先生
リントはアジトで酒を飲んでいた。
リントたちは人間の血から強くなれることが分かると、無差別に人間を襲うようになった。
先生による狂化は彼らから正常な理性を失わせていった。
「リントさまー!」
「あーん? うるせえな……いったい何だ?」
「ギーク様がやられました!」
「なにい!? ギークがやられただと!? いったいどこのどいつがギークをやったんだ?」
「それが……テンペルのセリオン・シベルスクと名乗りました」
「セリオン・シベルスク!? テンペルの英雄、青き狼か! くそっ! なんてこった!」
「どうしたのかね?」
そこに「先生」が現れた。
「先生よお、これ以上危ない橋は渡れねえぜ。テンペルのセリオン・シベルスクなんて恐ろしくて手が出せねえ! 俺たちはもうあんたの言うことはきけねえよ! まずはアジトを別の場所に移さないと……」
「ふう……協力しないというのか。あれだけ『狂化』されておいて、恩も返さないのかね?」
「先生よお、パワーアップのことは感謝しているぜ。だが、あのセリオン・シベルスクに立ちはだかった奴はみんな死んじまった。俺は自分の命が惜しい。これ以上あんたには従えねえ!」
「……フウ……協力しないというのか」
先生はわざとらしく大仰にため息をはいた。
「よかろう。では真に狂化しようではないか」
「? どういうことだ? 真の強化?」
先生は右手からある波長の波を闘牛団に送った。
「ぐああああああああ!?」
リントの絶叫がこだました。
「狂化の恩返しをしてもらおうじゃないか。これで君たちは死への恐怖を克服した。クックック、ファーハハハハハ! テンペルを襲い、セリオンの血を手に入れろ!」
テンペルに衝撃が走った。
テンペルの前に、狂化リザードマンの群れが現れた。
聖堂騎士団は全員が武装して出撃した。
双方の勢力はにらみ合いを続けた。
「ククク、テンペルの者どもよ! 我らはあるお方からの使者だ! テンペルには地上から消えてもらいたい!」
狼の悪魔フェンツァー(Fenzer)が言った。
「オーホッホッホッホ! 醜いものなど滅びておしまい! 今日がテンペル最後の日となるのよ!」
狐の悪魔フクセリン(Fuchselin)が言った。
彼女は直立していた。
「きさまらの言う通りになると思うな! 我々聖堂騎士は己の命が燃え尽きるまで戦う! テンペルは民族的、兄弟姉妹の信仰共同体だ! 我々はそれを守って見せる!」
スルトが高らかに宣言した。
「ククク、やはり実力行使しかないか」
「オーホッホッホ! あのお方もそれを望んでいますよ。命の美しさはそれが死を前に散る時、最も美しくなるのですから!」
「スルト」
「? どうしたのだ、セリオン?」
「あの赤いリザードマンはこのあいだ俺が戦った奴だ。いかに聖堂騎士といえども苦戦するだろう。そこで一つ提案がある」
「その提案とは何か?」
「俺ともう一人であいつらの指揮官を叩く。そうすれば、このリザードマンの群れを逃亡させることができるだろう。こいつらは死への恐怖を消されているようだが、生物としての本能まで消されたわけじゃない」
「ふむ……おまえの言っていることも一理あるな。いいだろう。もう一人はアンシャルにしたいが、それでいいか?」
「ああ、かまわない」
「では、アンシャルに使いを送ろう」
スルトはアンシャルに出撃の使者を送った。
セリオンたちはリザードマンの突撃を受けてぶつかり合った。
街路で聖堂騎士とリザードマンが戦いあった。
聖堂騎士の力はツヴェーデン軍エリート兵に匹敵する。
しかし、そんな彼らでも狂化リザードマンの相手は厳しいようだった。
セリオンとアンシャルはリザードマンの群れを抜けて、後方にいたフェンツァーとフクセリンを目指し、対峙した。
「ククク、わざわざご苦労なことだな。そちらから来てくれるとは、こちらから行く手間が省けた」
フェンツァーがセリオンに鋭い目を向けた。
「能書きはいい。始めるのか、やらないのか、どちらだ?」
「ククク! こんな楽しい戦いはめったにあるわけじゃねえからなあ! さあ、俺とやり合うぜ! マジでな!」
フェンツァーが氷の剣を二本逆手で出した。




