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Das Heldenlied Neu ヘルデンリート・ノイ  作者: Siberius
Neu Drei Orpheus
82/196

RVマザー

エッシェンハイマー・シュトラーセ(Eschenheimer Straße)――

その一角に、テスカトリポカ社は存在していた。

この通りはシュヴェーデの新市街地にあった。

建物は近代的なビルだった。

テスカトリポカ社は一流の企業で、おもにウイルスを研究し、そのワクチンを作るという医療ビジネスを営んでいる。

セリオンとエスカローネはこの企業の前面に来ていた。

二人はこのビルを下から上に眺める。

その瞳には強い敵意があった。

フロントのガラスは固く閉ざされたままであった。

「ねえ、セリオン。入口は閉まっていて入れないわね。いったん帰りましょうか?」

エスカローネが肩をすくめる。

「いや、その必要はない」

セリオンは大剣を取り出した。

そのままドアまで近づいていく。

「ちょっと、セリオン!」

エスカローネは慌てた。

セリオンの意図に気づいたからだ。

「力づくでも通してもらう!」

セリオンは大剣を振るい、扉を叩き斬った。

ガシャーンとガラスが切断され、地面に落ちてヒビが入る。

ガラスの破片が地面に散らばる。

セリオンは少しも顔色を変えず、

「エスカローネ、行くぞ?」

エスカローネは「あちゃー」とでも言いたげなしぐさをしていた。

セリオンなら扉を叩き割るようには思っていたけれど。

「はあ……。まあいいわ。行きましょう……」

こうしてセリオンとエスカローネはテスカトリポカ社に侵入した。

二人はテスカトリポカ社に乗り込んだ。

驚くべきことに、会社の中は死体であふれていた。

「死体だ……。なぜ、こんな……?」

セリオンが一人の女性に死体に近づいた。

「死後数日ってとこか……。しかも銃殺だ。いったい、この企業で何があったんだ?」

この死体には邪痕はなかった。

つまり、邪痕による犠牲者ではない。

「セリオン、エレベーターが動いているわ」

「よし、乗ってみよう」

「ええ」

二人はエレベーターに入った。

「フハハハハハ! ようこそ、テスカトリポカ社へ。歓迎するよ、セリオン君、エスカローネ君!」

「誰だ?」

エレベータの内部から男の声がした。

エレベーターは順調に上の階に進んでいった。

「私は東条という者だ」

「東条?」

「ラハブ・ウイルスの開発者だよ、この私は」

「!? きさまが邪痕を開発したのか!?」

エレベーターが途中で止まる。

そして扉が開かれた。

そこは研究室だった。

その奥に白衣を着た男がいた。

「ようこそ、二人とも。私の研究室へ。君たちがここに来たということはテンペルは邪痕がウイルス性のものだと気づいたか」

「おまえはここで何をしている?」

セリオンがけわしい目を向けた。

東条の答えによっては今すぐに大剣で斬りかかりそうだ。

「私か? 私はウイルス性の生物兵器の威力を試しているのだよ。各国に売りつけるためにね」

「つまり、あなたの目的はおカネですか!」

エスカローネが非難のまなざしを向けた。

東条は悪びれた様子もなく。

「何かおかしいかね?」

「おカネは生活に必要です! でも、それがすべてではありません!」

「クックック、まるで聖職者のようなことを言うね。そうかね? カネがなかったら何もできないではないか? カネがなければみじめで哀れではないかね? 私はラハブ・ウイルスの開発に人生の大半を費やしてきた。だが、結局はカネなのだ。カネがすべてだ。すべては『利益』のため……。そう悟ったのだよ。会社もすべては利益で動いている。企業は利益の出ない研究には一文たりとも出さない……。それが真理なのだよ」

東条は二人をあざ笑うように言った。

それはまるで真理を理解できない哀れな生物に対する態度だった。

「シベリウス教ではビジネスは禁じられていない。むしろ奨励されている。ただ、それでもあんたの言っていることを、預言者シベリウスが認めるとは思えない」

セリオンが大剣を東条に突き付けた。

白刃が蛍光灯の光を反射して光る。

それには有無を言わせない圧力があった。

「おやおや……。今のツヴェーデンは経済成長を成し遂げつつあることくらい知っているだろう? それをしらけさせるとはな……。経済成長も、GDPも結局はカネもうけではないかね? 我々研究者も結局はカネで動いているのだよ」

「人間はそこまで俗物になれるとは思いません! あなたがしていることは間違っています!」

「そうかね? あれが欲しい、これが欲しい、結局、人のあくなき欲望に火をつけている、それによってカネもうけを促進する……。それが経済成長ではないかね?」

「邪痕を今すぐ止めろ! そうすればいい弁護士を紹介してやる。あとは法廷で決着をつけるんだな」

「ククク、そういうわけにはいかん。拘束などまっぴらごめんだ。私は自由を愛しているのでね」

セリオンが大剣を構えた。

今すぐにでも斬りかかりそうだ。

それを察したのか東条は手を出して、セリオンを制止する。

「おっと、ここで戦われては困る。それでは場所を変えよう」

東条は右手を上にかかげた。

東条がそうすると、周辺の空間がグニャグニャと形を変え始めた。

「これは……」

「セリオン、亜空間魔法よ!」

エスカローネが指摘したようにこれは亜空間魔法であった。

対象を亜空間に引きずり込むのだ。

これは強制的で、この魔法を発動されたら、中断させることはできない。

風景が安定すると、そこは一面黒い大地だった。

雑草一本も生えていない。

ひたすら黒い大地が広がっていた。

「まさか、こんな魔法を使えるとはな。だが、おまえの強さなどたかが知れたものだろう? それで俺たちをどうやって相手をするんだ?」

東条はうれしそうな質問に喜んだ。

「ククク、理解が浅いな。君たちをこの邪園に呼んだのはこいつに戦ってもらうためだよ」

東条の前に行く筋もの模様がある、四角い存在が現れた。

それは波打っていて、体が震えていた。

セリオンとエスカローネはこの存在からただならぬ気配を感じた。

「クククク! わざわざこの私が戦う必要はない。私はバトルマニアではないのでね。君たちの相手はこのラハブ・ウイルス・マザーにしてもらおう。君たちを葬るにはちょうどいい相手だろう? さあ、やれ、RVマザーよ!」

RVマザーは中央に目を持っていた。

大きなウイルスが目を持ち、セリオンたちを威嚇してくる。

RVマザーは魔法を発動した。

それは氷の魔法。

氷魔法「凍結とうけつ」である。

セリオンとエスカローネの足元が凍り付く。

それはまるで氷の花が咲いたかのよう。

氷が黒い大地を青白い氷で染めた。

「ほう……」

東条が少し、称賛するかのようにつぶやいた。

セリオンとエスカローネは氷の魔法が来るとふんだ時から、すでにジャンプして効果範囲から回避していた。

RVマザーはさらに魔法を続ける。

今度は炎の魔法だ。

それは「炎撃えんげき」。

炎属性初級魔法で、炎を波のように浴びせかける魔法だ。

発動時間も短いので、この魔法は割と簡単に使える。

有意性がある魔法で、あまたの魔法使いがこれを使う。

炎が多いかぶるようにセリオンを襲う。

セリオンは炎をにらみつけた。

セリオンは大剣に氷をまとわせる。

氷の刃が形成された。

大剣全体が氷に包まれる。

セリオンの初級技「氷結刃ひょうけつじん」である。

この技は使い勝手がよく、消費魔力も少ないので炎に対抗するには便利だった。

セリオンは氷の大剣を振るった。

一瞬にして氷が炎を圧倒し、斬った。

「フン、この程度!」

RVマザーは加速した。

今度はエスカローネを狙って体当たりをしてくる。

エスカローネにはセリオンやアラゴンのような瞬発力はない。

しかし、エスカローネには高速で移動できる魔法を持っていた。

光翼こうよく!」

エスカローネの背中から光の翼がはえた。

その翼は金色こんじきの粒子で構成されており、まるでその様は彼女を天使と錯覚しそうだ。

エスカローネは空中に浮いた。

そして突っ込んでくる、RVマザーを瞬時によけた。

RVマザーは変則的に動いてくる。

エスカローネはハルバードを構えて砲撃モードに移行した。

ハルバードの先端に金色こんじきの星が形作られる。

金色こんじきの粒子がハルバードから乱舞した。

「ほう……。美しい」

東条が言葉を漏らす。

もっとも、東条は称賛したつもりでも、彼が言うと皮肉に聞こえるのだが……。

エスカローネは金色こんじきの砲撃を発射した。

「金光砲!」

すさまじい金色こんじきの光がRVマザーに向かって突撃する。

RVマザーは回避は困難だと思ったのだろう。

前面にガラスのような障壁を作り出した。

その障壁は変わっていた。

中央が突起のようなものになっていて、魔力の攻撃を受け流すようにできていた。

金光砲がRVマザーに直撃する。

RV マザーの目論見通り、金光砲は屈折するように受け流されていった。

後には無傷のRVマザー。

「この攻撃を防ぐなんて……」

セリオンが飛び出した。

セリオンは光の大剣「光輝刃」でRVマザーを斬りつけた。

RVマザーは何の反応も示さない。

斬撃を浴びたなら、何かしら反応があってもよさそうである。

「手ごたえはなし、か……」

実際、セリオンは確実にRVマザーを斬ったのだ。

手ごたえがあったならまず感じ取るはずである。

それがなかった。

セリオンはこの敵に対して有効な攻撃を見つけ出せないでいた。

RVマザーの「雷電雨らいでんう」。

雷電雨は広範囲に一度にたくさんの雷を降り注がせる魔法である。

しかし、この魔法は一度にたくさんの敵を攻撃するのに力を発揮するのであって、たった二人の敵に使用するような魔法ではない。

メリットと、コストパフォーマンスが低いのだ。

すさまじい雷の雨が降り注ぐ。

セリオンは同じ雷で相殺を図った。

エスカローネがまるで雨から避難するようにセリオンのそばにやって来た。

セリオンは大剣を上にかかげていた。

この魔法は周囲のいろんなところに雷が落ちてくるので、むしろ動かないでじっとしていたほうが攻撃をかわせるのだ。

「エスカローネ、奴を攻撃しろ!」

「わかったわ! 聖光矢!」

エスカローネがハルバードの先から、聖なる光の矢を何本かRVマザーに放った。

それらは一直線にRVマザーに向かった。

そのうちの一本がRVマザーの目をかすった。

「グギイイイイイイイイ!?」

RVマザーが苦しみだす。

それはまるで弱点を露呈させたかのようだった。

「セリオン、目に対しての攻撃なら有効なようよ!」

「よし、決める!」

セリオンは光輝刃を出すと、光の大剣でRVマザーの目を斬り捨てた。

RVマザーの目が斬れに両断される。

そのとたんに、RVマザーの体が崩壊していく。

RVマザーは影も形もなく消滅した。

「な、何だと!? こんなバカな!? 私の研究成果が!?」

「東条、次はおまえだ」

東条がうろたえる。

すると、東条はポケットから注射を取り出した。

「ククク、これで終わりだとは思うな! ラハブ・ウイルスの真価を今、ここで、味あわせてくれるわ!」

東条は注射器を自分の腕に突き刺した。

その瞬間から東条の姿が変質していく。  

ラハブ・ウイルスを自身に注入したことで、「ラハブ化」しているのだ。

「クヒャーハッハッハッハ! これこそラハブ・ウイルスの真の力! これこそがラハブ・ウイルスの本当の力! さあ、殺してやるぞ、セリオン・シベルス……。!?」

東条の変化が終わることなく、無情な刃が振るわれる。

セリオンは東条がしゃべり終わる前に大剣で東条の首を斬り落とした。

東条はそのまま倒れた。

亜空間はすみやかに解除され、元の部屋に戻った。


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