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Das Heldenlied Neu ヘルデンリート・ノイ  作者: Siberius
Neu Drei Orpheus
73/196

解放

クリスティーネがフリッシュの首の脈を測った。

クリスティーネはセリオンのほうを向いて、首を振った。

ヘルマン・フリッシュは死んだ。

「おまえは?」

フリッシュを闇の槍で殺したのは褐色の肌の大柄の男だった。

「俺はヒュブリダ(Hybrida)。テロリスト集団オイレンシュピーゲルの首領だ。おまえこそ何者だ?」

「俺はセリオン・シベルスク。テンペルの騎士だ」

「テンペル? なんでそんな組織の人間がこのアカデミーにいる?」

ヒュブリダは驚きつつも。

「俺がここに来たのは偶然だ。俺はヒルデブラントさんに会いに来た。その最中におまえたちがテロを起こしたというわけだ」

「フム……まあ、いい。全生徒の命はこの俺が握っていることは忘れるな。おまえたちは余計なことはしないでカネを支払えばいいんだよ。講堂には爆弾が仕掛けてある。タイマーはこの俺が握っているぜ。いいか、へたなことは考えるなよ。もしも不用意な行動をするようだったなら、ドカーンと大きな火柱が上がるぜ? じゃあな!」

ヒュブリダは走っていこうとした。

「待て! 逃げるのか!」

「ハッハッハ! 自分の命は大事にしないとな! アークデーモンを倒しちまうような奴にこの俺が勝てるわけがないだろう? あばよ!」

「逃がすか!」

セリオンはヒュブリダを追撃しようとした。

ここで逃がせば後先厄介なことになりそうだ。

必ずここでヒュブリダを討ち取る。

そうセリオンが思っていた時。

廊下の足元から、魔法陣が浮かび出た。

「くっ!?」

これはトラップだった。

ヒュブリダはあらかじめセリオンから逃げるためにこんなものを設置していたのだ。

セリオンはとっさに跳びのいた。

その瞬間、爆発が起きた。

さらにトラップはそれだけでなく、煙を発生させ、視覚でもヒュブリダを遮る。

爆発と煙はヒュブリダを逃がすには十分な時間を与えた。


「ボス! お帰りなさいませ!」

「ボス! 無事で何より!」

「ふう……内通者のフリッシュがやられた」

「ヘルマン・フリッシュが?」

正確にはフリッシュを殺したのはヒュブリダだったが……

ヒュブリダの認識ではフリッシュはセリオンに殺されたことになっている。

フリッシュの死に責任があるのはセリオンだとヒュブリダは考えていた。

「アークデーモンを倒すような奴が今このアカデミーにいるぞ? 気をつけろよ?」

ヒュブリダは講壇のあるところを見た。

講壇には一つの爆弾が乗っていた。

タイマーがセットされており、いつでも起動可能だ。

ヒュブリダが傲岸不遜な笑みを浮かべる。

まるで生徒たちの命は自分が握っていると言わんばかりの顔だった。

命を握る……ヒュブリダにとってはそれは快感であり、優越感をもたらすのだ。

生徒たちはみな不安そうだった。

無理もない。

生徒たちは暗い表情を浮かべていた。

全員が無言である。

しゃべらないようにテロリストから言われていたからだ。

生徒たちは反抗する気力がなかった。

反抗するには実戦経験が十分ではなかった。

生徒たちはもう3時間も拘束されている。

一部の勇敢な生徒はテロリストに斬り殺された。

そういう生徒は見せしめにされた。

どうやらテロリストはただ冗談でオイレンシュピーゲルと名乗っているわけではないようである。

テロリストたちは明らかに闇の力に通じていた。

つまりこのテロは闇とかかわっていたのだ。

闇が光の世界に侵入してきたのである。

そしてこのテロリストたちは明らかに訓練されていた。

ツヴェーデン軍ですらそう簡単に鎮圧できるとは思えなかった。

生徒たちは暗く静かにしていた。

教師たちの一部はヒュブリダに攻撃を仕掛けたが、すべて粉砕された。

もはや絶望しかないように生徒たちには思われた。

希望はあるんだろうか……。


セリオンとクリスティーネは現状分析のため、図書館に入った。

クリスティーネはノートパソコンで講堂の情報を把握しようとした。

このノートパソコンはクリスティーネの仕事道具である。

秘書としての仕事には欠かせなかった。

ノートパソコンに、講堂の情報が表示されていく。

クリスティーネは講堂のカメラをハッキングして内部の様子を画面に出した。

「クリスティーネ……ハッキングなんてしていいのか?」

セリオンははんばあきれた。

「かまいません。今は非常時です。平時の理は無効となり、非常時の理が支配するのです」

クリスティーネはテーブルの前でイスに腰かけていた。

ノートパソコンの画面に黒い物体が表示された。

「クリスティーネ、この黒い物体をチェックしてくれ」

「はい……これは……爆弾です」

「これがヒュブリダが言っていたやつか。奴らは講堂に立てこもっている。ヒルデブラントさんがカネを用意するまでは、奴らは講堂に立てこもるつもりか……」

時間が刻々と時を刻んでいった。


ヒルデブラントは100万ドゥカーテンを用意して、講堂に向かった。

「待ってたぜ、校長センセ」

ヒュブリダはヒルデブラントの到着を心から喜んで迎えた。

これで計画どうり。

多額のカネが手に入る。

もちろん、分配することにはなるが自分はボスだ。

一番大きなマージンを取ることができる。

「約束だ。生徒たちを解放しろ」

ヒルデブラントがヒュブリダに詰め寄った。

ヒルデブラントからは険しい表情が読み取れた。

ヒルデブラントは生徒たちが解放されるまで油断していなかった。

「はっはっは! おい、カネを預かれ!」

「は! ボス!」

「おい、召喚しろ!」

「は!」

テロリストたちは召喚魔法を発動した。

召喚されたのは黒いカラスの悪魔キキーモ(Kikiymo)だった。

「!? どういうことだ!? カネを払えば生徒たちは自由にする約束じゃなかったのか?」

「ハッハッハ! 自由にはさせるさ! この世のしがらみからの自由をな! これはあるかたからの指示なんだよ。指示の内容は教師・生徒すべて『皆殺し』だったな!」

「そうはさせない!」

そこにセリオンが現れた。

「やれやれ、英雄様の登場か。キキーモども! こいつをやっちまいな!」

ヒュブリダは余裕の表情を崩していない。

ヒュブリダにはセリオンを倒せる自信があるようだ。

セリオンに悪魔キキーモたちがいっせいに襲いかかる。

セリオンは大剣で群がるキキーモたちを次々と斬り殺していった。

白刃が舞うたびにキキーモたちは殺されていく。

これは一種のショーだった。

セリオンが持っている大剣はかなりの重量と大きさを持つ。

セリオンはそれをまるでナイフでも扱うかのように、軽々と振り回し、敵を斬り刻む。

セリオンの強さは圧倒的だった。

キキーモは決して弱くない。

キキーモはツヴェーデン軍の精鋭部隊に匹敵するほどの戦闘力を持つ。

セリオンの強さが光り、講堂に希望をもたらしていく。

生徒たちの顔に生気が戻りつつあった。

セリオンは物の数分でキキーモを片づけた。

「くそがっ! これでも通じないだと!?」

「おとなしく投降しろ。そうすれば命は助けてやる」

セリオンが慈悲を示す。

セリオンからしたら、このまま斬殺してもかまわないのだが……。

倒されたキキーモたちは茶色い粒子状になって消滅していった。

「フン! もはやこれまでよ! これで終わりだぜ!」

ヒュブリダはリモコンのスイッチを押した。

爆弾のタイマーがカウントダウンを開始した。

どうやらヒュブリダは心中するつもりらしい。

もはやこれまでと、ほかの人間を道ずれにするつもりだ。

「!? 爆弾のスイッチが! まずい! このままでは生徒が! くっ! 間に合うか!」

セリオンは身体強化魔術で全身を強化し、一気に爆弾まで疾走した。

セリオンは爆弾に近づき、氷の力で爆弾を凍らせた。

爆弾のタイマーの動きが止まった。

カウントダウンは阻止された。

「なっ!? 爆弾が! カウントダウンが!」

ヒュブリダは目を見開き、大きく口を開けて驚愕した。

セリオンが振り返る。

「さて、今度こそおしまいだな。できれば今後背後にいる連中のことも含めて生かしたまま捕らえたいが……」

「はっ! 俺が口を割ると思ったか!」

ヒュブリダは絶対にたとえ拷問を行っても背後にいる存在についてはかないだろう。

どんなに痛めつけてもはきはしない。

セリオンはそう思った。

「ハッハッハ! 楽しかったぜ、小僧! ここで死ぬのは残念だがもはやこれしかねえ! 有終の美を飾らせてもらうぜ! 闇爆!」

「闇爆」は闇の爆発魔法だ。

光の爆発魔法「光爆」と対になっている魔法だ。

効果範囲は術者の力量次第で広くも狭くもなるし、その範囲を制御可能だ。

ヒュブリダは闇の爆発魔法を自分に向けて放った。

爆風が周囲の人間たちに吹き付ける。

熱量が吹き荒れる。

爆発が収まった後、ヒュブリダの姿はどこにもなかった。

ヒュブリダは爆死し、消滅した。

突如、黒装束のテロリストたちが自分で自分を剣で刺し始めた。

「なっ!? これは……!?」

「すべて」皆殺しとの意味は「テロリストたちを含めて」ということだった。

セリオンは一瞬でそのことを理解した。

「つまり、テロリストも、生徒も、教師もすべて皆殺しにするつもりだったということか、この事件の黒幕は……」

「セリオン殿、あなたのおかげで生徒たちは救われました。ありがとうございます」

生徒たちは解放された。

ただ長時間拘束されていただけあって疲労困憊していた。

また、精神的なケアも必要だった。

ヒルデブラントは生徒たちをすみやかに親元に帰すよう、教師たちに指示を出した。

時を置かずして魔法省の官僚が到着した。

その中にはニクラスもいた。

生徒たちには精神や心のケアもかねて、ヒルデブラントは学校を二週間休みにした。

魔法省の官僚たちがあわただしく、校内に出入りしていた時。

その様子を、物陰から眺めている男がいた。

「ふう……ばれなかったようだな……ククク、うまくいったぜ。これであとはタイミングを測って逃げれば……クク、まさかこの俺が生きているとはセリオン・シベルスクも思うまい」

「そうはさせません」

そこに一人の女性が現れる。

女性は理知的で、聡明そうだったがどこか冷めたところがあった。

「!? おまえは!? いったい俺に何の用だ?」

「あなたにはここで死んでいただきます」

「へっ、女がこの俺を殺せると? なめるなよ?」

「あのかたからの命令です。死になさい」

女性は赤い長剣を出した。

「くたばりやがれ!」

ヒュブリダが剣で女性に斬りかかった。

女性は軽くヒュブリダの剣を受け止める。

「なっ!?」

ヒュブリダは驚きを隠せなかった。

自分の腕力と剣の一撃があれば、こんなやせ型の女などは軽くたたき伏せることができると思っていた。

ところが、女性は無表情のまま、長剣で防いでいた。

ヒュブリダは力を剣に込めるが、まったくびくともしない。

この女性の細い腕のどこにこれほどの力があるのか。

女性はヒュブリダの剣を押しのけると、ヒュブリダを斬り捨てた。

「ぎいやああああ!?」

ヒュブリダがのけぞる。

「終わりです。私はあなたに死を与えます」

女性は赤い長剣でヒュブリダの心臓を突き刺した。

ヒュブリダは倒れた。

その体から血があふれていった。

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