闇の理
国会議事堂にて。
その日は快晴だった。
風は穏やかで、日は暖かく町を照らしていた。
そんな日にホフマン(Hoffmann)首相は演説をしていた。
そこに一人の黒いドレスを着た、黒い髪をポニーテールにしている女が入ってきた。
「何かね、君は?」
「フフフ……政治は闇の祝福を受けよ。これより、ツヴェーデンを闇が支配する! 闇が主人となり、闇の理が君臨するのだ! さあ議員どもよ! 闇の祝福を受けよ!」
近くから軍靴の音が聞こえる。
それは議場に近づいてきた。
扉が開いた。軍の兵士がサーベルを抜剣して、議会になだれ込んできた。
「ぎゃああああああ!?」
「うわあああ!?」
「誰か―!」
議員たちは一人残らず、兵士たちによって殺害された。
これは殺戮だった。
それも一方的な。
血が議会に流れ、民主主義は踏みにじられた。
関係者も一人残らず、虐殺された。
ホフマン首相は一人残された。
ホフマン首相は震えていた。
「いったい何が目的だ! 議会を踏みにじっておいて、ただで済むと思っているのか!」
「無論だとも。我々は闇の政権を建てる。ツヴェーデンは闇の国となるのだ。『救国軍事政権』が立法、司法、行政をすべて支配する」
「バカな! ツヴェーデンは自由で民主主義の国だ! 闇だか何だか知らないが、我々は決して屈しない!」
「そうか。ならおまえには死しか残されていない。凍れ!」
ホフマン首相の体が凍り付いていく。
「なっ!? これは!?」
ホフマン首相は氷漬けにされた。
「私はアルテミドラ(Artemidora)。暗黒の大魔女アルテミドラだ」
ツヴェーデン全体に激震が走った。
政府は転覆され、「救国軍事政権」と名乗る政府が樹立された。
結局のところ、「救国」とつけようとも軍事政権であることに変わりはない。
つまり、自由も、民主主義も、人権も圧殺されるということだ。
アルテミドラという魔女が軍事政権のトップとなった。
突如、魔女が闇による支配をもくろんできたのだ。
軍事政権は発足後、パレードを催した。
それは市民たちを威圧する目的で行われた。
パレードはシュヴェーデの町を広く大きく巡った。
シュヴェーデ市民はデモを起こした。
魔女アルテミドラがいる宮殿に押し寄せたのだ。
市民たちは口々に自由や民主主義や人権をスローガンに掲げた。
宮殿の窓から、アルテミドラが姿を見せると、バッシングはさらに強くなった。
「自由と民主主義万歳!」
「アルテミドラは退位しろ!」
「アルテミドラのくそったれ!」
「アルテミドラの支配は認めない! 断じて認めない!」
市民たちはアルテミドラを侮辱に近いほど批判した。
しかし、アルテミドラの政権ではアルテミドラを批判する自由はないのであった。
「愚かなる市民たちよ。氷の祝福を受けるがいい!」
アルテミドラは手を上にかかげた。
すると氷の塊が次々と市民に降り注いだ。
「氷天花!」
「うわあああああ!?」
「ぎゃああああ!?」
「きゃああああ!?」
市民たちは氷漬けになって息絶えた。
「これがアルテミドラを批判するとどうなるかということだ。おまえたちには二つしか選択肢はない。すなわち、従属か、死か、二つに一つだ。好きな方を選ぶがよい。私はアルテミドラ。暗黒の大魔女アルテミドラだ」
「アルテミドラ様に従属せよ」
テンペルにアルテミドラの使節がやって来た。
道は二つ。従属か死か、好きな方を選べ、とテンペルは迫られた。
もちろんテンペルはこの要求を拒否した。
使節はニヤリと笑いながら去っていった。
マイヤー(Meyer)大佐はツヴェーデン軍歩兵部隊を展開させた。
それに対してスルトは全聖堂騎士の前で演説した。
「戦友諸君! 諸君らは今、テンペルを守るか、守れないかの瀬戸際にいる! かつてテンペルがここまで脅威を受けたことはない! この戦いはもはや普通の戦いではない! 魔女との戦争だ! テンペルの聖堂騎士諸君! テンペルはシベリア人の信仰共同体として創設された。テンペルの兄弟姉妹はいわば大きな家族だ! 今のツヴェーデン軍に屈した場合、我々の家族は戦争の理のもとに置かれるだろう。すなわち略奪、破壊、暴行、強姦といった悲劇が起こる。諸君らも守るものがあるはずだ。戦略は私が考える。戦術は現場指揮官が考える。私は諸君らに、実戦を、本物の戦争を行うことを求める! いいか、敵は魔女の魔法によって頭をおかしくされた者たちだ。我々が軍事的合理性にもとづく戦いをすれば必ず勝つ! 普段の訓練以上の成果を、私は諸君らに期待する! 戦友諸君! いざ戦いの時だ! 聖堂騎士団出撃する!!」
スルトは幅の狭い、道となっているエリアを戦場に選んだ。
ここなら少数の側が有利に立ち回れるからだ。
大規模な軍隊は展開しずらく、動きにくい。
テンペルの聖堂にはこの攻撃を見越して、大量の補給物資が運び込まれていた。
長期戦の構えも十分だった。




