんな!?」
「これで最後だ! ジナイーダ!」
セリオンは光の大剣でジナイーダを斬りつけた。
「ああああああ!? ……」
ジナイーダは言葉なく倒れた。
「子供たちは正気に戻ったか、アンネ?」
「ねえ、大丈夫? しっかりして?」
アンネが子供をさする。
その瞳には心配の色が現れていた。
「あれ? 先生? なんでこんなところに?」
「俺たちは何で森にいるんだ?」
「うわあああん、先生! 怖いよお!」
「もう大丈夫ですからね。怖いのはこのお兄さんがやっつけてくれたから! さあ、村に帰りましょう!」
「「「うん!」」」
子供たちはアンネの後についていった。
セリオンは宿に戻った。
そして次の日。
「セリオンさん、あなたのおかげで子供たちを助けることができました。ジナイーダをあなたが倒していなかったらどうなっていたか……。本当にありがとうございます!」
アンネが深々と礼をした。
アンネの表情には感謝が現れていた。
「気にするな。俺は旅の途中で偶然この村に立ち寄っただけだ。俺は強さを求めている。そのために力を手に入れたいんだ」
「……セリオンさんが強いことにこだわるのは、何か理由でもあるんですか?」
「そうだな。どうしても勝ちたい相手がいるんだ。その人は俺の師であり、父でもある人なんだが……。俺はいつまでもやられているわけにはいかない。その人を超えて真の強さにいたりたい」
「セリオンさんはどんなお仕事をしているんですか?」
「俺は騎士だ。テンペルという組織に所属している」
アンネははっとしたように。
「テンペル……。聞いたことがあります。宗教軍事組織テンペルと」
セリオンはうなずいて。
「そうだ。そのテンペルだ。ちなみにテンペルは信仰共同体(Glaubensgemeinschaft)であり、民族共同体(Volksgemeinschaft)でもある。それじゃあ、アンネ。世話になったな。神の祝福が君と共に在りますように!」
「ええ、セリオンさんにも!」
そうしてセリオンはオルキュニアを去っていった。
アンネはセリオンの背中をじっと見つめていた。
セリオンは振り返らなかった。




