シュヴァスティング&クングルー
サタンが召喚円を描いた。
サタンは魔界の一勢力の主である。
魔界は多くの悪魔たちの勢力で構成されている。
それは大小さまざまで、彼らは多くの……悪く言えばまとまりのない勢力であった。
およそ、悪魔に団結とか、連帯とか、共働などどいう概念はない。
魔界は多頭社会=Polykratiaであり、魔界の秩序と、主従関係は強さと弱さに寄った。
つまり、強いものに魔界の民は従うのである。
サタンは魔界では主要な勢力の長であった。
それらはサタン派と呼ぶことができよう。
サタンを主とする一派である。
サタンは魔界に一つの勢力を確立している。
ほかにも魔界=Pandaimonionにはいくつもの勢力があるが、今はサタンとその一派のことにとどめておこう。
およそ強い者、優れた者ほど野心もまた遠大なものである。
サタンは魔界では有名な人物で悪魔王サタンと呼ばれていた。
魔界にはさまざまな王がいる。
王たちは自分の勢力を大きくすることに余念がない。
自派勢力と領土の拡大こそ、魔界では最高の価値を持っているのだ。
魔界は「力」がすべてであり、「強者」が上位者として君臨するのが当然とされている。
ゆえに自然に実力主義になる。
サタンは魔界に自分の勢力を持っている。
サタンの野望は地上に自らの領土「Lebensraum」を作り、サタン帝国を創設することだ。
サタンは支配地の人間は奴隷にしようと思っていた。
サタンからすればそれによって人類は平等になれるのだった。
「さあ、出でよ、狂月、シュヴァスティング(Schwasting)、クングルー(Kungrou)」
サタンは三つの魔法円から三体の悪魔を呼び出した。
狂月――凶悪そうな顔をした人型の悪魔。
シュヴァスティングはカラスの悪魔だ。
クングルーはカンガルー型の悪魔だった。
「よう、サタン様! 俺たちを呼びだすなんて、コマたちの働きがそうとう悪かったのかい?」
狂月が獰猛な顔を見せた。
「うむ……我らが地上に呼び出した者たちは、一人の男によって倒されてしまった」
「一人の男だって!? いったい誰だ、そいつはよ!」
「おい、狂月! サタン様の前で何という言葉使いをしているのだ! 改めろ!」
「そのサタン様のために聞いているんだろうが」
「一人の男って誰なんですか、サタン様?」
「それはな、セリオン・シベルスクという男だ」
「セリオン・シベルスク?」
「テンペルという組織の『英雄』だ」
「英雄、ねえ……」
狂月がサタンの言葉に喰いついた。
「サタン様よ、そいつは強いのかい?」
「強いぞ。なにせ、多くの同志たちや手下が奴一人に倒されたのだからな」
「へえ……そいつはいい相手になりそうだぜ。なあ、サタン様よ、そいつには俺をぶつけてくれねえかい?」
「もちろんだ、狂月。そのためにおまえを地上に呼び出したのだからな。セリオン・シベルスクと戦いたいなら、彼が大切に思っているものを襲うといいだろう」
サタンが口を歪めた。
「その大切なものってなんだ?」
「うむ。つまり、この都市シュヴェーデを攻撃し、住民を無差別殺戮することだ」
サタンの究極の目的は「邪神」として魔界と地上の双方に君臨することである。
「邪神」とは神への冒涜である。
神は唯一である。
したがって「邪神」などという存在などありえないからだ。
シュヴェーデは突如何者かに襲撃された。
その情報はただちにテンペルにもたらされた。
セリオン、アンシャル、アラゴンの三人がシュヴェーデの町に散った。
シュヴェーデの都市と、シュヴェーデの住民を狂月たちは襲っていた。
「いったい、どこの誰がシュヴェーデを攻撃しているんだ? わが夢の町を襲うとは!」
アンシャルに対して、上空から回転するナイフが投擲された。
「何者だ?」
アンシャルは上空を見た。
アンシャルの前に満月の光からシルエットが浮かび上がった。
それはカラス男だった。
「クハッハッハ! その長い金髪に、白いコート……テンペルのアンシャル・シベルスクとお見受けする」
「その通りだ。おまえたちはなぜ町を攻撃した?」
「クハハハハハ! それはな、テンペルの騎士たちをおびき寄せるためだ!」
「なんだと!? ならなぜテンペルを攻撃しなかった?」
アンシャルの顔がけわしくなる。
「それはな、サタン様がこうおっしゃった。相手が大切に思うものを攻撃せよ、と!」
「ゲスだな。サタンの奴が考えそうなことだ」
「クハハハハー! あのお方が考えていることはしょせん、我々には理解できんのだ! それほど遠大な思想だからな!」
シュヴァスティングは地上に降り立った。
「それではアンシャル・シベルスク! この俺と戦ってもらおうか!」
シュヴァスティングがナイフを構えた。
アンシャルも長剣を出す。
「望むところだ」
アンシャルは厳しい目でシュヴァスティングを見た。
シュヴァスティングはナイフを投擲してきた。
「くたばれ!」
ナイフが回転してアンシャルのもとへ向かう。
「風切刃!」
アンシャルは風の刃でナイフを無力化する。
「まだまだ行くぜ! ほらよ!」
シュヴァスティングによるナイフの投擲が続く。
シュヴァスティングは両手から二本のナイフを投げつけてきた。
アンシャルは風の刃を放った。
アンシャルの攻撃はナイフを撃墜した。
シュヴァスティングは一気に上空に登り、降下してきてアンシャルを斬りつけた。
「くらえ!」
「おっと!」
アンシャルは上空からの攻撃をかわした。
シュヴァスティングはナイフで連続攻撃をしてきた。
アンシャルはそれを見切って、長剣でガードする。
アンシャルはシュヴァスティングに斬りつけた。
アンシャルの剣がシュヴァスティングのナイフに阻まれる。
アンシャルはさらに攻撃を続けた。
「ぐぬう!?」
シュヴァスティングは防戦一方となった。
「風翔斬!」
アンシャルは風の斬撃を繰り出した。
それをシュヴァスティングは上空へとはばたいて回避した。
「地上戦は俺に不利のようだな。ならば空中戦で勝負を決めよう」
「フッ、さすがサタンの部下だな。フェアプレイではなく一方的になぶる方向で来るか」
「ククク、挑発には乗らんよ。おまえはこの俺を挑発してわざわざ地上戦に持ち込みたいのだろうが、この俺が空中戦を選ぶのはむしろ卑怯だからだ! さあ、逝ねい!」
シュヴァスティングが上空からナイフを投げてくる。
アンシャルは風切刃でナイフを撃墜する。
「多連・風翔槍!」
シュヴァスティングが多くの風の槍を放った。
「フッ、多連・風翔槍!」
アンシャルも同じ魔法で対抗した。
威力はアンシャルの方が上だった。
アンシャルの風の槍はシュヴァスティングにまで迫った。
「うおおおおおお!?」
シュヴァスティングは身を守って風の槍を受けた。
その隙を逃すアンシャルではない。
アンシャルは大きくジャンプすると、風振剣でシュヴァスティングの首を切断した。
シュヴァスティングは落下した。
「アーハハハハハ! 破壊って楽しーなー! もっともっとぶっ壊してやる!」
カンガルー型の悪魔クングルーが言った。
クングルーは商店街を襲っていた。
クングルーは炎の使い手だった。
「そこまでだ!」
そこにアラゴンが現れた。
「おやー? おじさんは何かなー?」
「私はテンペルの聖騎士だ!」
「テンペル! よーやく会えたなー! テンペルのものを消せって、サタン様から言われているしなー!」
「やはりこれもサタンのしわざか……サタン……10年ぶりになるのか」
「アーッハッハッハ! さあ、おじさん! このぼくと勝負しよーよー!」
「望むところだ! この私の戦いをここで見せてやる!」
アラゴンは黒い長剣を抜いた。
クングルーは爆炎を放った。
アラゴンに爆炎が迫る。
アラゴンは手にした長剣に黒い炎をともした。
アラゴンの炎――炭火だ。
アラゴンは黒炎剣でクングルーの爆炎を斬り捨てた。
斬り捨てられた爆炎がアラゴンの背後で爆発した。
「むー! ぼくの炎を斬るなんてよくできたな―! だけれどこのぼくの真骨頂はこれからなんだなー!」
クングルーは両手の拳に炎を集めた。
それから炎の拳でアラゴンを攻撃してきた。
「はああああ! 火炎拳!」
クングルーの炎の拳がアラゴンを襲う。
「ほらほらほら!」
「フン! 炎の拳だけならそれほどの脅威ではないな!」
「そーだねー! でもこれならどーかなー? は! 火炎脚!」
クングルーは炎の脚を出した。
「むっ!?」
アラゴンはガードしたものの吹き飛ばされた。
「アッハッハッハ! どうだい? 見たかい、このぼくの攻撃を!」
「やれやれ、小僧と思いきや、なかなかやるものだな。私も真剣にならないとな」
アラゴンが起き上がった。
「むー! あの蹴りをくらってよく立ち上がれるなー!」
「次の一撃ですべてを決める!」
「その誘い、受けて立つよー!」
アラゴンとクングルーは構えた。
二人は目を合わせた。
アラゴンとクングルーが互いの技を出す。
二人の位置が入れ替わった。
アラゴンは光の炎「光炎剣」を出した。
「手ごたえはあった! 私の勝ちだ!」
アラゴンが振り返ると、血を流して倒れていたクングルーがいた。
「そんな……このぼくが……ウソだろ……」
クングルーは黄色い粒子と化して消えていった。




