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Das Heldenlied Neu ヘルデンリート・ノイ  作者: Siberius
Neu Zwei Proserpina
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精神の危機

ディオドラはアンシャルに夢のことを相談した。

「そうか……夢でそんなことが……」

「兄さんはどう思う?」

「私は自分の人生を不幸だと思ったことはない。私はセリオンの父として役目を果たしてきたつもりだ。だが、セリオン自身の生きる意味や目的はセリオンにしか答えられない。誰もその解答を知らないんだ。この私も含めてな」

「兄さんは自分が生きている意味について考えたことはあるの?」

「私も考えを巡らせた時がある。私にとって人生とは Spiro,spero. 我息する限り希望を持つとかな」

「私は自分の人生は神に仕えることだと思っているわ。私は神の望みをかなえるために英雄の母になったけれど……私はあまり自分を前面に立てないようにしてきたわ。セリオンが幼かったころは私が守ったりすることがあったけれど、セリオンが大人になってからは意識的に距離を取るようにしてきたの……だって、セリオンが乳臭いなんて言われさせたくないもの」

「そうだな。子供はいつか大人のもとから独立しなければならない。セリオンも同じだ。だが、セリオンが私たちと違うのは、エスカローネという伴侶がいることだ。それはあいつにとって救いだ」

「そうね。愛し、愛される存在がいるんですもの……」

「だがセリオンも、人生の目的を、生きる意味について考える時が来たとも言えるな。これを考えているあいだは苦しく、つらいだろう。セリオンが苦しむとはそういうことだ。レミエル様が言った通りだよ。私たちには相談に乗ってやるくらいしかできない。だが、大丈夫だ」

「兄さんはどうしてそう思うの?」

「私にはあいつにはふしぎな力があって、問題を独創的に解決できる力があると信じているからだ。セリオンなら信じられる。それはあいつが英雄だからだ」

「そうね。私もセリオンを信じているわ。きっとセリオンなら答えを出してくれる。いえ、きっと出せる。そう思うの」

「自分の人生に意味を見出せるかは自分で気づくしかない。結局他人の答えではだめなんだ。セリオンにはセリオン自身の答えが必要なんだ。それはセリオンが個性的であればあるほど難しくなるだろう……私たちにできることはただ、あいつを信じてやることだ。もっともセリオンなら答えを出せるさ」


セリオンは訓練場で大剣を構えていた。

セリオンは深い危機にあった。

それは二つのことが頭から離れなかった。

一つは自分の存在について。

もう一つは生きる意味について。

セリオンは一人だった。

一人で訓練場にいた。

セリオンは悩んでいた。

そして苦悩していた。

自分はいったい何者なのか? 

自分の人生はいったいどんな意味があるのか?

ツヴェーデンは平和だ。

平和である時ほどこんなことを考えるように人はなる。

セリオンは考えていた。

自分は何者か? 

自分はディオドラの息子、そして英雄、青き狼。

しかし、それがどうだというのだ?

今のセリオンにとってそんなことはどうでもよかった。

自分は神の子であることもセリオンは知っていた。

神はなぜ俺を創造したのか? 

戦いのためか? 

それとも愛のためか?

この問題の答えはほかならぬ自分=Ichが出さねばならない。

「俺はいったい何者なんだ? そして俺の人生の意味とは?」

セリオンは自分に問い続ける。

「……これも戦いか。もっとも精神的な戦いだが……だめだな……自分一人で考えていても『公式見解』ばかり思いつく。俺は英雄だ。それも俺は望んでいる。だが英雄とはなんだ? それは竜を倒した者だ。暴竜ファーブニルを俺は倒した。それから俺は英雄になった。だがこれも違うような気がする。俺はいったい何なんだ? これは俺が己の存在の意味を問い詰めているんだ」

セリオンは大剣を振るった。

「これも精神の戦いだ。俺は必ず答えを見つけて見せる。……少し、頭を冷やすか」

セリオンは庭の方に歩いて行った。

セリオンは無意識にディオドラがいそうな所へと歩いて行った。

ディオドラは庭にいた。

庭で花に水をやっているようだ。

「母さん、花に水をやっているのか?」

「あら、セリオン。うふふ、今日はエスカローネちゃんといっしょじゃないのね?」

「それは俺がいつでもエスカローネといっしょにいるみたいじゃないか」

「違うの?」

「まあ、違わないが」

「ねえ、セリオン?」

「? どうしたんだ?」

ディオドラは神妙な顔をした。

「セリオンはいつでも私の息子よ。どこにいたって……私にはあなたの苦しみを助けてあげることはできないわ。その苦しみはあなた自身の成長のためでもあるのよ」

セリオンは目を見開いた。

どうやらディオドラに隠し事はできないらしい。

「よくわかったね。俺が悩みかつ苦しんでいることに」

「うふふ……あなたは悩むと一人きりになりたがるでしょう? 昔からそうだったわね」

「俺は頭で考えてから行動するタイプじゃない。まず、行動するタイプだ。だから、考え事も行動といっしょになる」

「セリオンは自分の何について悩んでいるの?」

「俺は自分がどういう存在か知りたいんだ。そして自分の人生の意味を知りたい。俺は生きている。だが、人間はただ生きていくことはできない。人は生きていくために目的を必要とする。思考停止した人間ならこんなことは考えない。俺はこの問いから逃げるつもりはない。俺は生きていい存在なのか?」

「セリオン、あなたは多くの人から愛されているわ。スルト様からも、アンシャル兄さんからも、エスカローネちゃんからも、そして私からも。あなたはこの世界に存在していいのよ。いえ、だからあなたには生きていてほしいって、みんな思っているのよ。あなたがいないテンペルなんて考えられないでしょう?」

「少しだけ、気が安らいだような気がする。ありがとう母さん。ほかの人にも相談してみるよ」

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