修行の旅
セリオンは修行のためにレグラス(Regulas)帝国へと旅立った。
事前に、スルト、アンシャル、ディオドラ、エスカローネ、シエル、ノエル、アリオン、ダリアにはあいさつをしてきた。
セリオンは街道を歩きつつ、これまでのことを思い起こしていた。
セリオンの旅立ちの前――。
スルトが今年も行われる「剣舞祭」について演説していた。
「今年も『剣舞祭』を開催する。剣舞祭は歴史ある、我らシベリア人の伝統だ。この祭りで優勝した者は以後、『剣聖』を名乗ることが許される。残念ながら、槍や、斧、弓を武器とする者は参加できない。この祭りでは剣を持つ者のみが参加資格を持つ。この祭りで優勝することは特別な名誉を与えられる。諸君も、この祭りで優勝できるよう、研鑽に励んでもらいたい。これは祭りであって大会ではない。この祭りでは戦いの後、ワインや料理をふるまう予定だ。昨年の優勝者はアンシャル副団長だ。この祭りではアンシャル副団長の活躍が目立つ。ほかの者たちも活躍しつつあるが、今一つパッとしない。この祭りの盛り上がりのため、諸君らの一層の活躍を期待する」
スルトは演説を終えた。
セリオンとエスカローネは庭のベンチで話し合っていた。
「ねえ、セリオン」
「何だ、エスカローネ?」
「今年も剣舞祭が開かれるわね」
「ああ、そうだな」
「どう、今年こそは優勝できそう?」
「うーーん……」
セリオンは難しそうな顔をした。
セリオンにはわかっていたのだ、どうすれば優勝できるか。
だが、その壁は大きかった。
「結局、優勝できるかは、アンシャルを倒せるかどうか、だと思うんだ」
「アンシャルさんを?」
「去年も、おととしも、アンシャルが優勝している。今年こそはアンシャルに勝ちたい。去年はアンシャルと対戦して敗れている。アンシャルに勝つには今までのやり方ではだめなんだろうな」
「去年はセリオンは準優勝まで行ったのよね?」
「ああ、やっぱりアンシャルには勝てなかった。俺の剣の師は二人いる。一人は雷帝スルト、もう一人は風王アンシャル……。どちらも超一流の剣の使い手だ。スルトが出てこないのが幸いだよ。スルトが参加したらスルトの優勝で決まりだろうな。もっとも、だから、それが分かっているからスルトは出場しないんんだろうが……」
「でもセリオン、なにか手はあるの?」
エスカローネが心配そうに尋ねてくる。
セリオンは決意のまなざしを向けて。
セリオンは遠くを見ていた。
「俺は修行の旅に出たい」
「え? 旅に?」
セリオンは深くうなずいて。
「ああ、今のままではだめなんだ。今の訓練の延長にはアンシャルはいない……。アンシャルに勝つためには特別なことをする必要がある」
旅立ちの日、ディオドラと、エスカローネ、シエル、ノエルの四人が門まで見送りに来てくれた。
「セリオン、食事には気をつけること。修行もいいけど休むことも大事よ? あなたはがんばりすぎるところがあるから、休むことも知らねばならないわ。あなたが自分を制御できなかったら何もなしえないのよ? 戦う時と休む時のバランスを考えてね?」
「ああ、ありがとう、母さん」
「セリオン、私はあなたを拘束しようとは思わないわ。あなたはあなたがしたいと思うことをすればいいわ。セリオンが大事に過ごせるよう、私は祈っているから。あなたの目的がかなうといいわね。行ってらっしゃい」
セリオンはエスカローネに感謝した。
「ありがとう、エスカローネ。帰ってきたら二人の時間を作ろう」
エスカローネがほほえみ返す。
「うん、待っているから」
「ねえ、お兄ちゃん!」
「何だ、シエル?」
「今年からアリオンも出場できるみたいよ? アリオンたら、セリオンには負けないぜー、とか言っていたわよ?」
セリオンは真剣な目をシエルに向けた。
「アリオンか? そうか、アリオンもいつまでも子供じゃないからな」
「お兄ちゃん! 絶対にアリオンには負けないでね! それに今年こそ優勝できるといいね!」
「ああ、約束だ、シエル」
「お兄ちゃんがいなくなると私はさみしいよう」
「ははっ、ノエル」
セリオンはノエルの頭に手を置いた。
その髪を優しくなでる。
「そういえば最近はノエルと話をする機会もなかったな。すまないな、心配させて」
「ううん、いいの。わかってるよ。お兄ちゃんの一番はエスカローネさんだって」
「そうだ、今度暇ができたら三人でどこかに行こう」
「え? いいの?」
「ああ、おまえたちも俺の大事なシュヴェスターだからな」
「ありがとう、お兄ちゃん!」
「それじゃあ、みんな。俺は行ってくる」
セリオンは一人一人と抱きしめ合ってしばしの別れを耐え忍ぶ活力にした。
「「「「行ってらっしゃい!」」」」
そうしてセリオンは旅立った。
セリオンは一つの誓いを立てていた。
それは必ず、今年はアンシャルに勝つということだった。
すべてはそのための旅なのだ。
セリオンの中にはアンシャルに勝ちたいという思いがあった。
それは自分の父を越えたいという思いと、師に勝ちたいという思いだった。
アンシャルはセリオンの父にして、剣の師だ。
セリオンにとってはいずれ立ち向かって越えねばならない存在だった。
セリオンはもう振り返らなかった。
後はすべて前に進むだけだ。
道は自分で斬り開く。
自分の可能性を信じて、セリオンはより強くなるために旅立った。
セリオンは己の拳を見つめる。
それはセリオンの決意だった。
セリオンの姿が見えなくなるまで四人はセリオンの後姿を見送った。
「セリオンは発ったのか?」
「アンシャル兄さん……」
そこにアンシャルが現れた。
どこかアンシャルは嬉しそうだ。
「あいつらしいと言えばあいつらしい。修行の旅に出るなんてな。まあ、あいつの旅の目的は私を倒すことなんだろうが……。いい加減に私やスルトを越えてもらわないとな。いつまでも『老人』が居座るわけにはいくまい。いつでも『未来』は『若人』と共に在る」
アンシャルは感慨深そうにうなずいた。
「もっとも、私どころか、アリオンにさえやられるようではこまるのだがな……」




